2、商店街に行って、買い物を(しようと)した。
ソータとルーシャはローマンに入った。
プラメトとは比べものにならないくらいに広大で賑わしいローマンに、入ってすぐに愕然とする。
勿論地球での都会程ではないが、この世界に来てからプラメト以外の場所に行っていなかったソータは、この世界にこれだけの人が居たのかと驚いたのだ。
また、ソータが驚いた点は他にもあった。
技術レベルが高いのだ。
勿論地球と比較してしまうと、天と地ほどの差がある。コンクリートで形作られた建物があるわけでも、超高層ビルがあるわけでもない。
それでも、プラメトの、草を編んでつくられたような家と比べると、かなり綺麗だと言える。
煉瓦でつくられた統一感のある家が計画的に並べられ、それを引き立てるように石畳が敷き詰められた街並みは、一種の芸術性すら秘めていた。
「さて、そろそろ目的の商店街に行くか」
ソータは疲れた足取りで歩き始める。
ソータとルーシャが入ってきたこの居住区域は、店や宿が立ち並ぶ商業区域の反対側にある。
つまり、目的である物資の補給と復讐、あるいは休むための宿を確保するにしても、このだだっ広い街を歩いて移動しなければならない訳だ。
ここまでずっと歩いてきたので、これくらいなら今更という感じはするが、それでもやはり、着いたあとにまた歩くというのはつらい。
最初は整っていて綺麗だと感じた街並みも、歩いて疲れてくるにつれて、だんだんとそうは見えなくなってきた。むしろ、同じ景色ばかりで飽きてくる。
「あとどれくらいだ?」
「えー……三キロくらいね……」
訊ねるソータに、ルーシャは索敵魔法で人の反応を見て、そう答える。
明らかな疲労を滲ませた声での問答。
横を走り抜けていった少年が、ギョッとして振り向いた。
そして、ソータとルーシャは一点だけを見て、できる限り頭を空にしながら歩く。疲れたときは頭を空にするのが最もラクなのだ。
「――――――」
「………………」
しばらく無言で歩いていたが、ようやく耳を打つ喧騒に、ソータは顔を上げる。
その横では、ルーシャが目を輝かせていた。
広がる光景は、今まで見たことないような光景だった。
建物の横に広げられた数々の屋台と、路面を埋め尽くす程の人の波。
一人一人の顔が活き活きとしていて、幸福感が染み出ている。
日本の祭りにも似た光景だが、周りの建物が西洋風であるところだけが異なっている。逆に、それだけで全く違う雰囲気を醸し出している。
ルーシャは、ソータ以上に食いついている。ソータのような特別な事情があるわけでもなく、ずっと村から出ずに暮らしてきたルーシャには、その感動もひとしおなのだろう。
「今日の買い物は奮発するわよ!」
気合いを入れて商店街を睨み付けるルーシャ。
ソータも同じ気持ちだったが、今になってあることに気付く。
「ルーシャ……俺ら、お金もってない……」
雑踏の中で、二人の周りにだけ静寂が訪れる。
ヒュオオオオ……と、乾いた冷風が吹いたような感覚がした。
「このままじゃ目的の物資補給もできなければ宿に泊まることもできない。勿論、食べ物を買うことも観光することもできるはずがない。どうする?」
「いや、どうするって言われても困るんだけど」
「選択肢は三つ。諦めるか、冒険者になるか、そこらの屋台でバイトするか」
と選択肢を三つ提示しつつも、ソータは実質取れるのは冒険者になるの一択だけだと思っていた。
諦めるのは、論外。この先お金を全く持たないで進むなんてことはできない。
そして、バイトには、非常に手間がかかる。人混みの中を突っ切っていって屋台主に声を掛け、人手の足りていないところを探して雇ってもらう。それだけでもかなりのハードルなのに、仕事を覚えてこなさなければならない。
向こうもどうせ育成をするのなら長期的に働いてくれるような人が良いだろうし、どう転んでも一日で必要額を稼ぐことは不可能だ。
ならば、冒険者になるしか道はない。
脂肪魔法が使えるソータと、生体魔法を極めているルーシャなら、冒険者になることはできる。
過去のトラウマがあるが、この際仕方ないだろう。
「……やっぱり屋台の仕事が良いわ」
ソータが熟考して、冒険者しかないと決断をした時、丁度ルーシャの意見も纏まったらしい。
そして出た答えがそれだ。
深く考えておらず、やりたいことを言っただけなのだろう。
わざわざ三つも選択肢をつくったソータは、自ら二つの意見を潰す解説をルーシャにしていく。
それを聞き終わったとき、ルーシャは残念そうな顔を浮かべながらも、冒険者になることを承諾した。
ルーシャにとっても、復讐が第一だ。
バイトをやってみたい気持ちは大きかったのだろうが、復讐を先延ばしにしてまでやりたいことではなかったのだ。
そして、ソータは、過去に向かって歩いていく。




