第52話 ミレーヌ(元ヒロイン)の再登場。隣国皇太子に取り入っていた件
限界オタクの嫌な予感(フラグ察知能力)というものは、当たる時ほどよく当たる。
隣国皇太子ヴィルヘルム・グランゼルと、その不愉快な視察団を屋敷の客間へ通し、最低限の貴族の礼を尽くしつつ、こちらも最低限以上(臨戦態勢)の警戒を敷いた私は。
その日の夕刻にはもう、ハッキリと一つの確信を抱いていた。
――この視察団、絶対にウチの領地で何か良からぬことを企んでおりますわね。泥棒猫の匂いがプンプンしますわ。
「……今さらだな」
執務室へ戻るなり、クライス様が氷点下の声で低く言った。
「今さらですわ」
私は即答した。
「ですが、今朝の到着の段階では、“ただ傲慢で頭の悪い厄介な皇太子”というだけの可能性も、なくはなかったのです」
「今は違うと」
「ええ」
私は机へ広げた領都の簡易動線図へ、ペンでトントンと視線を落とす。
「護衛の立ち位置と視線の動かし方が、明らかに妙ですわ。あれは友好国の視察随行の配置ではなく、対象の弱点を探る時のスパイの散らし方です」
「……」
「レオンという視察官の男も、表向きは皇太子の暴言を止めているふりをしておりましたけれど、止め方が甘い」
「わざと泳がせている?」
「ええ。皇太子の暴走を隠れ蓑にして、裏で別の意図を動かしている可能性は高いですわね」
クライス様は無言で、険しい顔で頷いた。
昼の視察は、当然ながらこちらの見せたい表面的な範囲だけに絞った。
魔法で再生した農地の一部、活気ある市場、温泉施設の手前の足湯まで。
特産品の菓子工房も“一般見学用”の区画だけ。
私が組み上げた利益の核心システムへは、1ミクロンも触れさせていない。
だが、それでもヴィルヘルムの目は、ひどく強欲で落ち着きがなかった。
辺境の景観を見ているのではない。
利益の匂いを嗅ぎ、奪えるものを金で測り、どこをどう崩せばこちらが困るかを探っている、ハイエナのような目だった。
そして何より。
「私を見るあの視線が、最高に気持ち悪くて嫌でしたわ」
私がポツリと本音を漏らすと、隣のクライス様の気配がまた一段、殺気で冷えた。
「……だから、俺の背後から出るな(見るな)と言っておけばよかった」
「無理ですわよ。当主夫人としての視察案内中ですもの」
「……チッ」
「ですが、本当に吐き気がするほど気分の良いものではございませんでしたわね」
私は小さく、心底不快そうに息を吐く。
「あれは人を見る目ではなく、ショーケースの便利な所有物(道具)を選ぶ目でしたもの。前世のセクハラ上司を思い出しますわ」
その言葉に、クライス様の指先が机の端でミシッ……と嫌な音を立てて鳴った。
危ない。
いけない。
また夫の怒りの温度が絶対零度まで下がってまいりましたわね。木製の机が凍りそうです。
私はコホンと咳払いを一つして、無理やり話を戻す。
「それより」
「何だ」
「もう一つ、ひどく引っかかることがございます」
「何だ」
「香りですわ」
「……香り?」
私は、獲物を狙うように目を細めた。
今日一日、視察団の連中と何度か距離が近づいた。
そのたび、護衛や官僚の男たちからするはずのない、微かに甘ったるい香りがしたのだ。
強すぎる、自己主張の激しい花の匂い。
少しだけ安っぽくて、けれど本人は高級だと思っていそうな、あの脳の芯が痛くなる独特の香り。
前世の乙女ゲームの知識でも、そして現世での実体験でも。
私はその不快な匂いを一度、ハッキリと嗅いだ覚えがある。
「……まさか」
クライス様が、私の意図に気づいて低く言う。
「ええ」
私は頷いた。
「まだ完全な断定はできませんけれど」
