1、復讐の雷霆は豚肉を焼く
本日から三章に突入です。
章タイトルはこんなんですが、最終章ではありません。
よろしくお願いします。
ソータは新たな復讐心を植え付けて、勇者に飛びかかっていく。
狂気に、復讐を楽しむことも忘れて、踊る。
その姿は、復讐鬼と呼ぶに相応しい姿だった。
ソータは、僅かに残った理性で自覚する。
この感情は、勇者が聖女に抱いていたものと同じだ。
だって、あの怒る勇者に、自分が重なって見えたのだから――。
▼
ソータ達は、ローマン街での復讐を終えて、王都を目指す。
プラメト村からローマン街までの道のりとは違い、道がしっかりと整備されているので、比較的歩きやすい。
ただ、それでも体力が著しく低いことには変わりなく、幾度となく休憩を取る羽目になっている。
照りつける太陽が無条件にソータとルーシャの体力を奪っていく中、地道に歩みを進めていく。
「これ……脂肪魔法と物理魔法があればどうにかなるでしょ……? どうにかしてよ……」
「あんまり魔力使うと……復讐に影響しそうだから嫌なんだが……」
「けど……このままじゃ復讐の前に……倒れるわよ……」
二人で木陰に座る休憩中、疲れた息も絶え絶えに、そんな会話をする。
まだ、ローマンを出てから一時間程しか経っていない。
しかし、いつの間にか上昇していた気温と、高くなっていた太陽は、容赦なく二人に牙を剥く。
「はぁー、それもそうか……。仕方ないな……」
ソータはようやく魔法を使う決心をすると、まずは水魔法で冷えた新鮮な水をつくり出す。
それを、ローマンにいる間に買っておいた小さなコップに入るだけ注ぐと、ルーシャに手渡す。
「きゃっ!」
しかし、唐突に短い悲鳴をあげたルーシャはそのコップを落としてしまう。勿論奇跡的な瞬発力でキャッチするなんてことはなく、そのまま地面に落ちていく。
今入れたばかりの水は、剥き出しになっている土に溶け込んでいった。
「おい、一体どうしたんだ?」
ソータは苛立たしげにそう問いかける。
ようやく決意をして使った魔法を無駄にされた。一見大したことなさそうなことだが、復讐一筋のソータにとって、それは十分に気を荒立てる原因になり得た。
「ご、ごめん……。ただ、手が触れて……それで……」
もにょもにょと小声で何かを言うルーシャを、ソータは不思議なものを見るような目で見る。
ソータにとっては、やはり、ルーシャを異性として意識することはできないのだ。それが、例えどんなに容姿の良い女性だったとしても。
「まあ良い……。そのコップを貸してくれ」
溜め息を一つ吐く。そして、ソータはそう言って落ちていたコップを拾い上げ、それを水魔法で濯いでもう一度水を入れ直す。
「ほら」
ソータが水を手渡すと、今度こそルーシャはしっかりそれを受け取り、勢い良く飲み干した。
「あ、ありがとう……」
「…………」
大凡復讐鬼と復讐者らしくない優しい空気が、二人の間を流れていた。
▼
ルーシャの索敵魔法に反応があった。
それによって、穏やかな時間は終わりを告げる。
「多分この反応は……オークね……」
オークと聞いてソータの頭の中を過ぎるのは、かつてローマンの冒険者ギルドで冒険者をしていた時代のことだ。
依頼中、ソータはオークに仲間認定をされた。その時の、あの恐ろしく気持ち悪い顔は、ソータは心の中に大きなトラウマを植え付けてしまったのだ。
今索敵魔法に引っかかったオークが、ソータが復讐の為に探しているオークだとは限らない。
むしろ、世界中にいくらでもいるオークの中の一体が偶然ここに現れる可能性は、限りなく低い。
しかし、ソータの勘が、このオークのところに行くべきだと告げていた。
「倒しに行こう……」
「珍しいわね、わざわざ戦おうとするなんて」
「いや、少し、な」
そして、ソータはそれに接触する。
「ブホッ! ブホホッ!」
それは、一度ならず二度までも、ソータに笑顔で近付いてきた。その笑顔の中には、ソータと再会できたことに対する深い喜びが刻まれていた。
しかしソータは、そんな笑顔とは対称的に、酷く暗い顔をしていた。
妖しく輝くソータの瞳が、眼光だけで相手を殺せてしまいそうなくらいの威圧感を発している。
「ブホーッ!」
叫び、両手を広げながら迫るオーク。それは久し振りに姿を見せた家族や恋人に、包容を求めるかのような仕草。
ソータは、それにタイミングを合わせて本気で殴りかかる。
ソータの拳がオークの腹に突き刺さった。
しかし、オークに効果は薄く、全て分厚い脂肪に阻まれてしまった。
「ルーシャ、強化魔法を掛けてくれ!」
「了解したわ」
そしてソータは、強化された腕一本で殴り掛かる。
それがオークの顔面にのめり込むと、今度は効果があったらしく、オークが呻き出す。
「ブフッ! ブホーッ」
それに構わず、何度も、何度も、繰り返し、繰り返し、殴り、殴り、殴る。
そして、遂に耐えかねたオークは反撃に出る。
その太い腕を振り回しながら近付いてきてくる。
避けるのは簡単だが、万が一当たると骨一本くらい持っていかれる。それくらいの威力だ。
ソータは迫り来る巨体を躱すと、すかさず魔法によって強化された腕を振る。
その腕は美しい流れで鳩尾に吸い込まれていき、相手の巨体を軽く浮かせる。
「ブ、ブホ……」
腹を突き抜ける激痛に、相手は苦悶に顔を歪ませながら呻くが、それでもソータの猛攻は止まらない。
そこから一気に電気を流し込むのだ。
「ブ、ブホオオオォォォオオオオ!」
辺りに、悲鳴が響き渡る。
巨体が砂の地面に倒れ伏した。
「まだ最後じゃない……!」
ソータは久しぶりの脂肪魔法で、エネルギーを操作する。
生み出すのは雷。厚い脂肪に覆われた体中の全てを蹂躙できるほどの、圧倒的な高電圧。
それが、刹那の時に、迫る。
放たれたそれは、オークの体を焼く。
「ブ、ブオオオオォォォォォォォォオオオオオオオオオオ!」
「くっ、クハハハハハ!」
断末魔と笑い声が、広々とした周りに響き渡った。
こうしてまた、ソータはまた一つ復讐を終わらせた。




