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婚約破棄の瞬間に「前世の記憶」が戻りまして。〜ヒロインの座は譲りますので、私は推しキャラの側仕えを目指します!〜  作者: 綾瀬蒼


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109/119

第109話 公開記者会見で完全ざまぁ。アーサーとミレーヌの社会的抹殺

 運命の、緊急公開記者会見の当日。


 私は、フラッシュが待つ会見場の袖で、たいへん静かで冷酷な顔をして待機していた。


 表情だけ見れば、ただの有能で完璧な社長秘書である。

 落ち着いている。

 冷徹である。

 手元には、相手を確実に地獄へ落とすための分厚い資料がすべて揃っている。

 進行表も、メディア向けの想定問答も、不測の事態(相手の乱入)に備えた緊急時対応も、1ミリの抜かりもない。


 だが。


「ふ、藤咲さん」

 広報責任者が、青ざめた顔で小声で呼ぶ。

「はい。何でしょう」

「顔が……無表情すぎて、殺し屋みたいで怖いんだけど」

「仕事ですので」

「その言い方、最近ほんとに怖いのよ。裏社会の人?」


 私は胸の前でファイルを抱え直し、スッと姿勢を正した。


 本日の会見は、メディア向けの名目上は“最近のSNS等の噂に関する、弊社からの事実説明”である。

 だが、私の裏の目的(実態)は違う。


 これは、処刑場だ。


 もっとも、前世のように魔法で焼き尽くしたり、剣で血飛沫を飛ばしたりはしない。

 ここは現代日本である以上、私が使う最高の武器は、法と証拠とデジタルログと『生配信という公開の場』。

 そして、最も効率的で、最も残酷に、最も取り返しのつかない形で相手の逃げ道を塞ぐ『社会的な断罪の手順』。


「社長、本番前の最終確認です」

 私は、隣に立つ九条CEO――私の愛するクライス様へ、タブレットの資料を差し出した。

「一次回答のスクリプトはこちら」

「……確認済みだ」

「記者から“女性秘書への不当なパワハラ対応”を問われた場合、絶対に社長は答えず、先に私がマイクを取って完全否定します」

「……」

「続けて、監査窓口への匿名通報の虚偽性とIPの一致」

「……」

「その後、相手方アーサーとミレンの裏の繋がりを示す不正資料の暴露へ移行します」

 九条CEOは、私の完璧なプランに静かに頷き、ページをめくっていく。


 その横顔は、相変わらず作画コストが高く完成度が限界突破している。

 しかも、今日は全国ネットの会見仕様の、最高級のオーダースーツである。

 漆黒を基調にしたシャープで隙のない一着。

 ネクタイは深い蒼で、彼の氷のような冷たい美貌とオーラが、恐ろしいほどより引き立っている。


 ああ。

 本当に。

 こういう絶対に負けられない大勝負の日に限って、どうしてそこまで致死量レベルで格好よく完璧に仕上がっていらっしゃるのでしょうね、この方は。尊すぎますわ。


「藤咲」

「はい」

「今、仕事とは全く別のこと(オタクの妄想)を考えただろう」

「失礼ですわね」

 私は1秒で真顔に戻って答えた。

「本日も社長のお顔が世界一完璧すぎるという事実を、ただ網膜に焼き付けて再確認していただけです」

「……これから何百万人も見る生配信の会見前だぞ。真面目にやれ」

「だからこそです」

「……」

「だって、この国宝級のお顔が全国ネットで流れるのですわよ?」

「……」

「推し(社長)のビジュアルの仕上がり確認は、秘書として何より重要ですわ」

 九条CEOが「敵わんな」と小さく息を吐いた。

 でも、その整った耳の先が、ほんの少しだけ照れたように赤い。

 ああ、ええ。

 そういう可愛らしいところは、前世から本当に変わりませんのね。


「社長」

 広報責任者が、私のオタク語りを遮る絶妙なタイミングで割って入る。

「お時間です。配信の準備が整いました」

「分かった」

 九条CEOが、王のように堂々と立ち上がる。

 私も静かにそれに続く。


