13、去りゆく背中を見つめて思う。
聖女への復讐を果たしたソータ達は、教会を後にする。
多くの血に濡れた教会。ここに来ることは、もうないだろう。
二人は大きな目的を果たして、残る復讐相手は勇者だけとなった。全ての復讐を終える時も、近い。
「ソータ、あたし、一人になりたいんだけど……」
普段の元気な性格が嘘に思える程落ち着いた、静かに不安を滲ませた声でルーシャがそう言ってくる。
こんな様子のルーシャをソータが見たのは、二度目だ。一度目は、両親の死を受け入れた時。
つまり、今回のことは、ルーシャにとってそれと同じくらい重要だということだ。
ソータの一番の復讐相手は勇者だが、ルーシャの一番の復讐相手は聖女だった。
それを果たしたことによって、ルーシャの胸中は複雑な気持ちなのだろう。
もしかしたら、ルーシャは勇者への復讐をせずに、ここで別の道を歩み始めるのかもしれない。
別にそれでも構わない。ソータにとってルーシャは、ただ単に復讐を盛り上げる為の協力者に過ぎないのだから。
しかし、ここでルーシャとの関係が終わってしまうのではないかと考えると、ソータは言いようのない不安のようなものを感じてしまう。
ソータにとって、ルーシャは思っている以上に大きな存在になっていたのだ。
けれど、どこかへ行こうとするルーシャを止めようとは思えない。
ソータは自嘲の笑みを浮かべると、ルーシャの言葉を承諾した。
一人、王都の中心へと繰り出していくルーシャ。
それを見ていると、やはり不安は増大していく。
ソータは溜め息を吐くと、宿へと帰る。
その道中でも、やはり不安を消すことはできない。
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結局、夜が更けてもルーシャが帰ってくることはなかった。
ソータの不安はいよいよ増してくる。
食事を取るときも上の空、風呂では溺れかけた。その様子を見たコックにも心配され、ようやく自分が危うい状態になっていることに気付いた。
そして、布団の中で思考を巡らせる。
ソータは、長年恨んできた聖女への復讐を成し遂げたにも関わらず、楽しくなかった。
いや、それは正確な表現ではない。
ルーシャが去っていった瞬間、不安に押し流され、快感は見事なまでに消え去っていったのだ。
ソータは復讐を拠り所にして生きてきた。
年単位で家に籠もり、脂肪魔法という新たな魔法まで開発したのだ。その執念は計り知れない。
それなのに、一つの大きな復讐を終わらせた後に、こんなにも憂鬱な気分になっている。
ソータは、そんな自分に疑問を覚えて、自問を繰り返す。
目的は何なのか? この気持ちは何なのか?
思考は堂々巡り、結局結論が出ないまま夜は更けていった。
ふわり。
外から吹き込む一陣の風が、一枚の紙を運んできた。
ソータは気になり、それを見る。
『ルーシャは預かった。今夜、教会へ来い』
そこには、そう書かれていた。
明らかに、ソータをターゲットにしたメッセージ。
それを理解した瞬間に、ソータの体は動いていた。
助けなければ。
ソータの内心は、そう埋め尽くされていた。
パジャマから着替えることもせずに、ソータは教会へと走る。
宿は王都の外れにある。教会までの道のりに人はいない。
その分距離は離れているが、ソータは周りに人がいないのを良いことに、エネルギーを操作してスピードにブーストを掛ける。
そして、ようやく教会まで戻ってくる。約一日ぶりだろうか。
不気味な雰囲気を漂わせる教会に、ソータはルーシャを助けたい一心で堂々と踏み入る。
――そこにいたのは――《勇者》ブラックだった――。
「な……んで……?」
ソータの口から零れたのは、疑問。
何故、ギルドの依頼、あるいは神様の命令で出掛けている筈の勇者がここにいるのか?
何故、勇者がルーシャを攫うのか?
「シエットにはもう会ったんだろう? あんな状態になっていたしね。どうせ君がやったんだろう? ソータ。だったら、僕がここにいてもおかしくないだろう?」
勇者は、震える声に明確な怒りを含ませ、そう言ってくる。
聖女は勇者の恋人だった。それが凄惨な死に方をしていたら、怒るのも当然だ。
しかし、ソータはルーシャを攫われたことを許すことが出来ない。
「ルーシャをどこにやった……?」
「ふん、僕を見つけたらすぐに攻撃してくるかと思ったが、まさかルーシャのことを先に考えるとはな……」
勇者のその言葉を聞いて、ソータはハッとする。
復讐第一である筈のソータが、一番の復讐相手である勇者を見て、ルーシャの身を先に案じたのである。
ソータは自分の気持ちが分からなくなってきた。
復讐とルーシャ、どっちが大切なのか。今、そう問われても、ソータにはどっちかを選べる自信がない。
「まあいい、答えてやろう。ルーシャは他の部屋に寝かしてあるよ――ローズ達の死体と一緒にね」
ソータはすぐにそこへ向かおうとするが、それは勇者に止められる。
「やめといた方が良いよ。だって――ローズ達の死体と同じ状態になっているんだから……」
ローズ達の死体。
ああ、あの体中に傷が刻まれた、味方同士で殺し合ったあの死体か。
それを聞いた瞬間、ソータの怒りは一気に煮え立った。
そして、ソータは新たな復讐心を植え付けて、勇者に飛びかかっていく。
狂気に、復讐を楽しむことも忘れて、踊る。
その姿は、復讐鬼と呼ぶに相応しい姿だった。
ソータは、僅かに残った理性で自覚する。
この感情は、勇者が聖女に抱いていたものと同じだ。
だって、あの怒る勇者に、自分が重なって見えたのだから――。
次回、『復讐の終結は魂を導く』
……の予定。
完結はまだです。




