4、復讐の夜闇は両親を飲み込む
ガタリ。
わざと音を立てて立ち上がる。
いきなりの大きな音に、両親が驚いた顔をした。
宗太は部屋の電気を消す。
部屋を夜の闇が包み込んだ。
両親は宗太の突然の行動に、ひたすら疑問を浮かべていた。
それは、当たり前のことだ。
宗太自身にも、唐突に燃え始めた復讐心の意味が分からなかったのだから。
「ど、どうしたんだい?」
宗太の怒りを察したのか、父親が焦ったような顔をしていた。
宗太が両親の前で怒りをあらわにしたのは初めてのことだ。
だからこそ、その怒りを察した父親は何かがバレたのかと、心配になったのだろう。
宗太はそんな様子の父親に向き合うと、睨み付ける。
父親はその視線に恐怖したのか、顔が引き攣る。
宗太はその反応を見てほくそ笑むと、電気が消えて生まれた『闇』に魔力を介して干渉する。
闇が蠢く。
闇の中に光は存在しない。人間の目は、光を受け取ることによって世界を認識している。だから、光を失った闇の中で、何かが動くのを視覚で捉えることは出来ない。
しかし――確かに動いた。
目で見ることが出来ないのに、確かに闇が動いたのが見えた。
それがどういう現象なのか、それを引き起こした宗太にすら理解出来なかった。
「ひいっ!?」
宗太にすら分からなかったのだから、両親がそれを理解できる筈がない。
直接的な矛先になった父親、さらには冷静な顔で成り行きを見守っていた母親までもが、その顔の上に明確な恐怖を浮かべる。
当たり前だ。オカルト的なものが排除された世の中で、闇が蠢くなどという現象は、通常起こりえない。
一度だけならば、見間違えだと考えるだろう。
しかし、闇は未だ継続して蠢き続けている。
深い夜の闇は、闇を深めるごとにさらにその動きを増していく。
直線的に、曲線的に、平面的に、立体的に……。
段々と、『闇』が分からなくなっていく。
闇とは何か。
闇は見えない。けれど見える。
闇は動かない。けれど動く。
そこに生まれるのは、混乱の渦であろう。
両親は、その現象が何か分からずに立ち尽くす。
宗太がさっきしたのと同じように、父親がガタリと音を立てて立ち上がった。
しかし、その音は宗太のようにわざと立てた訳ではなく、焦りと恐怖から生まれたものだ。
続いて、父親が一目散に駆け出した。
目指す先にあるものは……電話だ。
父親は、何度も転びながら、必死にそこを目指す。
警察を呼ぶつもりだろうか。呼ばれると復讐が遮られて、非常に煩わしい。
父親がそこに辿り着く前に、動く。
――父親の周りの闇が、父親を包み込んだ。
「…………っ!?」
何かを叫んでいるのは分かる。
しかし、叫ぶ声を全て闇が吸収し、何を言っているのか分からない。
「どうしたの!? 何が……何が起きたの!?」
それを見た母親が喚く。
言葉は疑問のようだが、向けている相手が定まらず、それが母親の心の揺れを如実に示している。
すぐに母親も闇で包み込もうと思っていた宗太だったが、闇の中で無様に叫ぶ父親と、喚き散らす母親を見て、先延ばしにすることを決める。
それ程に、二人の姿は見ていて気持ちの良いものだった。
「――――! ――――!?」
「大丈夫!? どうしたの!? ていうか何なのよこれ!?」
自然に口元がニヤける。
それを見た母親が宗太を睨み付ける。
「宗太!? 何なのよこれ!? あなたがやってるの!? あなたは弱かった筈じゃない! それなのにどうしてこんな変な力が使えるようになってるのよ! どうして私達にこんなことをするの!? 今まで育ててあげたのに!? どうして! ねえ! どうしてなの!? ……はぁ、はぁ……っ!」
迫ったきた母親が、宗太の肩を掴んで早口で捲し立てる。
宗太の目に自身の目を合わせながらそう怒鳴る母親の瞳には、恐怖よりも、疑問の方が色濃く浮かんでいた。
――今宗太が欲しているのは、疑問を浮かべる瞳ではなく、恐怖に怯える瞳だ。
途端に、冷めた。
喚き散らす母親を見て満たされていた宗太の心は、それを理解した途端に冷めきり、最早その喚き声が騒音としか思えなくなっていた。
闇が動く。
母親を包み込む。
「…………! …………!」
「――――! ――――!」
闇の中での叫び声が、二つに増えた。
そうだ。宗太が欲しかった、聞きたかった声は、この声だ。
宗太は、自身の心が満たされていくのを感じる。
闇に包まれて姿を消した両親。
しかし、宗太にはその闇の中から必死に脱しようとする両親の姿が、はっきりと見えていた。
「…………! ………………!!」
「――――! ――――――!!」
「ククククク……。クハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!」
夜の闇に響く、三種類の叫び声。
一晩中、その声は絶えることなく響いていた。
▽
――ガバッ!
果てしない闇に囚われていた気がして、宗太の父親は目を覚ます。
寝汗が冷えて寒い。軽く身震いする。
時計を見る。まだ、午前四時だ。太陽も昇っていない。
昨晩見ていた夢を思い出して、慌ててトイレに駆け込む。
「おえええええ、おええええええええええええ! ぐ、ぐおええええええええ!」
酷い夢だった。
どこまで、どこまでも真っ暗闇。
動いても、叫んでも、何をしても解放されることのない、果てのない闇。
「どうかしたの?」
背後から掛けられる声。
そこに居たのは――息子だった。
その顔を見た瞬間、二度嘔吐感が襲ってきた。
いつもの、気弱な笑顔。それが今は、悪魔の笑顔に見えた。
――それから死ぬまで、彼は毎晩、果てしない闇を彷徨い続けた。
更新が滞って申し訳ございません。
来週が終わるとリアルが落ち着くと思うので、しばしお待ちを……。
あ、ブックマークはそのままで……。