 重厚な扉の向こうでは、すでに大勢の記者たちがハイエナのように待機している。

 無数のカメラ。

 強い照明。

 叩かれるノートPCの音。

 スマートフォンのシャッター音。

 ざわめき。

 そして、“この若きエリート社長から、特大の謝罪とスキャンダルを撮ってやる”という、ゲスなマスコミ特有の熱気。


 よろしい。


 来なさいませ、愚かな観衆ども。

 本日は、この私が、完璧な“エンターテインメント(ざまぁ)”をきっちり全国にお見せして差し上げますわ。


 ◇ ◇ ◇


 会見場へ入った瞬間、無数のフラッシュが一斉に雷のように焚かれた。


 眩しい。

 だが、私は少しも足を止めないし、瞬きもしない。

 私は九条CEOの斜め半歩後ろの完璧な位置をキープし、そのまま威風堂々と壇上へ上がる。


 中央に、絶対的なオーラを放つ九条CEO。

 そのすぐ横に、冷徹な顔の私。

 さらに広報責任者と法務部長が脇を固める。

 迎撃の陣形としては、非の打ち所がない完璧だ。


「本日は、急な呼びかけにもかかわらずお集まりいただき、ありがとうございます」

 九条CEOの低くよく通る声が、マイクを通して騒がしい会場へ静かに、しかし圧倒的な圧で広がる。

「最近、当社および当社役職員に関して、事実と全く異なる悪質な情報がSNS等で流布されている件について。詳細な事実確認の結果をご説明します」


 一切の無駄がない。

 変に媚びた謝罪の温度も上げない。

 過剰な感情も乗せない。

 ただ、圧倒的に整った声と顔と、揺るぎない絶対強者の存在感だけで、一瞬にして記者会見の場を支配していく。


 ああ。

 はい。

 分かっておりましたとも。

 全国ネットの生配信でも、やはり私の推しは最強ですわね。拍手喝采です。


 記者たちが静まり返り、一斉にペンを走らせる。

 最前列には、例のまとめ系ネットメディアの記者も陣取っている。

 “秘書泣かせのモラハラ疑惑”を面白がってネットで煽っていた、底辺の連中だ。

 大変結構。

 そういう悪ノリの最前列の方々ほど、後で逃げ場がなくなって顔が青くなりますので。


 九条CEOが、まず感情を交えず、淡々と事実の羅列だけを並べる。


 監査窓口への匿名通報の具体的な内容。

 それを受けた、社内外の徹底的な調査結果。

 海外拠点における『不正会計の事実は一切なし』。

 社内監査でも異常なし。

 厳格な外部監査法人との連携と裏付けも確認済み。

 役員退任の予定も、当然なし。


 会場の空気は、まだ「会社側が都合よく隠蔽しているだけだろう」と半信半疑だ。

 当然だろう。

 この手の企業の釈明会見では、たいていここから記者側の“でも火のない所に煙は立たないですよね?”という泥仕合(言葉尻の揚げ足取り)が始まるのだから。


 だが、今日は違う。


 最前列のまとめ系メディアの記者が、ニヤニヤと嫌な笑みを浮かべて手を挙げた。

「最近、フォロワー百五十万人の有名インフルエンサーのミレン氏が、貴社の『女性秘書に対する不当なモラハラやパワハラ的扱い』を配信で強く示唆しています。その点については、どう釈明されますか?」


 来ましたわね。


 私は、九条CEOが口を開くより先に、静かに自分の前のマイクへ手を添えた。


「その点につきましては、まず『当事者』である私から申し上げます」


 会場のカメラと記者の視線が、一斉に無名の秘書である私へ集中する。


「私は、九条社長の専属秘書を務めております、藤咲瑠衣と申します」

「……」

「現在、一部のSNS等で無責任に流布されている“秘書が泣かされた”“不当で屈辱的な扱いを受けている”という情報は、完全に『事実無根』です」

「……」

「私は、九条社長からそのような被害を受けたことは、入社以来、全くございません」


 記者席が、「当事者が全否定したぞ」とわずかにざわついた。


 あら。

 そうでしょうとも。

 あなたたちは、“権力者に泣かされた、かわいそうな女性秘書”という安い悲劇の物語へ乗っかって、この会見を燃やすつもりだったのでしょう?

