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婚約破棄の瞬間に「前世の記憶」が戻りまして。〜ヒロインの座は譲りますので、私は推しキャラの側仕えを目指します!〜  作者: 綾瀬蒼


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第107話 元ヒロイン・ミレーヌの転生体、インフルエンサーとして襲来

 あのポンコツのアーサー・テックによる、薄暗くて稚拙な嫌がらせ(情報戦)が始まってから数日後。


 私は、広報部から回ってきた本日の『SNS・WEBモニタリング資料』を見て、静かに、ひどく冷たい顔で眉を寄せた。


「……あら」


「どうしたの?」

 先輩秘書が、私の異様な殺気に気づいて隣の席から覗き込んでくる。


「いえ」

 私はタブレットの画面を、忌まわしいものでも見るように指先で止めた。

「少々、前世から見覚えのある『最悪に嫌な名前』を見つけただけですわ」

「名前? 前世?」

「ええ」

「どれ?」

「こちらですわ」


 私が示した画面には、いくつかのSNSの匿名投稿と、生配信動画の切り抜きがリストアップされて並んでいた。

 その中で、ひときわ拡散力が高く、中心となって悪意を撒き散らしている一つのインフルエンサーのアカウント。


 “MIREN / ミレン”


 フォロワー数、百五十万超。

 動画の配信ジャンルは、有名人の暴露、ゴシップ考察、炎上まとめ、美容、恋愛相談、ライフスタイル――要するに、節操のない何でもありだ。

 ただし、そのすべてのコンテンツの根底にあるのは、ただ一つ。


 “他人の炎上や不幸の話題にタダ乗りして、自分を悲劇のヒロインとして光らせる”こと。


「……」

 私は、しばらく虫ケラを見るような無言で、その薄っぺらいプロフィール文を見つめた。


 > “みんなが言えない真実を語るのが、嫌われるだけ”

 > “キレイごとじゃ生きていけない。女は賢く生きなきゃね”

 > “私の女の勘は、だいたい当たるの。嘘つきは許さない”


「……はい」

 私は、静かに、氷点下の笑顔で頷いた。

「完全に確定ですわね」

「何が?」

 先輩秘書がキョトンとする。


「中身が空っぽの、嫌な女です」

「それは、そうかもだけど……」


 私は、さらにそのアカウントの過去の投稿を、吐き気を堪えて遡った。


 わざとらしい泣き顔のサムネイル。

 意味深な伏せ字と匂わせ。

 “某大手IT企業CEOの、本当の裏の顔”

 “私、この人の闇を全部知ってます。被害者の声も”

 “あの会社、女を使い捨ての駒みたいにして、大事にしてないかも”

 “近く、特大の爆弾落とします。お楽しみに”


