5、昨日の敵は今日の奴隷
宗太は一旦両親への復讐を終えた。
朝、短い睡眠から覚醒すると、酷く怯えた表情の父親がいた。
宗太はそれを見て、必死に笑いを堪えた。これから毎晩、この夢を見せるのだ。
ならば、現実の出来事なのか夢なのか区別がつかないくらいの方が不気味で、より大きな恐怖を与えることができる。
さらに、母親の方も酷く窶れていて、見ていて滑稽だった。
翌朝、宗太は意気揚々と登校する。
昨晩寝れなかった為に眠気はあるが、それ以上に昨晩の復讐による興奮が身を支配する。
家から学校までの短い道程を歩く宗太は、今日に限って笑顔だった。
勿論普段は浮かべないような笑顔は誰が見ても気持ち悪いと思うようなものだ。
宗太本人にそんな自覚はないが、宗太以外の誰が見ても気持ち悪いと言ったであろう。
「気持ち悪ぃんだよう!」
そんな顔をしていれば当然、誰かしらがそんな言葉を言い放つ。
すれ違いざまに悪口を飛ばしてくる同級生達を、宗太はイラッとしながらも放っておく。
両親を絶望の底に落として気分が良かったのと、これからの復讐を思い描いていたのが幸いし、我慢に成功する。
どうせ後でこいつにも復讐をするのだから、ここで面倒なことにしても仕方がない。
教室に入ると一斉に視線がこちらに向くが、大半がすぐに興味を失って視線を元に戻す。
机が汚されているのは、最早当たり前のことだ。毎日人の机に細工するなんて、余程の暇人なのだろう。
机をそうそうに片付けると、宗太はホームルームまでの短い時間を睡眠に費やすことを決め、その場で居眠りを始める。
しかし、寝ている時が最も無防備になるのは当然のことで、宗太のことをいじめるような人達は、こういうところを狙ってくるのだ。
「……ぐっ!?」
突然発生する腹への痛み。
宗太もこういう事態を想定して、魔法による対策はしてある。
だが、その備えは完璧ではない。完璧であればある程相手に違和感を与えてしまうし、復讐の面白みが薄れてしまう。
弱い者が突然強い力を持ってして復讐をするからこそ、相手は恐ろしく感じるのだ。彼らに恐怖を与える為には、まだ本気を出すべきではない。
かつての自分を演じる。
机に突っ伏していた顔を上げ、弱々しい目で睨み付ける。勿論その目に威圧感などがある筈もなく、嘲笑を浴びせられる。
「え!? 何その顔! それで威圧したつもりになってるの? ヤバ、滑稽だわ〜!」
「それな! こんなんで止めると思ってるのかなぁ?」
「ほら! もう一発!」
再度訪れる痛み。今度は頬だ。
視界がブレる。脳が揺さぶられて気持ち悪い。
イライラが募っていく。段々と、もう復讐をしてしまっても良いのではないかと思い始める。
だけど、まだ登校していないクラスメイトがいる。まだその時ではない。
しかし、呻きながらも反応が薄い宗太に怒ったのか、今度は足が踏み付けられる。
宗太は溜め息を一つ吐く。
また長く耐久しなければならないのかと思うと、酷く憂鬱だ。
――ガラガラ!
ドアが開く。
教室に入ってきたのは、担任教師だ。
昨日の夕方に復讐を成した相手でもある。
しかし当然のように、宗太をいじめていた手は止まらない。
今までは、教師が黙秘するどころかいじめに加担していたからだ。今回も同じように思ったのだろう。
しかし、今回は違う。
宗太は、周りのクラスメイト達にバレないよう、教師だけを鋭く睨む。
それだけで、宗太の復讐を受けて恐怖心を抱いた教師はヘコヘコしながらいじめを止める。
「お前達、なにやってるんだ!? いじめは最低だぞ!?」
彼にプライドなどはないようで、昨日まで自分もしていたことを平然と咎める。
これは、彼をこんな風にしてしまった宗太でさえも引くような光景だった。
もっと苦しめるだけ為に殺さなかった教師が予想外のところで役立ち、宗太は内心で喜ぶ。
このままいけば、さらに殴られるか、自身の力を使ってしまうかの二択しかなかった。
そこでこの教師の介入は、僥倖だった。
流石に教師に逆らうようなことはせず、不思議なものを見る目を教師に向けながらもクラスメイト達は大人しく去っていく。
宗太は、それを横目に机に突っ伏す。
復讐は昼に決行することにし、ようやく手に入れた平和な朝はゆっくりと眠るのだ。
昨晩は両親に最高の夢を見せていた為に、よく眠れなかった。
宗太は襲ってきた眠気に身を委ねるのだった。
本当は今回も復讐回の予定だったのですが、長くなりそうだったので分割しました。
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