 でも、その当事者本人が、誰よりも元気で血色良く、真っ向から完璧に全否定してしまったら、次の質問の矢が折れてだいぶ困りますわよね。


「で、では、なぜそのような具体的な情報が、内部告発のように流れたんですか!」

 別の記者が、焦ったように鋭く問う。


 私は、マイクに向かってニッコリと、美しく、冷酷に微笑んだ。


「理由は大変、単純です」

「……」

「悪意を持った『誰か』が、当社の信用を落とすために、そう見せたかった(捏造した)からです」


 そのまま、私は壇上の巨大なモニターへ視線を送った。

 後方で待機していた広報部が、私の事前の合図どおり、一斉にスライドをスクリーンへ映し出す。


 一枚目。


『関連する悪質投稿の、異常な時系列一覧』


 インフルエンサー・ミレンの匂わせ動画投稿。

 SNSの投稿。

 経済誌へのタレコミメール。

 そして、アーサー・テックとの『合同会議が終了した時刻』。

 すべてが、不自然なほど1分単位で一直線に並ぶ。


 ザワッ……と、会場の記者の空気が大きく揺れた。


「こちらが、問題の嘘の情報が流れ始めた、詳細な時系列のアクセスログです」

 私は淡々と、氷のように冷たい声で説明する。

「具体的な社名による名指しは避けているようでいて」

「……」

「実際には、特定企業(当社)をピンポイントで連想させる投稿が、きわめて意図的な順序とタイミングで、連続して投下されています」

「……」

「さらに、その情報の『出どころ』ですが」


 二枚目。


『同一人物を示す、別名義アカウント相関図』


 ミレン本人の表の公式アカウント。

 美容系の別名義アカウント。

 匿名を装った業界ウォッチャー垢。

 過去の愚痴垢。

 それらが、すべて『同一のIPアドレスと端末』から発信されていることを示す矢印で、真っ赤につながっている。


 記者席の空気が、明らかに「これは企業側の本気の反撃だ」と震えて変わった。


「これは……」

 最前列の記者が、思わず驚愕の声を漏らす。


「すべて、公開情報と合法的な開示手続きのみから整理した、動かぬ証拠です」

 私は静かに、容赦なく追い詰めるように言う。

「動画背景の家具の一致、私物のブランドの一致、テキストマイニングによる文体傾向の完全一致、投稿時刻の重複、そして相互接続の不自然さ」

「……」

「複数の人物(内部告発者や業界人)を装って当社を攻撃しておりますが、実質は『同一人物ミレン』による、マッチポンプでの悪質な拡散導線でした」

「……」

「つまり」

 私は冷たく、絶対的な勝利の笑みで微笑んだ。

「これは“偶然広がった疑惑”などではなく、当社の株価と名誉を毀損するために、“明確な悪意を持って設計された偽計業務妨害”です」


 カメラのシャッター音が、異常な数に増える。

 記者がノートPCを叩く音が、狂ったように早くなる。

 ええ。

 よろしいですわね。

 今、皆様の頭の中で、明日の朝刊とネットニュースの『特大の逆転記事タイトル』が、大慌てで組み替わっておりますわね。


 だが、まだ終わらない。


 限界オタクの特定による、本当の地獄(本番)はここからだ。


「さらに」

 私は次の決定的なスライドへ進めた。

「この一連の自作自演を行った人物は、当社のライバル企業である『アーサー・テック社』と、水面下で複数の経路で完全に接続(結託)していました」


 三枚目。


『PR会社の共通項・イベント同席・案件管理履歴の裏付け』


 アーサー・テックの広報委託先のPR会社。

 ミレン側の案件管理会社。

 その両者を繋ぐ、共通のダミーの外部ベンダー。

 イベントでの社長とミレンの密会(登壇)写真。

 そして、非公開だったはずの彼らの打ち合わせ日程と、今回の誹謗中傷の投稿時刻の、恐ろしいほどの完全一致。


 会場が、今度こそ爆発したように大きくざわめいた。


「ま、まさか……」

「アーサー・テックが、自社の裏でインフルエンサーを使って嫌がらせを!?」

「同業他社へのサイバーテロじゃないか!」

「いや、でもこれ、完全に裏が取れてるぞ……!」


 私は、会場のどよめきが最高潮に達したところで、フッと一拍置いた。


 そして、静かに、計算された声で言った。


「当社は、現時点では『アーサー・テック社が直接指示を出した』という断定的な表現は避けます。あくまで推測です」

「……」

「ただし」

「……」

「少なくとも、当社の信用を著しく毀損する目的で設計された犯罪的な発信と、特定企業アーサー・テック側の周辺の金の動きの導線が、極めて高い確率で『完全に一致』していることだけは、揺るぎない事実として確認済みです」