「ミレーヌ、か」
「可能性は極めて高いですわね」
その名が出た瞬間、執務室の空気がピシリと、嫌悪感で極限まで緊張した。
ミレーヌ。
この世界の『元・ヒロイン』。
バカな王太子アーサーに取り入り、私へ冤罪を着せて婚約破棄させ、最終的にはその悪事がバレて隣国へ国外追放された哀れな女。
愚かで、浅はかで、けれど自分を“世界で一番愛されるべき悲劇のヒロイン”だと疑わなかった、歩く承認欲求のバケモノ。
確かに、あの男たちから漂った香りは、彼女が好んで使っていた香水と完全に一致していた。
学園時代、廊下の向こうからあの匂いが漂ってくるたび、私は何度か心底うんざりしてUターンした覚えがある。
「追放されたのだから、生きていてもおかしくはない」
クライス様が冷静に分析する。
「国外追放で、死罪ではないからな」
「ええ」
「だが、ただの追放された罪人が、大国の皇太子の背後へつくには飛躍がありすぎる」
「普通に考えれば、ですわね」
私は唇へ指を当て、冷たく笑った。
「でもミレーヌは“権力者の庇護下へ入り込む”ことだけは、天才的に上手い女ですもの」
「……」
「自分で努力して何かを成し遂げる力は1ミクロンもなくても、地位のある男へ取り入って、都合の良い涙を流して、可哀想な被害者ぶることには異様に長けております」
私は静かに、核心を突いて告げた。
「しかも、あのような自己顕示欲の強い傲慢な男ほど、そういう女の安い涙に引っかかりやすい」
ヴィルヘルムのあの薄っぺらい顔が脳裏に浮かぶ。
傲慢で、自尊心が高く、自分に傅く弱い者を好み、自分を満たす便利な道具を当然のように集めたがる男。
……ええ。
大変、最悪の相性がよろしくてよ。類は友を呼ぶとはこの事ですわ。
「見つけるか(狩るか)」
クライス様が、静かな殺気を孕んで問う。
私はニッコリと、悪魔のように笑った。
「当然ですわ」
◇ ◇ ◇
その日の夜半を過ぎた頃。
視察団には、屋敷の離れの客間を与えた。
だが、こちらはただ無防備にすやすやと眠らせてやるほど甘くない。
動線は完全に絞った。
監視の影も幾重にもつけた。
使用人にも「絶対に口を割るな」と最低限の警戒を敷いた。
そして私は、屋敷の西棟の薄暗い回廊を、クライス様とともに無音で歩いていた。
足音を殺す。灯りは最小限。
窓の外には、冷たい月明かりだけが差し込んでいる。
「本当に、罠にかかって出てくるのか」
クライス様が耳元で低く言う。
「来ますわ」
私は自信満々に即答した。
「ミレーヌが本当にこの視察団に紛れ込んでいるなら、必ず、私の粗探しのために夜な夜な動きます」
「どうしてそこまで分かる」
「だって、あの女ですもの」
私は鼻で笑いそうになるのを堪えた。
「“私にざまぁされたままで終わる可哀想なヒロインの自分”など、あのプライドの塊が絶対に受け入れられませんわ」
「……」
「今頃、私がこの領地で最高の夫に愛されて幸せそうにしているのを見ただけで、嫉妬と憎悪で腹が立って発狂寸前のはずです」
「それも、ひどく面倒な執着だな」
「ええ、ストーカー顔負けでとても不快ですわ」
回廊を折れた先。
客間へ続く、普段は使われていない小さな談話室の方から、微かな話し声がした。
ピタリと止まる。
クライス様の大きな手が、私の腕を軽く引いて庇う。
壁際の暗い死角。
そこへ身体を寄せた瞬間、聞き覚えのありすぎる、あの脳が溶けそうな甘ったるい声が、夜気の中へ漏れてきた。
「ですからぁ、ヴィル様ぁ……」
ゾワリ、とオタクの背筋に悪寒が走る。
間違いない。
この、語尾を不必要に伸ばすバカっぽい癖。
媚びた甘さ。
それを男にとって“最高に可愛い”と思っている、自意識過剰な響き。
