5、魔法の知識は多い。女性の知識は少ない。
ソータは、ルーシャと何度も話し合いながら物理魔法の練習を重ねる。
魔法練習の基本は『繰り返し』だと一般的には言われているが、そんなことをしている時間はない。
そこで、魔法研究のエキスパートであるソータとルーシャで手っ取り早く物理魔法を習得する術を模索しているのだ。
しかし、何度やっても成功しない。
脂肪魔法の効果はどれも一瞬だ。
脂肪をエネルギーに変えるのも、『脂肪をエネルギーに変化する』という一つの過程で完了するし、エネルギーで火を起こすのも、『熱量を上昇させる』という一つの過程で完了する。
それに対して、物理魔法は総じて『維持する』という過程が増える。
火魔法は、脂肪魔法で起こす火とは違って自分の手で維持しなければならないし、目標にしている空間魔法による物の収納だって、魔法を展開し、維持しているうちに物を放り込まなければならない。
今まで脂肪魔法しか使ってこなかったソータには、その『維持』の過程が難関だった。
ずっと魔力を流し込み続けなければ維持することはできない。
「ぐうぅぅぅううううう!」
火をつけても、一秒も経たずに消えていく。
「魔力が一時的だからダメなのよ」
「それは分かっている。どうすれば長時間流し続けられる?」
「そうね……じゃあ、魔力を流し続けるんじゃなくて、エネルギーを注ぎ込んでおいてそれを漸次魔力に変化させていくっていうのはどう?」
ソータなるほどと思う。
魔力を流し込み続けるのが難しいのなら、別のものとして予め流し込んでおけばいいのだ。
ルーシャは頭が良い。
エネルギーという概念が全く知られていないこの世界で、ソータの説明だけでエネルギーとは何かを完全に掴み、こうして応用すらしている。
生体魔法を極められたことに、復讐に対する信念の他にも、生来の頭の良さが関係しているのは想像に難くない。
「取りあえず、やってみよう」
ソータは物理魔法で火を生み出し、そこにエネルギーを一気に注ぎ込む。それを、魔力に変換していく。
これだけのことで、今まで何度も失敗してきた物理魔法による点火を成功させてしまった。
「よし、次は空間魔法だな」
空間に穴を開けるイメージをする。
その手のフィクションは地球上にいくらでもあった。ソータはそれを思い出す。
物理魔法の使い方を学んだソータが、今更この程度の魔法で失敗するはずもなかった。
「それにしてもこんな早く使いこなせるようになるなんて……」
呆れたような目でルーシャが見てくるのを気にせずに、一度空間魔法を閉じる。
そして、再度展開。今度は、荷物が置いてある地面に空間魔法を展開した。それだけで、重かった荷物はストンと異空間に収納された。
「それにしても、この魔法はどこに繋がっているんだ? ひょっとして、地球に繋がっていたりして……」
有り得ないことを考えたと思ったソータは、首を振る。
しかし、こんな簡単に地球に戻ることができるのなら、元クラスメートや教師、あるいは元の世界での両親に復讐をできるかもしれない。
ソータの中で期待が湧きあがってくる。
しかし、できたとしてもまだそのときではない。
取りあえず今は冒険者達と両親、その次は勇者と聖女だ。
「そろそろ帰らない?」
声に振り向く。
さっきまで上っていたはずの太陽は、いつの間にか完全に沈んでいた。
「そうだな……」
ソータは学んだばかりの物理魔法を使う。
今度は、光を生み出す魔法――一般的に光魔法と呼ばれている魔法の中で、最もシンプルなものを使った。
その瞬間、辺りに光が満ちた。
脂肪魔法開発の為に様々な魔法を研究してきた。勿論、光魔法もだ。
しかし、ここまでの明るさが得られるとは思わなかった。
もしかしたら、脂肪魔法に比べても変換効率が良いのかもしれない。
今度いろいろ試してみるか……と思いながら、ソータは街へ戻っていった。
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金が入ってきたので、ソータとルーシャは最高級の宿に泊まることにした。
遅くなってしまって安いところが空いていなかったという理由の他に、久しぶりに柔らかいベッドで寝てみたいという理由からの決断だ。
「お二人様ですね?」
首肯すると、部屋に案内される。
木造の床をギシギシ鳴らしながら歩いていく。
そして、連れてこられたのは二人部屋だった。
「あの……別の部屋が良いんですが……」
普段の強気な言葉遣いとは一転、頬を仄かに朱くしたルーシャは、柔らかい口調でそう言った。
ただの共犯者に、何をそんなに恥じらうのかとソータは疑問に思う。
「すみません……。二人部屋しか空きがなくて……」
この展開に呆れるソータと、相変わらずもじもじしているルーシャ、それに申し訳なさそうな顔をしている女将さんの間に、気まずい沈黙が流れる。
その沈黙を破ったのは、意外なことにルーシャだった。
「あ、あたしは良いよ……ソータと一緒でも」
「俺もそれで構わん」
そして、二人は同じ部屋に入っていく。
「じゃ、じゃあ、あたし風呂入ってくるから!」
すぐにルーシャは飛び出していった。
そんなに二人になるのが気まずいのだろうか。
転生前も転生後も、まともに人と関わってこなかったソータに、女性関係の正常な感覚があるわけがない。その上、ソータはルーシャを単なる共犯者としか見ていない。
そんなソータから見て慌てるルーシャは大いなる疑問だった。
ソータはルーシャに欲情しない。