 この言い回しが、コンプライアンス上、一番大事なのだ。

 法的に断定しすぎず、名誉毀損のリスクは避ける。

 だが、世間と投資家が「完全にアーサー・テックが黒幕だ」と確信して逃げられない程度には、真綿で首を絞めるように詰める。


 現代日本の断罪は、こういう上品な塩梅が最も美しい。


 ◇ ◇ ◇


 その、会場の熱気が臨界点に達した瞬間だった。


 会場後方の重厚な扉が、バンッ! と勢いよく開いた。


「ふざけるな!! でたらめを言うな!!」


 ヒステリックな男の怒鳴り声。

 一斉に振り返る記者たち。

 無数のカメラのレンズも、まとめてそちらの騒ぎへ向く。


 そこに肩で息をして立っていたのは――有栖川玲央。

 アーサー・テックの社長。

 つまり、ほぼ100%確定で、今世のあのポンコツのアーサーである。


 しかも、ご丁寧に、その隣には、帽子と大きなマスクで顔を隠しきれていない派手な女が、オロオロとくっついていた。

 インフルエンサーのミレン(ミレーヌ)だ。


「……ッ、本人が来やがった……!」

 広報責任者が、信じられないというように息を呑む。

 法務部長は逆に「飛んで火に入る夏の虫だな」と無表情になった。

 私はというと。


「まあ」

 思わず、嬉しすぎて口元へ手を当てた。

「まさか、自分から公開処刑の場へ、ノコノコと足を運んでくださるなんて」

「ふ、藤咲さん」

 隣で広報責任者が小声で引き止める。

「顔、顔が笑ってる! 隠して!」

「失礼いたしました。あまりのポンコツ具合に、つい」

「いや、でも今ちょっと、嬉しそうに目ぇキラキラしてたよ!」

「ええ。私の想定より、遥かに早く王手(詰み)の盤面になりましたので」


 有栖川社長は、報道陣のカメラのフラッシュを浴びながら、顔を真っ赤にして壇上の九条CEOへ向かって叫んでいた。


「九条! 根も葉もないでたらめを言うな!」

「……」

「これは完全な印象操作だ! データの捏造だ!」

「……」

「うちの会社を不当に陥れようとしているのは、そっちだろうが!」


 ああ。

 本当に。

 前世の学園での断罪劇から、魂のレベルで何一つ変わりませんのね。


 自分が不利な立場になると、論理的な理屈ではなく、声量と感情論だけで押し切ろうとするところ。

 自分が加害者のくせに、被害者面をしながら逆上するところ。

 そして、自分から証拠の揃った会見場(断罪の場)へ飛び込んできて、全国ネットの生配信で、自ら致命傷を重ねて自爆するところ。


 完璧ですわね。

 ポンコツ王太子の極み、ここに極まれりですわ。


 九条CEOは、席を立たなかった。

 ただ、王座に座る覇王のように、冷たく、見下すような絶対零度の視線だけを向ける。


「……うちは今、重要な会見中です。不審者は静かにしろ」

「黙れ! この卑怯者が!」

 有栖川社長が、唾を飛ばして叫ぶ。

「自分は裏に隠れて、たかが秘書風情の女に、好き勝手でたらめをしゃべらせておいて!」

「その秘書にしゃべらせているのは」

 九条CEOの声は、地鳴りのように低く、重い。

「俺の秘書の方が、お前のような三流の無能な経営者より、何万倍も有能で、価値があるからだ」

「――ッ!」


 会場が、九条CEOの強烈な一言で、ドッとまた大きくざわつく。


 ああもう。

 そういう容赦のない絶対的な切り返し、本当にお上手ですこと。

 全国ネットのカメラの前でその「無能宣言」の返答は、相手のプライドへの火力がだいぶ高くて最高ですわよ? キュンとしますわ。


 隣でマスクをしていたミレンが、カメラのフラッシュに焦って、慌てて前へ出た。


