7、復讐の余波は冒険者ギルドを吹き飛ばす
受付嬢は両親と纏めて復讐する。
ルーシャの生体魔法で、その場に縛り付けておいた。
今復讐するのは、冒険者達だけだ。運良く、対象である冒険者は、今ここに全員揃っている。
誰もソータの目的が復讐であるとは気付いていない。
そのことは、誰も逃げたりせずに、大人しく動向を窺っていることからも読み取ることができる。
「さて、今回は折角習得したんだし、物理魔法を使うか……」
復讐は、ソータにとって最高の楽しみだ。
だから、やりたいようにやる。復讐の為に脂肪魔法を開発したが、何もそれに固執する必要はない。
物理魔法で復讐をより楽しむことができるのなら、そうしない理由はない。
ソータは空間魔法を発動する。
目的は、ギルド内の空間の隔離だ。
空間魔法という分類をしていても、その効果は多岐に渡る。
空間を操っていれば、それは空間魔法なのだ。
そして、今回使った空間魔法は、外の空間との繋がりを絶つというものだ。
今、入り口や窓から外へ出ようとしても、ギルドの建物を破壊しても、街へは繋がっていない。
――こうして舞台を整え、ソータはようやく復讐に入る。
使う魔法は重力魔法と空間魔法。
どちらも、希少で強大な魔法だ。使い手はほとんどおらず、国単位の戦いでも重用されるほどの威力を持っている。
それを二つも、惜しげもなく、使う。
重力魔法が発動する。
刹那、重力の方向が歪み、冒険者達は宙を舞う。
冒険者達は、突然の出来事に、一様に驚愕の表情を浮かべている。
そして、その勢いは加速し、加速し、加速し、加速し、加速し――空中を物凄い勢いで飛び回る。
「うああぁああああああああああああああ!」
「ひいいぃいいいいいいいいいいいいいい!」
「やめろ! 止めてくれえぇええええええ!」
そんな悲鳴が右から聞こえたと思ったら上へ消え、下から聞こえたと思ったら既にそこには人がいない。それほどの高スピードだ。
しかも、空間をねじ曲げて無限に飛び続けられるようにしたので、事故が発生することもない。端まで飛んだとき、ランダムでギルド内のどこから出てくるのだ。
つまり、いくらでもスピードを上げることができる。
冒険者達は、終わりの見えないその戦いに、悲鳴をあげることで恐怖を誤魔化すしかない。
これは、いわば何の安全も保証されていない且つ、車両がないジェットコースターに身を投じるようなものだ。
増してや、この世界にジェットコースターなんてものは存在しない。それどころか、自動車や自転車すらも存在していない。
速さになれていないこの世界の住人がいきなり最高難易度のジェットコースターに乗せられたとしても、楽しむことなどできないであろう。
それどころか、かつて味わったことがない程の恐怖を覚えることは必至だ。
結論、冒険者達は絶叫し、号泣し、慟哭した。
何度も何度も、空中を飛び抜けていく。その度に、涙が、鼻水が、尿が、終いには吐瀉物が宙を舞う。
「やめっ! やめてくれぇ!」
「死ぬから! 本当に死んじゃうから!」
僅かに、助けを求める声を聞く。
しかし、それはソータの復讐の快感を高めるスパイスにしかならない。
「キャハハハハハ! クッ! クハハハハハハハハ!」
ソータは、その無様な姿を見て、狂気にまみれた笑い声を建物の中に響かせる。
恐怖の悲鳴と、愉悦の笑声。
二種類の絶叫が、混沌を生み出している。
その状況が作り出す喜悦に溺れたソータは、更なる快楽を求めて速度を上昇させる。
瞬間、悲鳴の響き方が変化する。それが癖になって、ソータは幾度となく速度を上下させる。
「ひああぁぁああああああああ!」
「くふぅうううううううううう!」
「うえぇぇえええええええええ!」
苦痛にまみれたその声が、ソータの脳に大量の快楽を送り込む。
そして、しばらくそれを繰り返した後、変化が起こった。
速度を上げすぎた為に、摩擦熱で発火し始めたのだ。
燃える冒険者達。勢い良く振り回される恐怖と、その熱で、冒険者達の精神はどんどん傷つけられていく。
「熱い……あついよぅ……やめて……くれ……」
「本当に……本当にやめてください……からだがあついんです……」
「やめてください……おねがいします……あついあついあつい……」
最早、叫び声を響かせる余裕すら消え失せていた。
出るのは、弱々しい声だけ。
勿論、ソータはそれを聞き入れない。
それどころか、更なる苦しみへと誘う。
冒険者達は、勢い良く空中を振り回されていたのに、呼吸を出来ていた。普通はそんなこと有り得ない。
ではどうしてか。それは、ソータが魔法によって保護していたからに他ならない。
ソータは、それを外す。
「ごぶぶっ! ごぶほっ! げほっ!」
「が……。あ……。ぐっ……! ぎっ……!」
冒険者達は空気を求めて喘ぐ。
呼吸。それは生物が生存するのに必要不可欠なことだ。
それが封じられる。すなわち、意味するのは死である。
しかも、楽には死ねない。
人体は生き残れるよう、呼吸という行為を本能に刻み込んでいる。
最後まで、空気を、生を体が欲し、その為に苦しみに苛まれながら、死ぬのだ。
「が……!」
何度も呼吸が途絶える。
何度も酸素を求めて口を歪ませる。
「くう……き……。くうきぃ…………」
冒険者達は、自分が空中を駆けている恐怖、自分の身体が燃え上がっている激痛すら忘れ、必死になって呼吸をする。呼吸に徹する。
段々と薄くなっていく意識で、小さくなっていく命で、空気を求める。
しかし、それで出来るようになることでもない。
「くう…………き…………」
そして、冒険者達は空気を求めながら、一人、二人と死んでいった。
全員が死に、空間魔法が解除されたとき、数十個の燃える死骸が壁に衝突し、ギルドの建物を粉々に砕いて炎上させた。




