3、怒りを殺し、復讐対象の巣窟へ ~そして初依頼~
ギギィ……と軋む扉を開けて、冒険者ギルドに入る。
下品に笑いながら酒を飲んだり、ゲームをしていた冒険者達が、一斉にソータとルーシャの方を向く。
ソータは、自分の心の奥底からどす黒い感情が溢れてきているのを感じた。
忘れるはずもない。ソータを仲間外れにし、嘲笑った奴らだ。
勿論、冒険者達が痩せて美青年になった今のソータと、過去の太ったソータを結び付けられる筈もない。
「おいおいおいおいおーい! ここは手前らみたいな貧弱そうな奴らが来る場所じゃねぇぜ!? ギャハハハハハ! まあ、もし冒険者になるってなら止めはしねえがな! 早死にするだろうな!」
「「「ギャハハハハハ!!」」」
何が面白いのか分からないが、嘲られて気持ちが良い訳がない。
ソータの怒りは見る見るうちに増していく。
しかしまだ、攻撃をして良い段階ではない。
ここで問題を起こすと、後々動きにくくなる。
ソータは巻き起こる嗤いを無視し、足をドスドスと踏み鳴らしながらカウンターへと歩いていき、受付で登録を依頼する。
「おい、登録二人分だ」
受付嬢も、過去にソータを嘲った奴らのうちの一人だった。
恐らく性格が悪いのだろう。今もソータとルーシャを見ながら面白いものを見たような顔をしている。
大組織である冒険者ギルドの受付嬢を任されるだけあって顔は良いが、この性格が全てを台無しにしている気がする。
必要事項を用紙に書き込むと、試験などを受けることもなく、あっさり登録が完了した。
「おいおいー、試験受けないでいいのかよー」
「ホントにこいつら冒険者にしても良いのかぁ?」
しかし、そんなことを周りの冒険者達がニヤニヤしながら言っていることから、テストを受けなければならないことは確実なようだ。
ソータは記憶を呼び起こす。過去に登録したときも試験なんて受けなかった。
前回も今回も、冒険者達の遊び道具として扱われてるということだろう。むしろ前回は、一度だけでもパーティーを組んでくれる人がいただけありがたかったのかもしれない。
ソータは、自分達を煽り続けている冒険者達を乾いた目で一瞥する。それと同時に映るのは、酒とゲーム。
冒険者ギルドは、国の依頼で動くことも多々ある。国の騎士団と双璧をなす、国家を防衛する上で最も重要な機関でもあるのだ。その為、国の庇護下にある。
それがこの堕落のしようで良いのだろうかと、ソータは考える。これでは国からの依頼なんてまともに受けられないであろう。
「取りあえず、これを受けよう」
ソータは、登録の手続きが終わるなり依頼の紙を掲示板から剥がし、カウンターに持っていく。
通常、冒険者ギルドには階級があり、それに見合ったランクの依頼しか受けられない。
しかし、今受けようとしているのは明らかに自分達のランクを上回る。
だが、このギルドは適当で、むしろソータ達を見て嘲り、楽しんでいる節すらあるので、こういうところには寛容だろう。
案の定、受付嬢はその顔から笑みを絶やさずに、依頼を認めてくれる。
「精々頑張ってこいよー」
「死ぬんじゃねぇぞー! まあ、別に死んでも良いんだがなぁ!」
ソータは嘲笑を飄々と聞き流すような素振りを見せながら、全てを腹の中に溜め込み、冒険者ギルドを出る。
木造の建物に酒と汗の臭いが染み込み、いるだけで復讐心が湧き上がってくる冒険者ギルドから出ると、空気がとてもおいしかった。
▽
ソータ達は街を一旦出る。勿論依頼の為だ。
依頼内容は『東の山で眠るファイヤードラゴンの討伐(A以上推奨、C以下禁止)』。
通常ファイヤードラゴンはAランクより上、最上級であるSランクの冒険者でようやく倒せるレベルだ。
しかし、今回の対象は眠っている。そのため、優先度も低く緊急依頼になっていないし、Bランク以上であれば受けられる。
ちなみに登録したばかりのソータとルーシャは、最低であるFである。間違ってもファイヤードラゴンの討伐などをやらせていいランクではない。
ソータとルーシャは山を登る。
大して高くない山の頂上にファイヤードラゴンはいるらしい。
「はぁ……はぁ……」
「ふぅ……ふぅ……」
二人は少ない体力を振り絞って一歩一歩進めていき、そしてついに、そこにたどり着く。
全てを飲み込んでしまいそうな、圧倒的な存在感。
これでも寝ている状態だなんて信じられない。そこにいるだけで苦しみが襲ってくるような感覚に陥る。
暴力そのものが、そこにいた。
一〇メートルほどの巨体を持つドラゴン。
その紅い鱗の一つ一つが、炎を表しているようにも見える。ファイヤードラゴンというのは、シンプルながらもなかなか的を射た名称だ。
ソータは早速脂肪魔法を使い、ファイヤードラゴンの脂肪を熱エネルギーに変換する。
それだけで、炎の演舞が繰り広げられる。
炎が、巨大なドラゴンを焼き焦がし、消し炭にしていく。その光景がありありと思い浮かべられるようだった。
しかし、炎が晴れたとき、そこにいたのは傷一つ付いていないファイヤードラゴンだった。
『久しぶりに強そうな奴がきたようじゃな! あと、火はわしの力になるだけじゃ! はっはっは――』
声が途絶える。
途絶えた声の先には、ドラゴンの首だけがあった。
ルーシャが生体魔法で体をを消し去ったのだろう。
ソータは討伐証明部位である角だけを、切り取って持つ。
そして、あっさりと依頼を終えた二人は山を下っていく。
これでもファイヤードラゴンは強いのです。
そもそも自分の中で燃えている炎を弾くとかチート。