「ち、違いますぅ!」

「……」

「私はただ、パワハラに苦しんでる可哀想な女の子を、同じ女として守りたくて、善意で言っただけで……!」

「そうでしょうか」

 私は、静かに、絶対零度の冷たい声で問い返した。


 マイク越しの私の声が、思った以上に冷酷によく通る。

 会場中の記者とカメラの視線が、一斉にこちらへ集中する。


「あなたの別名義アカウントの投稿」

「……ッ」

「“選ばれるのはいつも私”」

「……」

「“あの子より私の方が、絶対に社長の隣に似合う”」

「……」

「“かわいくて強い女が、最後に全部勝つ”」

「……」

「それが、純粋に“女の子を守りたい”と願う方の、善意の言葉でしょうか? ただの嫉妬と承認欲求の塊では?」

 ミレンのけばけばしい顔色が、マスク越しでも分かるほど一気に土気色に変わった。


 有栖川社長も、痛いところを突かれて一瞬だけ固まる。


 私は追撃の手を緩めず、止まらない。


「さらに」

 手元の端末を操作し、次のスライドを巨大モニターに出す。

「こちらが、あなたの裏の愚痴垢と、現行アカウントの決定的な文体比較データ」

「やめて! 出さないで!」

「“でも”“だって”“女なら分かるでしょ”の不自然な使用率の完全一致」

「やめなさいよ! プライバシーの侵害よ!」

「背景写真の、私物のブランドバッグの完全一致」

「ッ……!」

「そして、トドメです」

 私は、ダメ押しとなる最後の一枚をスクリーンへ映し出した。


『会見前日に送信された、PR会社を通じた調整メール(裏の指示書)』


「こちら」

 私は静かに、引導を渡すように告げた。

「アーサー・テック側の周辺の広報担当者と、ミレン氏の案件管理を直接つなぐ、嫌がらせの指示と報酬の『実務連絡メール』の証拠です」

「――!?」

「表向きは“ファンからのタレコミによる、偶然の独立した正義の発信”」

「……」

「ですが実態は」

 私は冷たく、心の底から蔑むように笑った。

「お金をもらって企業を燃やす、かなり仲良しの『犯罪の共犯関係』でしたのね」


 会見場が、もはや抑えきれないほど完全に爆発した。


「うわ……完全に真っ黒だ」

「マジかよ、証拠揃いすぎだろ」

「インフルエンサー使った、完全に企業ぐるみの仕込みのサイバーテロじゃないか」

「やばいぞこれ、アーサー・テックの株価、明日ストップ安だぞ」

「これ、全国のニュースで生配信されてるんだぞ!?」


 ええ。

 そうですわよ。

 しかも、これはまだ、私が彼らを追い詰めるための“違法行為の地獄の入り口”にすぎない。


 ◇ ◇ ◇


 有栖川社長は、フラッシュの嵐の中で、完全に取り乱して発狂していた。


「そ、それは違う! 捏造だ!」

「……」

「うちの会社は全く関係ない! 秘書が勝手に……俺の知らないところでやったんだ!」

「知らないところで?」

 九条CEOが、初めてゆっくりと、王座から立ち上がる。


 その一瞬で、発狂していた有栖川社長が怯え、会場の空気が凍りついた。


「自社の広報の委託先の動きも、PRの資金の導線も、社長であるお前が何一つ把握していないと?」

「……」

「それで、よく偉そうに経営者を名乗れるな。無能の極みだ」

「……ッ」

「あるいは」

 九条CEOの目が、氷のように鋭く細まり、有栖川を射抜く。

「全部知っていて、俺の会社を燃やそうと『やらせたか』、だ」

 有栖川社長は、完全に喉を詰まらせ、一言も反論できなくなった。


 ええ。

 そうでしょうとも。

