11、復讐の危機は才能を開く
【第三章11話 序文】
かつて、ソータは聖女のことを心から愛していた。
そして、相手も自分のことを愛してくれていると思っていた。
何故なら、その恋は成就した筈だったのだから。
しかしそれは、裏切られた。
浮気という最悪の結果で。
しかも、その日から聖女は勇者とグルになってソータを罵るようになった。
そこには、かつて愛したシエットの面影はなかった。
そして、長い時間を掛けてじっくりと煮込まれたその憎悪は、ソータの心を支配している。
一方ルーシャは、かつて愛したブラックを聖女に奪われた。
ルーシャの濁った復讐心の大半は、聖女に向けられていると言って良い。
これは、かつての愛を清算する為の復讐譚だ。
ソータは血の足跡を付けながら、聖女の元へと向かう。
今頃、聖女は動けずに転がっている筈だ。
脂肪の拘束は、生命魔法しか使えない聖女には解けない。
「ルーシャ、聖女は強い。俺達が有利だろうが、何があるか分からない。油断はするなよ?」
「分かってるわ」
そして、聖女がいる部屋のドアを開く。
一瞬の驚愕。
――そこには、元の体に戻った聖女が立っていた。
「……どうやって戻った?」
聖女の実力を舐めていた訳ではない。
しかし、その上で脂肪の拘束からは逃れられないだろうと高をくくっていた。
だからこそ、驚きもより大きい。
聖女は、そんなソータの内心の驚きを見抜いたのか、嘲るように微笑む。
「生命魔法の使い方は、少なそうで多いわよ。もっとよく考えることね」
その言い方は、ソータの怒りを刺激する。
イライラが段々と募っていく。
「聖女、お前は勘違いしている」
「何を?」
「そもそも、この拘束から脱しただけで勝ったつもりでいるのが滑稽だ。俺はお前より強いぞ。その上、ルーシャまでいる」
しかし、聖女は余裕の表情を崩さない。
「じゃあやってみればいいじゃない」
「あぁ……」
そして、ソータは火魔法で燃え盛る火炎の弾を撃ち出す。
これが聖女を捉えれば、彼女は無事ではいられないだろう。
さらに言えば、生命魔法でこれを防ぐ術はない。聖女の身体能力は、さほど高くない。
つまり、聖女はこれで必ず戦闘不能に陥る。
ドオォォオオオオオオン!
それが炸裂した。
教会のど真ん中に、大きなクレーターが出来上がる。
ソータは勝利を確信した。
しかし――
「その程度? その程度じゃ掠り傷一つ付けられないわよ?」
――そこには、無傷で立つ聖女の姿があった。
服は全て焼けてなくなっているが、その白い肢体にも、美しい金髪にも、傷は全く見られない。
服がなくなっていることは、むしろその体に傷がないのだという事実をより際立たせた。
聖女は余裕の表情を崩さず、ソータを静かに見下す。
ソータは、今度は聖女の右腕を斬り飛ばそうと、空気のカッターを勢い良く発射する。
しかしと言うべきか、やはりと言うべきか、それがソータの思い描く結果を引き起こすことはなかった。
「なぜだ……?」
横を見ると、ルーシャも悔しそうな顔をしていた。
ソータは理解する。
生体魔法も効かなかったのだと。
「クソッ!」
聖女を睨み付ける。
彼女は、絶対の自信を持って笑顔を湛えていた。
どんな攻撃も効かないと、そう言われている気がした。
ソータは怒りと焦りに満たされる頭を必死に動かす。
生命魔法は、生命力を操る魔法だ。
上級者になれば、死者の蘇生などもできる。
それは、生命力を与えるからだ。
また、例え四肢が吹き飛んでいても、生命魔法での再生は可能だ。
つまり、生命力を与えれば、体は元の正しい形に戻ろうとするのだ。
そこまで考えて、ソータは一つの考えに至る。
瞬間、力が満ちる。
考えてみれば難しいことではなかった。
フッと微笑む。
「何よその気持ち悪い笑みは。ようやく覚悟した?」
「いいや?」
ソータは、一歩踏み出した。
そして、右腕を聖女に向ける。
魔法を使うのだ。
ただし、脂肪魔法でも物理魔法でもない。
「ハアアァァアアアアアアアアアアア!」
その右腕に全力を込める。
かつて読み込んだ魔法書を思い出し、日本で育んだ知識を思い出し、脂肪魔法と物理魔法を使ったときの感覚を思い出す。
そして、発動するのは生命魔法。
聖女の生命力を、吸い取っていく。
考えてみれば難しいことではなかった。
体は、生命力によって元に戻せる。
では、最初から本来以上の生命力を持っていれば?
答えは――どんなに傷付いても、傷付かない。
ストックされている生命力が、傷付く筈だった分を穴埋めして減っていくだけだ。
そして今、ソータの生命魔法が、そのストックを一気に減らしていっている。
なるほど、確かに、生命魔法は単純そうで深い。
これなら――面白い復讐が出来そうだ。
序文どうでしたでしょうか?
今回は、序文を含めていつもの文字数になっています。