 ああ。

 はい。

 この“決定的な証拠は出さず、意味深な匂わせだけ投げて、あとは勝手にアンチが憶測で燃えてくださいまし”という、自分は手を汚さない最低で卑怯な手口。

 そして、自分こそが可哀想な被害者であり、真実の告発者であるかのように振る舞う、あの反吐が出るほどの厚顔無恥さ。


「……ミレーヌですわね」

 私は、確信を持って小さく呟いた。


「え?」

「いいえ」

 私はニッコリと、一切目の笑っていない笑顔を作った。

「前世のゴミのような因縁が、今世でもだいぶ私の推し活の邪魔をしてきて、困っているだけです」

「……最近ほんとに、藤咲さんが何言ってるか分かんない時あるよね。中二病?」

「大丈夫です。正常ですわ」

「何が」

「私にも半分くらいしか、このファンタジーな状況を論理的に説明できませんので」

「全然大丈夫じゃない!」


 ◇ ◇ ◇


 その日の昼。

 私は、完全に整理された資料を持って、九条CEOの執務室へ入った。


「社長、広報からのモニタリング資料の追加分です」

「……置いてくれ」

 PCを見つめたまま、低い声が返る。


 相変わらず、耳に心地よろしい極上の声ですわね。

 ……いえ、今はその美声へ限界オタクとして浸っている場合ではない。


 私は資料をデスクへ差し出しながら、該当ページを開いた。


「社長、一点、非常に不愉快で気になる動きがございます」

「何だ」

「この、悪目立ちしているアカウントです」


 九条CEOが手を止め、画面へ目を落とす。


「インフルエンサー、だと?」

「ええ」

「最近の監査窓口への匿名通報、外部掲示板の書き込み、記者宛のタレコミと、この女の暴露配信の『拡散のタイミング』が、1分単位で妙に噛み合っております」

「……」

「裏で指示を出しているアーサー・テックの有栖川との直接的な接点は、まだシステム部が洗っていますが」

「だが、繋がっていると」

「ええ」

 私は静かに、確信を持って頷いた。

「強烈に、ドブネズミの臭いがいたしますわね」

「ドブネズミ、か」

「かなり特大の」

 九条CEOは数秒、無言でその不快な投稿群を見ていた。

 その横顔は、いつも通り彫刻のように整っていて、いつも通り冷徹だ。

 だが、私は知っている。

 この高潔な方は、こういう“自分は陰に隠れ、他人の会社の信用を削るためだけの雑で卑怯な悪意”を、本能から心底嫌う。


「配信の内容は」

「事実無根の妄想が九割です」

 私は即答した。

「残り一割は、自分の嘘を真実に見せかけるための、もっともらしい一般論です」

「……」

「巧妙な手口に見えますが、本人の頭が悪いので、実際には中身がペラペラで浅いです」

「その根拠は」

「使用している『語彙』です」

「語彙?」

「ええ」


 私は一枚、詳細なテキスト分析の別紙を差し出した。


「動画の台本(原稿)の致命的な癖」

「……」

「感情を煽るためだけの、不自然な改行の位置」

「……」

「“でも”“だって”“可哀想”“女なら分かるはず”という、同情を引くための接続詞の多用」

「……」

「それから」

 私は、ほんの少しだけ冷たい目を細めた。

「“自分の女としての魅力と涙が、世の中に何より通用する”と信じ切っている愚か者特有の、根拠のない自己中心性ナルシスト

 九条CEOの視線が、資料からゆっくり私へ向く。


「……ずいぶん、相手の人間性まで具体的だな」

「痛いほどに見覚えがありますので」

「また、例の『人生経験』か」

「ええ」

 私は穏やかに、凍りつくような微笑みを作った。

「思い出すのも不快な、だいぶ嫌な方面の」


 その時。

 九条CEOの机上のスマートフォンが、無機質に震えた。

 画面表示は、広報責任者。


「九条だ」

『社長、昼食時に失礼します。緊急です』

「何だ」

『今ちょうど、問題のインフルエンサー“ミレン”が、数十万人規模のライブ配信で、当社の名前を巧妙にぼかしつつ話題にしています』

「内容は」

『“冷たい完璧なイケメン経営者ほど、裏では女をモノや駒みたいに使い捨てで扱う”と』

「……」

『あと、“直属の有能な女性秘書を、無理な要求で泣かせた”とも』

