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8、言い訳するほど怒りは煮える。

 ソータは空間魔法で異次元への扉を開くと、そこに、動きを封じてあった受付嬢を放り込む。

 そして、それを閉じるともう一度空間魔法を使ってワープし、燃えゆく冒険者ギルドを後にした。


 少し離れたところにワープして先程まで居たところを見ると、そこは大変な騒ぎになっていた。


「凄いことになってるわね……」

「そりゃあな……。むしろこうならなかったら驚きだ」


 ボソッと呟くルーシャに、ソータはそう答える。

 騒ぎになるのは当然のことだ。いきなり建物が消えて、しばらくして元のところに姿を現したと思ったら、今度は炎上しているのだ。

 これで驚かないわけがない。


 あまり目立ちたくないソータだが、全て燃えてしまえば足跡など付きようもない。

 しかも、今回は空間魔法で脱出してきたのだ。

 地球のように、恐ろしいほどのセキュリティや調査力があれば別だが、この世界では基本的にどこも無警戒だ。それは国から援助を受けているこの施設であっても、例外ではない。

 ソータが疑惑の対象になることは、ないと言って良いだろう。


 それに、勢いに身を任せたところもあったが、お陰で気持ちの良い復讐をすることができた。

 後悔は、ない。


 ソータは、次の目的地を定める。

 目指すは両親のところだ。


「ルーシャ、俺に似た雰囲気のやつがいないか探してくれ。受付嬢の話が本当なら、路地裏とか人の通らないところにいる可能性が高い」


 ルーシャは索敵魔法を使用する。

 結果はすぐに出た。


「いた……。アンタと纏う雰囲気がかなり似ているわ。さすが親子ね」


 復讐によって最高潮だったソータのテンションは、少し下がった。

 自分に酷い扱いをしていた復讐対象と似ていると言われて嬉しいなんてことはない。

 こんなに簡単に見つけることが出来たのは似ていたからで、似たような雰囲気の人を探すように言ったのもソータだ。だがしかし、それでも少しテンションが下がるのは仕方のないことだろう。


「まあいい……。で、どこだ?」

「えーと、あっちの方ね……」


 ルーシャが指したのは、昨日買い物をした商店街の方向だった。


 確かに、あの辺ならば動きやすいだろう。

 人はみんな商店街の太い道を通り、一本逸れたところにある、細くて陰気な路地裏など、普通は誰も通りたがらない。つまり、何かをしても人に気付かれにくいのだ。

 しかも、一本出るだけで大量の物資がある。買うにしても盗むにしても、横にそれがあるのは便利だ。


 ソータは、既に全てを蹂躙し尽くして行き場を失った最後の火を横目で見て、歩き出す。


 特に歩いている間にやっておくこともなかったので、ソータは気になったことを考え始める。

 しばらくは物思いに耽っていたソータだったが、頭の中に浮かべられた疑問はどうしても解決せず、ルーシャに話を振る。


「なぁルーシャ、どうして俺の両親は冒険者ギルドに受付嬢を忍ばせていたんだと思う?」

「そんなの、アンタの親がヤクザだからじゃないの? ヤクザにとって冒険者は、脅威になり得る存在だわ」

「それだけのことにわざわざ愛情を込めて育てた娘を使うか?」

「アンタを捨てたような両親よ? 利用する為に育てたのかもしれないわ」


 しかし、どうしても腑に落ちない。

 あれこれと頭を捻らせるうちに、ソータは目的の場所に着いた。

 近くの交差点、その角に姿を隠す。


「隠密魔法を使ってくれ。隠れて行く」


 ソータはルーシャにそう告げ、自身はエネルギー操作で光をねじ曲げた。

 隠密魔法で気配を消し、エネルギー操作で姿を消す。足音なども、エネルギー操作でどうにでもなる。これで見つかることは、まずないだろう。


 ソータは隠れていた交差点の角から出て、両親の様子を確認する。

 幸いにも、両親以外には誰もいない。

 両親は、汚い路地裏には不釣り合いな白く丸いテーブルで向かい合い、お茶を飲んでいる。

 今なら近付いても問題ないだろう。


 ある程度近付くとソータは、周辺の空間だけを切り取って隔離する。

 冒険者ギルドの時は建物という区切りがあって分かりやすかったが、今回は難易度が高い。しかし、だからといって出来ないわけではない。

 ソータはあっさりとそれを成功させると、一息吐いて光を元に戻す。ルーシャも隠密魔法を解いた。


「な……っ!? ソータ!?」


 すぐに気付いた父親が驚きの声を発する。

 それに釣られて母親もソータの方を向き、同じように驚きの表情を見せる。


「なぜお前がここにいる?」


 質問をしてくる父親に、ソータは物理魔法で灯した火を近付ける。


「俺が質問をする。お前らは何をしている?」

「どういうことだ? 質問の意味が理解できないのだが?」


 若干怯んだ様子を見せながらも、父親は答える。


「どうしてヤクザなんかをしているのか。それと、何故俺を散々酷く扱いながらも、こいつは可愛がって育てた?」


 言いながら空間魔法を展開する。

 ボトリと音を立てて、受付嬢が落ちる。


 この時、初めて父親が露骨に恐怖心を表した。

 受付嬢は、そこそこの戦闘力を持つ。それを無効化することができたソータは、父親にしてみれば脅威なのかもしれない。


 しかし、ソータは白けた表情をする。

 今まで散々な扱いをしてきた癖に、女を一人捕まえただけでこの変わりよう。とんだ小物だ。


「わ、わかった……。話そう……」


 そこで一旦区切る。

 ソータが眼光鋭く睨み付けると、決意したように話し始めた。


「唯一神様の命令なんだよ……」

「神?」

「ああ、そうだ。お前を散々に扱ったのも、そいつを拾ったのも、冒険者ギルドに入れたのも、全て唯一神様の命令だ。本当は、お前のことをしっかり育ててやりたかったんだ。……だから、許してくれ」


 つまり、今まで酷く扱ってきたのは全部神様の命令だから、許してくれと。

 虫の良い話だ。図々しい。

 ソータの中の怒りは沸々と煮える。


「もう良い……」

「ホントか!? 許してくれるのか!?」

「…………」


 ソータの影は、暗い感情を飲み込んで今、両親に牙を剥く。

次話で二章終了

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