 その地獄の二択、どちらを選んでも『経営者としての終わり』なのですものね。チェックメイトですわ。


 隣のミレンは、自分が完全に炎上して終わったことを悟り、もうカメラの前で半泣きで震えていた。

 だが、私の心に、彼女への同情は少しもない。

 だって、先に他人の人生と、私の推しの尊い会社を嘘で燃やして焼こうとしたのは、彼女たちの方なのだから。自業自得ですわ。


 私は、息の根を止める最後の一言を、淡々と置いた。


「なお」

「……」

「当社法務部は、本件の極めて悪質な虚偽流布、信用毀損、不正競争防止法違反、名誉毀損、および偽計業務妨害等について」

「……」

「すでに、裁判所に提出するすべての必要資料を保全済みです」

「……」

「今後は、警察への被害届の提出と損害賠償請求を含め、然るべき『法的手続き』へ速やかに移行いたします。覚悟なさってください」


 会見場は、もはや完全に、企業からの“釈明会見”ではなくなっていた。


 これは。

 圧倒的な証拠で相手を粉砕する、完全なる『公開ざまぁ処刑場』である。


 しかも、全国民が見ている生配信つき。


「九条社長! 今後の法的措置の規模は!?」

「有栖川社長、インフルエンサーへの指示は事実ですか! コメントを!」

「ミレンさん、企業への嫌がらせの虚偽拡散を認めるんですか!? あなたのファンを騙したんですか!?」


 記者たちが、一斉に血の匂いを嗅ぎつけたハイエナのように、逃げようとする有栖川とミレンの二人へ群がっていく。


 私は、その滑稽な光景を、壇上から冷たく静かに見下ろした。


 ああ。

 はい。

 とても美しい、最高の景色ですわね。


 違法に相手を怒鳴りつけたわけではない。

 前世のように、圧倒的な魔力や権力で理不尽にねじ伏せたわけでもない。

 ただ、動かぬ証拠を完璧に並べて、公開の場で、自分自身の愚かな言葉と行動の責任を、社会的に取っていただいているだけである。


 現代日本のざまぁ(コンプライアンスの刃)、血も涙もなくてだいぶ上品で最高ですわね。


 九条CEOが、私の横で、低く安堵したように言った。


「……藤咲」

「はい、社長」

「終わったな」

「ええ」

 私は、心から誇らしく微笑んだ。

「きれいに。1ミクロンの逃げ道もなく」

「そうだな」

「大変、胸のすく、よろしい完璧な会見でしたわ」

「……お前」

「何でしょう」

「この公開処刑を楽しんでいたな?」

「気のせいです」

「目が生き生きしていたぞ」

「でも」

 私は小さく、可愛らしく肩をすくめた。

「私が愛する推し――いえ、社長の大切な会社を守れましたので」

「……」

「多少は、勝利の美酒として」

「……」

「気分もよくなりますでしょう?」

 九条CEOは、呆れたように小さく息を吐いた。

 だが、その氷の口元は、私への深い信頼と愛おしさで、ほんの少しだけやさしく緩んでいた。


「……そうか」

「ええ」

「なら、いい。よくやった、最高の秘書だ」

「はい。光栄ですわ」


 全国ネットで、何百万人へ生配信された公開記者会見。

 その結末は、誰の目から見ても明らかだった。


 アーサーとミレーヌは、前世での愚かな過ちに続き、今世でも全く同じように。

 自分の見栄と承認欲求で自分で深く掘った墓穴へ、大勢の観衆の前で、最高に派手に、みじめに落ちていったのである。


 ――ええ。

 社会的抹殺ざまぁというものは、こうやって完全に逃げ道を塞いでから落とさなくては、オタクとして面白くありませんわよね。



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