「……は?」

 思わず、秘書である私の口から、素のドスの効いた声が出た。


 九条CEOが、驚いてこちらを見た。

 あら、失礼。


『広報で、すべての録画とコメントのログは記録を取っています』

「分かった。後で全データを藤咲へ送れ」

『はい』


 通話が切れる。


 広い執務室に、何とも言えない微妙な沈黙が落ちた。


「俺が、秘書を」

 九条CEOが、静かに、眉間を揉みながら言う。

「泣かせた、だと?」

「1ミクロンも泣いておりません」

 私は食い気味に即答した。

「少なくとも、業務起因やパワハラでは」

「……少なくとも?」

「……」

「他に、お前が俺のせいで泣いた覚えがあるのか」

「尊さへの感動(限界化)では、よく泣いております」

「そういう話じゃないだろう」

「ええ、存じております」

「……」

「ですが」

 私は乱れた資料をトントンと整えながら、氷点下の声で言った。

「これは、だいぶ私の中で限界を超えて来ましたわね」

「何がだ」

「相手」

 私はニコリともせず、冷酷な瞳で答えた。

「かなり、調子に乗っております。万死に値しますわ」


 ◇ ◇ ◇


 夕方。

 広報から急ぎで届いたライブ配信のアーカイブ録画を、私は会議室の巨大モニターで冷ややかに再生していた。


 画面の中には、派手でけばけばしい女がいた。


 巻かれた明るい髪。

 スタジオの強い照明を計算したメイク。

 自分の顔が一番可愛く見える、完璧に計算されたカメラ角度。

 わざとらしく見開かれた大きな瞳。

 そして、“私、こんなに傷ついている弱者の味方なんです”と見せるために最適化された、鼻にかかった潤んだ声。


「……うわぁ」

 隣で見ていた広報の若手社員が、素直にドン引きした。

「何これ。承認欲求の化け物じゃん」

「悪意と自己愛の塊ですわね」

 私は真顔で同意した。

「言い切るね、藤咲さん」

「ええ。事実ですので」


 ミレンは、画面の中で大げさに肩をすくめて見せた。


『別に、具体的な会社名とかは、訴えられちゃうから言わないよ?』

『でもさあ、女の子を自分の都合のいい道具みたいに使う男って、いるじゃん?』

『しかも、表では超クリーンで完璧なイケメンCEOぶってて、裏では自分の秘書とか部下とか、都合のいいコマみたいに扱ってて……』

『私、そういう権力者の闇を見ると、同じ女として黙ってられないタイプなんだよね』


「……」

 私は、黙って殺意を堪えながら視聴を続けた。


 相変わらず、直接的な社名や個人名は絶対に出さない。名誉毀損を逃れるためだ。

 だが、状況説明は十分にうちの会社に絞っている。

 “若くて冷徹なイケメンCEO”“有能な女性秘書”“最近、良くない噂になってる大手IT企業”。

 今のSNSの流れでこの配信を聞けば、聞いたアンチは勝手に『クライス・ホールディングスのことだ』と連想し、憶測で燃え上がるだろう。


 法的な最低限の責任回避と、最大限の印象操作。

 本当に、心の底から反吐が出るほど感じが悪い。


『しかもね?』

 ミレンが、カメラに顔を近づけ、少しだけ声を落として囁く。

『その秘書さん、社長が怖くてたぶん自分からは言えないんだよ』

『立場があるし、逆らえないから』

『可哀想でしょ? ほんと許せない』

『だから、影響力のある私が、代わりに言ってあげようかなって思って』


「――はい、無理ですわね。許容範囲を超えましたわ」

 私はマウスをクリックし、静かに動画をピタリと止めた。


「ふ、藤咲さん?」

 広報の若手が、私の纏う冷気にビクッとする。

「今の、“無理”って」

「もう駄目ですわ」

 私はゆっくりと顔を上げた。

「この方、今、完全に自分を『無力な女を救う正義の代弁者ヒロイン』だと勘違いしていらっしゃる」

「……」

「しかも、勝手にこの私を、推し(社長)に泣かされた哀れな被害者に仕立て上げて」

「え、やっぱり“可哀想な秘書”って、藤咲さん想定だよね?」

「ほぼ間違いなく。100%です」

「マジで? あの完璧主義の社長が、藤咲さんを泣かせる姿なんて想像できないけど」

「マジですわ」