元・ヒロインのミレーヌだ。
私は反射的にクライス様を見上げる。
向こうも、声の主を完全に理解した顔だった。
蒼い目が、絶対零度の吹雪のようにひどく冷えている。
談話室の扉は完全には閉まっていない。
わずかに開いた隙間から、灯りが細く漏れている。
「本当に、あんな田舎の辺境女なんかより、次期皇帝のヴィル様の方が、あの領地にはずっとお似合いですのにぃ」
「……」
「ルシアは昔からそうでしたわ。男の気を引くためなら、平気で有能ぶって、人の手柄を横取りするんですの!」
「有能ぶって、か」
ヴィルヘルムの声だ。
昼間より少しくだけている。酒が入っているのかもしれない。
私は眉一つ動かさず、静かに壁へ背を預けた。
昼間、私を値踏みしていたあの不快な目。
今なら完全に繋がって分かる。
あれは単なる好色ではない。
すでに隣国で、ミレーヌから私の『偽りの情報』について、ある程度の“都合の良い説明”を聞かされていたのだ。
「そうですわぁ」
ミレーヌが、憎悪を隠しきれない鼻にかかった声で続ける。
「学園でも王宮でも、あの女はずる賢く立ち回ってただけですもの。見た目だけ冷たくて完璧ぶって、でも本当は自分が一番ちやほやされて、男の上に立ちたがっていたんですのよ?」
「……ほう」
「だから、今だって絶対にそうですわ。辺境の田舎伯爵に嫁いで満足してるふりをしても、心の中じゃ、もっと上の地位(王族)を狙ってるに決まってますの」
「なるほど」
ヴィルヘルムが、自分の都合の良い解釈を与えられ、愉快そうにゲスく笑う気配がした。
私は、静かに呆れて目を閉じた。
ああ。
何一つ、あの頃から成長していないし、変わっていない。
あの女の脳内の世界は、驚くほど狭い。
自分が権力と男を欲しがる強欲な人間だから、相手(私)もそうだと思い込む。
自分が称賛や地位や男の寵愛を欲しがるから、他人も同じだと信じて疑わない。
だから、永遠に理解できないのだ。
私が、あの王太子を蹴って、本気で辺境の『クライス様』をただ一人選んだことも。
この貧しかった領地を、心から愛して豊かにしようとしていることも。
「ですが、殿下」
レオンの声が割って入る。
昼間の抑えた調子のまま、彼だけは冷静だった。
「あの女は、昼間の態度を見る限り、一筋縄ではいきません。我々になびくとは思えませんが」
「なびかせますわぁ」
ミレーヌが、クスクスといやらしい声で笑う。
「だって、ルシアの弱点は分かりやすいですもの」
「分かりやすい?」
ヴィルヘルムが聞く。
「ええ」
ミレーヌの声が、ひどく甘く、暗い毒を帯びる。
「あの女を無理やり奪えば、あの氷の辺境伯も精神的に崩れますわ」
「……」
「領民からの信頼も、バカ売れしてるお菓子の商売も、全部、あの女一人が頭となって回してるんですもの」
「ほう」
「つまり」
彼女は、自分が世界一の策士であるかのように、得意げに言った。
「ルシアを孤立させて奪えば、あの豊かな領地の利権も、全部ヴィル様のもの(手に入る)なんですのよ」
「…………」
私は、暗闇の中でとても静かに、冷酷に笑った。
なるほど。
そこまで腐った思考回路に来ましたのね。
私個人を愛妾としてどうこうしたいのではない。
いや、それもあるのだろう。
だが本命は、その先の『領地の財源』だ。
私を無理やり引き剥がし。
クライス様の精神を揺さぶって崩し。
領地運営を混乱させ。
そこへ、隣国が救済を装って軍事介入(侵略)して利権を奪う。
ええ。
実に分かりやすくて、三流悪役らしくて、吐き気がするほど胸が悪い構図ですこと。
隣で、クライス様の気配が、完全な『殺意』へ変わりかける。
