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6、甘い雰囲気

 ローマンを滅ぼした。

 そのファイヤードラゴンの言葉を聞いたソータとルーシャは、しばらくその場で、立ったまま黙り込む。


 はっきり言って意味が分からなかった。

 いくらドラゴンでも、街を一つ丸々滅ぼせるものなのだろうか。

 あの街は、人も多く土地も広い。それを滅ぼすとなると、相当な力が必要になるだろう。


 そこでソータはハッとする。

 国の防衛をする機関は、二つある。

 騎士団と、そして、冒険者ギルドだ。

 その片方、冒険者ギルドは、ソータが滅ぼしてしまった。


 勿論、ローマン以外にも冒険者ギルドはいくつか存在するが、如何せん遠い。本来すぐに出動できる筈だったローマンのギルドが、出動できなかったのだ。

 このような結果になっても、何ら不思議はない。


 そもそも、ソータはファイヤードラゴンの本当の強さを知らない。

 最初に会ったとき、物凄く弱そうな負け方をしていたからソータの中での評価は低いが、実際は相当な強さを持っている。

 知能を持ち、あらゆる攻撃、特に火系の攻撃には、高い耐性を発揮する。さらには、物理魔法、生命魔法、生体魔法の全てに適性があり、使いこなすことができる。

 冒険者ギルドが健在だったところで、ファイヤードラゴンが進行してきたら止めることなどできなかっただろう。


 ソータは思考を区切る。

 これ以上、ローマンのことを考えていても仕方がない。

 良い街だったのでそこそこの愛着は持っていたが、飽くまでもそこそこだ。

 滅ぼされたところで、怒りは湧いてこない。


 ソータはこのことを忘れることにした。

 今は、勇者と聖女についての情報収集だ。

 あと二人だけで、復讐は終わる。

 復讐が終わるは、他のことを出来る限り考えないようにする。


 勇者と聖女、この二人がどれくらいの強さを手にしているのかは分からない。

 しかし、復讐は、圧倒的な力の差がないと達成することができない。

 その点でも、早く調査を進めなければならないだろう。


 取り敢えず今日はゆっくりすることにした。

 才能値の件と、ファイヤードラゴンの件。この二つだけで、かなり疲れてしまった。

 それにもう夜だ。

 わざわざこんな時に動く必要はない。


 ソータとルーシャは、宿の食堂に行く。

 ここに行けば、時間を気にせずにいつでも食べ物を出して貰えるというシステムになっている。


「お、食べるかい?」


 食堂に到着すると、コック帽を被って台所に立っている人がいた。

 受付をした時の、少し年を食っている男性だ。

 受付だけでなく、料理までこの人がやっているらしい。


「二人分、頼む」

「あいよー」


 二人、席に座って待つ。

 だんだんと良い匂いがしてきた。

 そして、ジュージューという、肉を焼く音。

 否応なしに期待が高まる。


 コトンと、テーブルに皿が置かれる音でハッとする。

 どうやら、良い香りに意識を持っていかれていたらしい。

 こんなことは初めてだ。しかも、まだ食べる前である。


「ほら、食べてみな」


 ソータは、その声を聞いて肉にかぶりつく。

 柔らかすぎず、それでいて硬すぎない、絶妙な調節。

 歯で肉を噛み切る。

 瞬間、口の中に香ばしい肉汁溢れる。


「ふ、ふわぁ……」


 あまりの旨さに、声が出てしまう。


「う、旨い……」

「そうか、それは良かった」


 一緒に出されたサラダも食べてみる。

 こちらも、美味しい。

 特に、オリジナルと思われるドレッシング。

 日本でも味わったことがないその新鮮な味は、サラダに自然に溶け込んでいる。


「御馳走様」

「ごちそうさま」


 ほぼ同時に食べ終わったソータとルーシャは、満足げな顔で椅子の背もたれに背中を預ける。

 二人とも、美味しすぎてお代わりまでしてしまったのだ。

 そして、動けなくなるまでそれを食した。

 ルーシャは食べ終わった後も、ずっと幸せそうな顔で目を蕩けさせている。

 結局、数十分もここであの味の余韻に浸る羽目になってしまった。


 そして、その数十分が経過し、ソータが立つ。

 ルーシャも同じタイミングだった。


「さーて、お風呂でも行くか」

「さーて、お風呂でも行こうかしら」


 またも完璧なタイミングだった。


「ちょっと! 真似しないでよ!」


 ルーシャが怒る。

 本気で怒っている訳ではないだろうが、それでもどこか理不尽だ。


「そっちこそ真似するなよ!」


 ソータも怒鳴る。

 勿論本気ではない。


 二人、無言で睨み合う。


「…………」

「…………」

「ふっ、ふはははははははははは!」

「ぷっ、くふふふふふふふふふふ!」


 二人は、同時に笑い出す。


 復讐の嘲笑以外でこんなに笑ったのは、久し振りではないか。

 けれど、それは心地が良かった。

 今は、これで良いかもしれない。


 ソータはそこまで考えて首を振る。

 自分の中で、復讐以外のことが大きくなってしまうのが怖かったから。


 しかし、二人の間に満ちる穏やかな雰囲気は、最早消せようのないものだった。


 コックが、それを横から微笑みながら見ていた。

話進めるつもりだったけど、文字数が一話分に達したので投稿しました。


話進めないとブクマ外しが怖い今日この頃。

次回から進めるので許してください……。

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