9、復讐の刃は心身を突き刺す
ソータは、復讐相手である宗教団体の面々を見る。
皆一様に、怯えた顔をしていた。
彼女達は、王都に来るまでの道中で、ソータ達の戦闘や魔法を使った作業を見ている。
その為、ソータ達の能力を把握しているのだ。
正確言うと、しきれてはいないが、恐ろしい程の能力を持っていることは理解しているだろう。
そして、件のソータ達に攻撃を受けようとしている。
非力な彼女達は、死亡が確定したにも等しい。
怖がっても当然のことである。
ソータは、復讐方法を決める。
今までは様々な魔法を使い、組み合わせ、趣向を凝らした復讐をしてきた。
しかし、たまにはシンプルな復讐をしてみても良いかもしれない。
魔法がなかった前世、武器がなかった日本では、復讐と言っても、拳やナイフなどで相手を痛めつけ、殺すくらいが普通だった。
それは、これまでしてきた復讐と比較すると普通だが、単純で分かりやすい分、痛みや恐怖も大きいだろう。
それに、魔力は次の聖女への復讐の為に出来る限り温存しておきたい。脂肪を魔力に変えられるのだとしても、底はある。
ソータは、物理魔法でナイフを創り出す。
包丁のような形をしたものだ。
同じ物をもう一つ創り、ルーシャに渡す。
それを持って、一歩踏み出す。
それだけで、復習対象者達は震え出す。
誰かに縋っていたいのか、隣同士で抱き合っている姿がいくつも見られる。
それを見ることは、復讐者として、これ以上なく嬉しい。
その姿は、ソータの復讐心と快感を煽るだけだ。
「ルーシャ、ゲームしようぜ」
「ゲーム?」
「あぁ、相手にナイフを順番に刺していって、殺してしまった方の負けだ」
「面白そうね。あたしも参加するわ」
「そもそも、お前が参加しないと成立しないゲームだ」
ソータは、復讐対象者の一人に目を向ける。
ビクリと、相手の体が跳ねたのが分かった。
「いや、いやぁ……」
そう言って、彼女は隣の人を抱く力を強める。
ギュッと閉じられたその目の端から、一筋の涙が零れる。
きつく結んだ唇が、小刻みに揺れる。
普通ならば、その姿を見ると傷付けることに躊躇いが生まれるのだろう。
しかし、激しい復讐心に憑かれたソータは、恐怖に支配されたその姿を見ても何も思わない。
むしろ、嬉々として傷つけにいきたくなる。
「さて、ゲームスタートだ」
ソータは、早速一回ナイフを刺す。
最初に刺したのは――心臓だった。
「が、は……ぁ……」
大量の血液を零し、彼女の体を、床を、さらにはソータをも汚していく。
そして、息絶えた。
「これじゃあゲームにならないじゃない!」
ルーシャは若干の怒りを滲ませている。
彼女は復讐に飢えているのだ。
そのチャンスを、いきなり潰された。
だから、こんなにも怒っているのだ。
その気迫は、かなりのものだった。
大抵の人ならば、その気迫を正面から受けただけで怯えてしまうだろう。
しかし、ソータは相棒が順調に育っていることを感じ、嬉しさすら覚えた。
「まだ人はこれだけいる。あんまり俺に怒らず、あいつらにその怒りをぶつけたらどうだ?」
その言葉を聞いたルーシャはその刃を握り締め、無言で歩き出す。
ルーシャが二人目を眼中に捉え――ナイフで、怯えていた喉を一突きにした。
「が、あ…………ヒュー、ヒュー……」
呼吸をしようとし、喉に空いた穴から空気が漏れ出す音が聞こえる。
勿論、二人目はすぐに息絶える。
「そっちだって一回で殺すじゃねえか」
「別に良いじゃない……」
そして、二人の目が三人目を見る。
しかし、今回は違った。
恐怖に身体を乗っ取られ、何も出来ずに死んでいった二人とは違い、反撃をしてきたのだ。
それは生命魔法の極地。
神を信仰する者が、神の生命を借りて放つ魔法。
《聖魔法》と呼ばれるものだ。
ソータは、その存在を疑っていた。
脂肪魔法開発までに読み解いてきた幾千の魔法書にも載っておらず、そもそもの神の存在を疑っていたソータに、その魔法を認めることなどできなかった。
しかし、目の前で使われたそれは、紛れもなく聖魔法。
そして放たれるのは、生命の波動。
生命そのものをエネルギーへと変え、その身を削って放つ。
神の生命を借りることは事実だが、それだけで聖魔法は使えない。
神の力で強制的に自らの生命をも削り取らなければならないのだ。
しかし、その文字通り命を削って放たれたその魔法も、ソータやルーシャには効かない。
空間魔法で、放たれる聖魔法を異次元へと飛ばしていく。
悠々と攻撃の中を進んでいき、敵がいるところまで辿り着く。
「なっ……」
その言葉が最後だった。
ソータとルーシャのナイフがほぼ同時に相手を貫いた。
「ぐ、ぐぎぃいあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
大凡女性っぽくないその声が密室を反響し、幾重にもなった悲鳴がソータの耳を打つ。
それは、長く、重く、ソータの心にも響き、そこに愉悦を与えていく。復讐を渇望するその心に、ゆっくりと染み込んでいく。
それでも、彼女はまだ死んでいなかった。
ソータとルーシャはゲームを再開することにし、順番にナイフを突き刺していく。
右腕、左肩、右太股、左脇腹、右手、左足と、何度も、何度も、繰り返し、繰り返し、傷を増やしていく。
「が……ぐ、ああああああああああああああぁ!」
肉を抉る感覚と、その度に響く絶叫が、ソータの心を震わせた。