私は素早く、その剣ダコのある太い手首へ触れた。
「待ってくださいまし」
ごく小さな、唇を動かすだけの囁き。
だが、ちゃんと届いたらしい。
クライス様の大きな手が、ギリッ、と一度だけ私の手を痛いほど強く握り返してから、ピタリと止まる。
談話室の中では、まだ愚かな声が続いていた。
「ルシアはね、強く見えても、結局は権力のある男へ媚びて守られてるだけなんですの」
ミレーヌが嘲笑う。
「だから、次期皇帝のヴィル様が本気で『お前が欲しい。こっちへ来い』って圧倒的な力で命令すれば、絶対にいつか恐怖で揺れて、股を開きますわ」
「……」
「それに、あの田舎の辺境伯なんて、所詮は地方の頭の悪い剣馬鹿ですもの。殿下の敵ではありませんわ」
「…………」
その瞬間。
クライス様の気配が、完全に氷点下へ落ち、殺気が実体を持って膨れ上がった。
いけない。
これは本当にいけない。
私は反射で両手を伸ばし、その太い腕へ必死にしがみついた。
今ここで彼が扉を蹴破れば、ミレーヌと皇太子をまとめて物理的に細切れの肉塊(凍死)にしかねない。
それはオタクとしては大変スカッとして見たい気もするが、外交上、後処理が死ぬほど面倒になる。
「ク、クライス様」
「……」
「お気持ちは痛いほど分かります」
「……」
「私も今、かなり本気であの勘違い女の頭をかち割って、国境の彼方へぶん投げたいですわ」
「……ッ」
「ですが、これで確たる『証拠(言質)』は取れました」
私は耳元で、背伸びをして低く甘く囁く。
「でしたら次は、こちらの反撃ですわ」
数秒。
数秒だけ、クライス様の呼吸が怒りで鋭く上下した。
だがやがて、その凄まじい殺気は、私の声によってギリギリ理性の内側へ押し戻される。
「……分かった。お前の言う通りにする」
「ありがとうございます。さすが私の有能な夫ですわ」
「礼は要らん」
「でも、私が言いたいので必要ですわ」
「……」
私はそっと手を離した。
談話室の中では、ミレーヌがまだ己の有能さをひけらかすように何か囀っている。
自分がどれほど浅はかで、今まさに『死の淵』に立っていたかも知らずに。
愚かですわね。
本当に、どこまでも、救いようのない哀れな女。
◇ ◇ ◇
自室の寝室へ戻った後も、しばらく空気は冷え切ったままだった。
クライス様は窓際に立ち、腕を組んでジッと夜の闇を見ている。
背中だけで分かる。
怒っている。
それも、昼間の領門前の比ではない。
当然だ。
愛する妻を『股を開く女』と侮辱され。
自分が血を吐いて守ってきた領地を狙われ。
しかも、その企みの背後に、かつて王宮で妻に散々迷惑をかけてきた『因縁の女』がいたのだから。
私はしばらく様子を見て迷ってから、そっと背後から近づいた。
「……クライス様」
「何だ」
「激しくお怒りですわね」
「当たり前だ」
「ええ」
私は彼の広い背中に頷く。
「私もです」
クライス様が振り返る。
その蒼い目は、まだ獲物を殺す直前のように鋭い。
「俺は」
地を這うような低い声が落ちる。
「あの女を、この領地へ入れた時点で気づくべきだった。俺の落ち度だ」
「無理ですわ。ご自分を責めないでくださいまし」
「……」
「一瞬すれ違った香水(残り香)だけで確信など、普通は持てませんもの」
私は小さく、彼を安心させるように笑った。
「残念ながら、ミレーヌという存在が、私の人生にとってあまりにも不快すぎて記憶に残っていただけです」
「……そうか」
「ええ。それに」
少しだけ、沈黙。
それから私は、正面からクライス様の目を見た。
「潜り込んでくれたおかげで、最大の収穫がありました」
「……」
