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13、去りゆく背中を見つめて思う。

 聖女への復讐を果たしたソータ達は、教会を後にする。

 多くの血に濡れた教会。ここに来ることは、もうないだろう。

 二人は大きな目的を果たして、残る復讐相手は勇者だけとなった。全ての復讐を終える時も、近い。


「ソータ、あたし、一人になりたいんだけど……」


 普段の元気な性格が嘘に思える程落ち着いた、静かに不安を滲ませた声でルーシャがそう言ってくる。

 こんな様子のルーシャをソータが見たのは、二度目だ。一度目は、両親の死を受け入れた時。

 つまり、今回のことは、ルーシャにとってそれと同じくらい重要だということだ。


 ソータの一番の復讐相手は勇者だが、ルーシャの一番の復讐相手は聖女だった。

 それを果たしたことによって、ルーシャの胸中は複雑な気持ちなのだろう。


 もしかしたら、ルーシャは勇者への復讐をせずに、ここで別の道を歩み始めるのかもしれない。

 別にそれでも構わない。ソータにとってルーシャは、ただ単に復讐を盛り上げる為の協力者に過ぎないのだから。


 しかし、ここでルーシャとの関係が終わってしまうのではないかと考えると、ソータは言いようのない不安のようなものを感じてしまう。

 ソータにとって、ルーシャは思っている以上に大きな存在になっていたのだ。


 けれど、どこかへ行こうとするルーシャを止めようとは思えない。

 ソータは自嘲の笑みを浮かべると、ルーシャの言葉を承諾した。


 一人、王都の中心へと繰り出していくルーシャ。

 それを見ていると、やはり不安は増大していく。

 ソータは溜め息を吐くと、宿へと帰る。


 その道中でも、やはり不安を消すことはできない。


   ▼


 結局、夜が更けてもルーシャが帰ってくることはなかった。

 ソータの不安はいよいよ増してくる。

 食事を取るときも上の空、風呂では溺れかけた。その様子を見たコックにも心配され、ようやく自分が危うい状態になっていることに気付いた。


 そして、布団の中で思考を巡らせる。

 ソータは、長年恨んできた聖女への復讐を成し遂げたにも関わらず、楽しくなかった。

 いや、それは正確な表現ではない。

 ルーシャが去っていった瞬間、不安に押し流され、快感は見事なまでに消え去っていったのだ。


 ソータは復讐を拠り所にして生きてきた。

 年単位で家に籠もり、脂肪魔法という新たな魔法まで開発したのだ。その執念は計り知れない。


 それなのに、一つの大きな復讐を終わらせた後に、こんなにも憂鬱な気分になっている。

 ソータは、そんな自分に疑問を覚えて、自問を繰り返す。

 目的は何なのか? この気持ちは何なのか?

 思考は堂々巡り、結局結論が出ないまま夜は更けていった。


 ふわり。


 外から吹き込む一陣の風が、一枚の紙を運んできた。

 ソータは気になり、それを見る。


『ルーシャは預かった。今夜、教会へ来い』


 そこには、そう書かれていた。

 明らかに、ソータをターゲットにしたメッセージ。

 それを理解した瞬間に、ソータの体は動いていた。


 助けなければ。


 ソータの内心は、そう埋め尽くされていた。

 パジャマから着替えることもせずに、ソータは教会へと走る。

 宿は王都の外れにある。教会までの道のりに人はいない。

 その分距離は離れているが、ソータは周りに人がいないのを良いことに、エネルギーを操作してスピードにブーストを掛ける。


 そして、ようやく教会まで戻ってくる。約一日ぶりだろうか。

 不気味な雰囲気を漂わせる教会に、ソータはルーシャを助けたい一心で堂々と踏み入る。


 ――そこにいたのは――《勇者》ブラックだった――。


「な……んで……?」


 ソータの口から零れたのは、疑問。

 何故、ギルドの依頼、あるいは神様の命令で出掛けている筈の勇者がここにいるのか?

 何故、勇者がルーシャを攫うのか?


「シエットにはもう会ったんだろう? あんな状態になっていたしね。どうせ君がやったんだろう? ソータ。だったら、僕がここにいてもおかしくないだろう?」


 勇者は、震える声に明確な怒りを含ませ、そう言ってくる。

 聖女は勇者の恋人だった。それが凄惨な死に方をしていたら、怒るのも当然だ。

 しかし、ソータはルーシャを攫われたことを許すことが出来ない。


「ルーシャをどこにやった……?」

「ふん、僕を見つけたらすぐに攻撃してくるかと思ったが、まさかルーシャのことを先に考えるとはな……」


 勇者のその言葉を聞いて、ソータはハッとする。

 復讐第一である筈のソータが、一番の復讐相手である勇者を見て、ルーシャの身を先に案じたのである。


 ソータは自分の気持ちが分からなくなってきた。

 復讐とルーシャ、どっちが大切なのか。今、そう問われても、ソータにはどっちかを選べる自信がない。


「まあいい、答えてやろう。ルーシャは他の部屋に寝かしてあるよ――ローズ達の死体と一緒にね」


 ソータはすぐにそこへ向かおうとするが、それは勇者に止められる。


「やめといた方が良いよ。だって――ローズ達の死体と同じ状態になっているんだから……」


 ローズ達の死体。

 ああ、あの体中に傷が刻まれた、味方同士で殺し合ったあの死体か。


 それを聞いた瞬間、ソータの怒りは一気に煮え立った。 


 そして、ソータは新たな復讐心を植え付けて、勇者に飛びかかっていく。


 狂気に、復讐を楽しむことも忘れて、踊る。

 その姿は、復讐鬼と呼ぶに相応しい姿だった。






 ソータは、僅かに残った理性で自覚する。

 この感情は、勇者が聖女に抱いていたものと同じだ。

 だって、あの怒る勇者に、自分が重なって見えたのだから――。

次回、『復讐の終結は魂を導く』


……の予定。


完結はまだです。

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