12、復讐の魔法は治癒を裏切る
【前回のフクシュウキ!】
聖女……こいつ、強い……! →生命魔法修得→聖女無双突破
少しを残して聖女の生命力を吸収した。
聖女は、今までの余裕な態度を崩してソータを睨みつけ、自らが極めた生命魔法で負けたのが悔しかったのか、弱い力でギリギリと歯を噛み締めている。
ソータはルーシャを見る。
ルーシャは嗤っていた。
不死にも思えた聖女が、今は余裕を崩し、無様に這い蹲っている。それが滑稽に思えたのだろう。
復讐の時だ。
生命力というのは、奥が深い。
ただ単に生命力を奪えば衰弱するが、そのやり方を変えると今度は年を取る。
聖女の生命力を吸い出すことには成功したソータだが、二つ目はまだ出来ない。
しかし、同じ事をすることはできる。
ルーシャの生体魔法と組み合わせるのだ。
そうすることによって、生命力の衰弱と体の衰弱を同時に引き起こすことができ、結果、生命魔法で相手の年を操るのと同じ事が可能となる。
しかも、この方法ならば、段々と衰弱していく恐怖を与えられ、良い復讐になる上に、ソータとルーシャ二人の魔法を使うので、二人とも満足のいく復讐ができる。
ソータはこの方法で復讐わすることにし、それをルーシャに伝える。
ルーシャがニヤリと笑った。それにつられ、ソータも笑う。
早速、それを試す。
元々かなりの生命力を奪ってあるが、そこからさらに生命力を吸い取っていく。
一方、ルーシャも生体魔法を操り、聖女の体の形を徐々に変えていく。
皺が増えていく。胸が萎んでいく。適度な肉が付いている体は、やせ細っていく。
その顔は、絶望が濃さを増していく。
予想通りの、段々と衰弱していく恐怖。
聖女は声を上げるが、それは次第に小さくなっていく。
そして、そこには既に何も出来なそうな年寄りがいた。
「あ……あぁ…………」
まだ直接的に痛めつけたわけでもないのに、無様な呻き声を出す。
「「…………」」
そして、ソータとルーシャは、驚く。
その顔に、見覚えがあったのだ。
――素質値を計った時の、老婆だ。
「……何が目的で、あの時俺達を連れて行こうとした?」
老婆は答えない。
「あの時付いていかなかったから、今日ここに連れてこられたのか?」
老婆は答えない。
「お前達の目的は何だ?」
聖女は答えない。
「一つだけ教えてあげる……。ブラックはもうすぐ帰ってくる。そうしたら、あなた達の負けよ……」
ニヤリ、聖女が笑った。
そして、ガクンと力が抜け、ソータは床に膝を付く。
弱った聖女が、ソータから生命力を吸い取っているのだ。
しかし、復讐の時と、命の危険を感じた時のソータは、強い。
その生命力をどんどん取り返していく。
経験では圧倒的に聖女が勝っている。しかし、ソータはそれと同等の才能を持っていた。
結果、実力は拮抗した。
ソータが取り返した生命力は、二度聖女に取り返される。それをさらにソータが取り返す。
しばらくは、生命力の奪い合いが続く。
しかし、その形勢は傾く。
聖女に、ルーシャがタックルをしたのだ。
聖女は転がり、しかし、そんな中でも何とか生命力を奪い続ける。
そして、またも拮抗状態に入るように思われたが、ここで決定的なことが起きた。
聖女の魔力が切れたのだ。
取り合っていた生命力は、全てソータの体内に取り込まれていく。
この結果は、分かっていたことだ。
生命魔法も、魔法である。
この取り合いは、魔法の撃ち合いと同じだ。
長期戦になってしまった時点で、一気に勝負を終わらせられる手札を聖女が持っていなかった時点で、ソータの勝利は確定していた。
ソータは、エネルギーの魔力変換によって、無限に近い魔力を持っているのだから。
そして、それは聖女が読み違えたところでもあったのだろう。
聖女が知っているソータは、大した力を持たない少年だった。
間違っても、希有な才能を持っている聖女に勝てるような人間ではなかったのだ。
その価値観は、ソータの異常な素質値を知った後でも、ソータが新たな魔法を自らの前で修得した後でも、変わらなかった。いや、変えられなかった。
過去からの固定概念が、聖女の考え方を改めさせなかったのだ。
その結果は、圧倒的な敗北。
聖女は、絶望した。
しかし、本当の絶望はここからだ。
ここまでは、まだ復讐も序盤。
ソータは、さらに生命力を奪う。
段々と、衰えていく。
衰弱というのは、辛いものだ。
そして、極限まで衰弱したところで、ソータとルーシャは倒れ伏した聖女を見下ろす。
そして――蹴る、蹴る、蹴る。
「…………」
聖女は、明らかな苦悶の表情を浮かべていた。
しかし、声は出ない。涙も出ない。
極限まで衰弱しているのに、そんなものが出てくる筈がない。
だけど、痛みだけは、全身を通ってしっかりと伝えられる。
声は出ない。涙も出ない。
それは、痛みを和らげる方法がないということ。痛みを吐き出す方法がないということ。
痛みは全て聖女の体内に留まり、段々とその体を蝕んでいく。
「…………」
体中を踏まれ、体中が痛み、体中の体液が溢れる。
眼からは段々と光が消えていき、感情が排除される。
そんな様子が、ソータには手に取るように分かった。
そして、ソータが使うのは生命魔法。
今までとは一転、今度こそは本来の使い方――癒すために使うのだ。
苦悶の表情は和らぎ、血は止まり、目の光が戻る。
一転して安堵の表情を浮かべる聖女。
もしかしたら、聖女はこれで終わりだと思っているのかもしれない。
しかし、そんなわけはない。酷い仕打ちを受けてきたソータとルーシャが、この程度で復讐を終わらせる筈がない。
ソータとルーシャは、二度踏み始める。
聖女の体は、二度ボロボロになっていく。
そして、またも癒される。
ボロボロになる。
癒される。
ボロボロになる。
癒される。
ボロボロになる。
癒やされ――
「あ……が……か……」
出ないはずだった最後のか弱い声が断末魔となり、狭い部屋の中を柔らかく、けれども重く反響する。
ソータとルーシャが去った後のそこには、老婆と言うのも憚られる程に年食った死体が傷だらけの状態で転がっていた。




