1、イノシシを焼く
二章突入です。
よろしくお願いします。
ソータとルーシャは、プラメト村から少し離れたところにある街、ローマンに向けて足を進める。
ローマンに向かう目的は二つある。
一つは、勇者と聖女がいる王都へ向かうのに必要な物資の補給。
プラメト村とは違い、それなりに栄えているローマンでは、様々な物資が流通している。ここで物資を補給して、王都までは余裕のある旅をするのだ。
そしてもう一つは、買い出しに行っている両親と、かつてソータをパーティーから外した冒険者達への復讐。
勿論、復讐第一のソータにとってはこっちの方が重要だ。
ソータは、エネルギーを操れば、一瞬でローマンに着くこともできる。
エネルギーを操っての高速移動や空中移動など、時間を縮める方法はいくらでもある。
しかし、いずれにしても目立ってしまう。
誰かにその瞬間を見られ、警戒されて復讐に支障をきたすようなことは、できる限り避けたい。
というわけで、ソータは王都へ辿り着くまでの食料をローマンで補給するわけだ。
しかし、勿論ローマンに到着するまでにも、食料は消費する。その分の食料の確保も必要である。
それがなければ、餓死は免れない。
だが、村は焼けてしまって食料になるような物はなかった。
脂肪魔法を使えば食事をしなくても、エネルギーの補給は可能だ。
しかし、人間である以上、食事くらいはしっかり取りたい。
ならば選択肢は一つしか残されていない。
その道程で食料を得るのだ。
幸いにも、火起こしはすっかり身に付いたし、調理には事欠かない。
ソータはそんなことを考えながら、全く整備がされていない、ゴツゴツした石が剥き出しになった道を歩く。
数年数十年と踏まれ続けた為か、草が生えてこなくなっている。
だから、多少は歩きやすくなっているが、それでも整備されていない道を歩くのはやはり疲れる。
特に、長年運動をしてこなかったソータとルーシャにはつらい道のりだ。
ソータは脂肪魔法で意図的に脂肪を燃焼させ、エネルギーを何とか保ちながら歩き続ける。
そして体力と勝負しながらひたすら黙々と歩き、日が落ちてきた頃、ようやく会話をする。
「何か引っかかったわ。……これは……イノシシっぽいわね」
「イノシシか……。よし、そいつを今日の食料にしよう」
予めソータに言われて索敵魔法を展開していたルーシャが、ようやく食料になりそうなものを見つけたのだ。
ソータはそいつを今日の食料にするべく、肌の見えている地面から少し外れ、鬱蒼と草が茂る場所に入っていく。
二〇〇メートルほど進むと、イノシシの反応がかなり強くなったとルーシャが警告したので、音を立てないように、慎重さを増して歩く。
やがてイノシシの姿が見えてきた。
それと同時に、イノシシもソータの存在を認めたのか、勢い良く逃げ出す。
イノシシは鼻が良く、神経質な動物だ。遠距離攻撃の手段を持っていなければ追い付くまでに気付かれ、逃げられる。
イノシシが草を掻き分けながら凄い勢いで逃げていく。
しかしソータは、敢えてそれを追いかけない。
勿論諦めたわけではない。追いかけるまでもないのだ。
次の瞬間、イノシシの全身が炎に包まれた。
「プギッ、プギィイイイイ!」
イノシシの断末魔が森に響き渡る。
したことは単純。イノシシにエネルギーを与え、一気に熱を上げただけだ。つまりは村人達を燃やしたのと同じ原理。
別に余計な捻りを加えなくても、これさえあれば大抵のことはできる。
草を手でどけながら、ソータはイノシシが倒れているところに向かう。
見ると、既に火は消え、良い具合に焼けている。これなら香辛料抜きでも、美味しく食べることができるだろう。
ルーシャに生体魔法で筋力を強化してもらうと、イノシシを持ち上げて草のない道まで戻る。
地肌が露出していて、邪魔な草がない分、道に出た方がいくらか調理しやすい。
気付くと、日が落ちてきている。
ソータは今が丁度良い時間だと判断し、すぐにイノシシを食べてしまうことにした。
イノシシを食べるのは生まれて初めてのことだ。
村にいた頃は安い野菜ばかり食べていたし、転生前もイノシシを食べたことは一度もなかった。
ソータは、既に焼きあがっているイノシシを一切れ、口に含む。
「ん、んん~!」
こちらの世界に生まれ直して初めての美味しさに、ソータは感動の声をあげた。
地球でのイノシシは、食肉としてメジャーな豚の祖先でもあり、鯨と食感が似ていることから山鯨と呼ばれることもある。
そこからも分かる通り、イノシシは美味しいのだ。とてつもなく。
香辛料がないのが残念ではあるが、それでもこんなに美味しいものを食べたのは初めてかもしれない。
一時間ほどかけてイノシシを、骨を残して平らげるとソータとルーシャは再び歩き出した。
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食って、寝て、歩く。
そんなリズムで進み続けること三日、ついにソータは遂にローマンに到着した。
待っているのは新たな復讐だ。