 私は椅子から、ゆっくりと立ち上がった。

「そして」

「……」

「この手の、自分に酔った愚かな女は」

「……」

「自分の『悲劇のヒロインの演出』へ酔いしれて絶頂にいる時が、一番足元(証拠隠滅)が甘く、ボロを出すのです」


 ああ。

 ええ。

 完全に思い出してまいりましたわ。


 ミレーヌ。

 前世の、あの“自分が常に世界の中心で愛されるべき”と信じて疑わなかった、自己愛の塊の性悪ヒロイン。

 男へ媚びる時の、甘ったるい声。

 嘘泣きの時の、顔の作り方。

 常に被害者面をして、周囲の男を操る腐った手口。


 見れば見るほど、気持ち悪いほど一致する。


 今世では、炎上系インフルエンサーですのね。

 しかも、他人の不幸を食い物にする『承認欲求と炎上商法』を武器にしている、と。


「……最悪ですわね。生ゴミ以下です」

 私は心底からの本音(殺意)を、無意識に漏らした。

「そ、そこまで?」

 広報の若手が、私の迫力に恐る恐る聞く。

「ええ」

 私は真顔で、冷酷に答える。

「前世からの幾重にも重なった因縁ヘイトを加味すると、かなり、致死量レベルで」

「前世!?」

「気にしないでくださいまし」

「最近それ多いなあ、藤咲さん……」


 ◇ ◇ ◇


 その夜。

 広報、法務、情報システム、そして社長秘書の私で、緊急の小会議(作戦会議)が開かれた。


「こちらがミレン側の、全SNSの裏垢含む発信ログとIPアドレスの照合結果」

「こちらが、彼女のタレコミを拡散しているボット(業者)アカウント群」

「メディア記者への直接接触の痕跡はまだ弱い」

「でも、数名のまとめ系・暴露系インフルエンサーが、彼女の配信に乗っかって追随準備を始めてます」


 次々と、各部署のプロフェッショナルから集められた証拠資料が並ぶ。

 空気は重い。

 だが、私は妙に落ち着いて、冴え渡っていた。


 なぜなら。

 叩き潰すべき『敵の正体』が、完全に顔を見せたからだ。


 誰が書いたか分からない匿名の悪意より、顔とアカウントがある悪意の方が、法的にはるかに扱いやすい。

 しかも、相手は見栄と承認欲求だけで動く、頭の悪いタイプ。

 誘導の仕方も、潰し方も、前世で嫌というほど分かっている。


「藤咲さん」

 法務部長が、腕を組んで私に問う。

「社長秘書としての、見立ては」

「あのアーサー・テックの単独の仕業ではなく」

 私は冷静に答えた。

「このインフルエンサー・ミレン自身が、かなり『主体』となって動いています」

「根拠は」

「投稿タイミングの、過剰な自意識です」

「自意識」

「ええ」

 私はメイン画面を切り替えた。

「ただの金で雇われた企業側の情報戦にしては、“私が真実を暴いてあげる”“私が正義だ”という自己主張の色が強すぎる」

「……」

「自己顕示欲と承認欲求が、完全に前面に出すぎてコントロールできておりません」

「……」

「つまり」

 私は冷たく、悪魔のように笑った。

「主犯格である彼女は、自分がただの駒ではなく、この炎上の『舞台の中央ヒロイン』に立ちたいのです」

 広報責任者が、なるほどと小さく頷く。

「目立ちたがり屋の暴走か」

「そして」

 私は次のスライドを、バンッ! と出した。

「これが、アーサー・テックの有栖川社長との、接点の候補(証拠)です」

 IT系のイベントでの同席写真(見切れ)。

 SNSの裏垢同士での、相互フォローとDMの痕跡。

 過去に同じステマ(PR)会社を利用していた履歴。

 過去の案件の被り。


「法的に追い詰めるための完全証拠には、まだ少しだけピースが足りません」

「だが」

 情報システム部マネージャーが、獰猛に笑う。

「繋がりを示す線は、デジタルの海からきれいに見えてるぞ」

「ええ」

 私は頷いた。

「つまり、外堀は埋まりました。王手まで、もう少しですわ」


「……藤咲さん」

 広報責任者が、少しだけ恐ろしいものを見るような感心した顔で聞く。

「あなた、なんでそんなに他人の『悪意の構造』が手に取るように分かるの?」

「底意地の悪い嫌な女を見抜く、私の女の勘ですわ」

「勘で済ませるには、分析の精度が高すぎてプロ顔負けなんだよなあ」