「相手の狙いが、手にとるようにハッキリしましたもの」
私は指を一つひとつ折って数える。
「一つ、私を引き剥がして孤立させる」
「二つ、クライス様を精神的に揺さぶる」
「三つ、領地の金脈と運営を崩す」
「四つ、そこへ隣国が恩着せがましく軍事介入する」
「……」
「とても分かりやすくて、頭の悪い三流の作戦ですわ」
私はニッコリと、この上なく邪悪に笑った。
「でしたら、対策(迎撃)も立てやすい」
クライス様の目が、少しだけ細まる。
ただの怒りとは別の色。
そう、戦場へ入る前の、氷の騎士の『冷徹な指揮官の顔』だ。
「何をする気だ」
「まず、私を奪うのは天と地がひっくり返っても絶対に無理だと、絶望という形で理解していただきます」
「当然だ」
「ええ」
私は頷く。
「その上で、愛する私たちの領地へ泥棒猫が手に入れようとしたらどうなるか、きっちりと骨の髄まで叩き込みます」
「……」
「ミレーヌには」
私は静かに、だが青い炎を燃やして告げた。
「あの王宮以上の、再起不能の『二度目の断罪』を差し上げましょう」
その言葉に、クライス様の張り詰めていた気配が、ほんの少しだけ和らぐ。
「本当に」
低く、わずかに呆れたような、けれど溺愛に満ちた声。
「お前は、敵に回すと容赦がないな」
「何をおっしゃいますの」
私はコテンと首を傾げた。
「愛する推しの領地と、私たちの平和な新婚の日常を脅かすクズ相手へ、1ミクロンの遠慮など不要でしょう?」
「……」
「むしろ、命まで取らないだけ、十分に仏のような温情ですわよ」
「そうか」
「そうです」
すると、クライス様が一歩近づいた。
そのまま、当然のように私の腰をグッと強く抱き寄せる。
「……ッ」
さっきまで完全に仕事(迎撃)モードだったせいで、この甘い不意打ちは少々心臓に危険だ。
だが、今は逃げるつもりもない。
「奪わせる気はない」
クライス様が、私の耳元で重く低く言う。
「一ミリも、誰にも」
「存じておりますわ」
「お前は俺の妻だ。誰にも絶対に渡さない」
「ええ」
「分かっているか」
「もちろんです」
私はその厚い胸元へ、コトリと額を寄せた。
「だって私は、自分の強い意志で、あなたを選んでここにおりますもの」
「……」
「愛するクライス様の隣が、私の永遠の特等席(居場所)ですわ」
その言葉に、抱き寄せる腕の力が、痛いほど少しだけ強まる。
ああ。
この人、本当に怒っていたのだ。
そして今も、怒りの芯は消えていない。
ただ、私の言葉と体温で、どうにか修羅の道から理性の側へ戻ってきている。
「明日から、少し防衛戦で忙しくなりますわね」
私が言うと、クライス様は私の髪にキスを落として短く答えた。
「ああ」
「でも」
「何だ」
「負ける気は、微塵もいたしませんわ」
私は自信満々に笑った。
「だって、こちらには『最強の氷の騎士』と、ちょっと有能すぎる『限界オタクの妻』がおりますもの」
「ちょっと、か」
「かなり?」
「かなり、圧倒的にな」
「それは光栄ですわ」
クライス様が、ようやくほんの少しだけ、口元を緩めて笑った。
そう。これでいい。
敵の正体は完全に見えた。
思った以上に胸が悪くて、思った以上に浅ましく、学習能力のない組み合わせだったけれど。
ならば、こちらはもう迷わない。
傲慢な隣国皇太子ヴィルヘルム。
そして、その背後で都合よく囀る元ヒロイン、ミレーヌ。
彼らはどうやら、“私を奪えば、金も領地も手に入る”などという、実に愚かで身の程知らずな夢を見ているらしい。
――なら、その夢。
二度と現実で目を開けられないくらいに、完膚なきまでに物理的・社会的に叩き潰して差し上げますわ!