「過酷な訓練の賜物です」

「何の訓練!?」

 私は扇で口元を隠すように、美しく微笑んだ。

「長く険しい、人生の」


 ◇ ◇ ◇


 会議が終わった後。

 一人で静かな廊下へ出ると、巨大な窓の向こうはすっかり東京の夜景だった。


 私は一人、ガラスへ映る自分を見た。


 完璧に着こなしたスーツ姿。

 誇り高き、社長秘書のバッジ。

 ポーカーフェイスの静かな顔。

 でも、その内側では、久しぶりに前世の『冷たい絶対零度の怒り』が、激しく顔を出している。


 ミレーヌ。

 今世でも、あなたはその愚かなやり方で、私からすべてを奪おうとするのですね。


 誰かの大切な平穏へ土足で入り込み。

 自分の注目を集めるためなら、平気で嘘と印象操作を混ぜて人を傷つける。

 しかも、自分を“傷ついた正義の告発者”に見せる、吐き気のする安い演出つき。


 本当に。

 心の底から、何一つ成長しておらず、変わっておりませんわね。


「藤咲」


 背後から低い声がして、私はビクッと振り返った。

 九条CEOが、一人で立っていた。

 会議後の報告を、チーフから受けてきたのだろう。

 相変わらず、完璧に整った美しい横顔。

 相変わらず、病み上がりで疲れていても崩れない、威風堂々とした姿勢。


「社長。まだ残っていらしたのですか」

「今、広報と法務から状況を聞いた」

「はい」

「有栖川とインフルエンサーの結託。かなり悪質だな」

「ええ」

 私は静かに頷いた。

「そして、放置すれば会社の株価に関わる、かなり面倒な事態です」

「だが」

「……」

「お前は、この窮地に妙に落ち着いているな。むしろ、生き生きしている」

 私は、ほんの少しだけ、彼に向かってやわらかく笑った。


「叩き潰すべき、敵の正体と急所が見えましたので」

「……」

「こういうのは」

 私はゆっくりと、自信に満ちた声で言った。

「姿の見えない匿名の悪意より、顔と欲が見えた方が、はるかにマトとして対処しやすいのです」

 九条CEOは、数秒、私のその頼もしい顔を見ていた。


「……相手のインフルエンサーが、嫌いか」

「ええ」

 私は1秒で即答した。

「とても。生ゴミより嫌いです」

「その理由は」

「……」

 私は少しだけ考えた。

 でも、答えは前世から一つ、単純明快だった。


「私の命より大切な推し(あなた)の会社と名誉を、薄汚い嘘で傷つけようとしたからです」

「……ッ」

「あと」

「……」

「私を、『社長に泣かされた可哀想な秘書』などと、勝手に被害者に仕立て上げたので」

 九条CEOの眉が、ほんの少しだけピクッと動く。


「……怒りの沸点は、そこか」

「最重要事項です」

「……」

「私はあなたの隣の特等席で、毎日ハッピーエンドで限界化しておりますのよ。大変、心外ですわ」


 九条CEOは、呆れたように、けれどどこか嬉しそうに小さく息を吐いた。

 それから、CEOの顔になり、低く重い声で命じる。


「なら」

「はい」

「俺の権限をすべて使っていい。徹底的にやれ。息の根を止めろ」

「……!」

「ただし」

「……」

「お前が傷つくような、違法な真似は絶対になしだ。約束しろ」

 私は、胸を張って、最高の笑顔で答えた。


「もちろんですわ」

「……」

「完全に『合法の範囲内』で、社会的に抹殺いたします」

「……そこを真顔で強調する時の、有能なお前は本当に恐ろしいな」

「最高の光栄です」


 九条CEOの口元が、ほんの少しだけ、頼もしそうに緩む。


 ああ。

 ええ。

 推しからその『信頼の笑み』をいただけたのなら、もう十分ですわね。


 私は心の中で、静かに抜刀(コンプライアンスの剣を抜く)するような気持ちになった。


 情報戦。

 炎上商法。

 フェイクニュースでの印象操作。

 結構です。


 今度こそ、私の最愛の推しの聖域へ手を出したことを、魂の底から後悔していただきますわよ。

 首を洗って待っていなさい、ミレーヌ。



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