エピソード8 絆創膏が!な日常
お久しぶりでございます。
本日もゆるーく、暇つぶしにどうぞ。
『喫茶ゆとり』は昨今の珈琲業界を牽引するカフェが提供している華やかさや話題性の望めるドリンクはない。フードも目新しさはないため、映えを求める人たちには見た目の時点で物足りさがあるだろう。
そもそも須藤のやりたかった形態が今の『ゆとり』なので当然と言える。
そんな店なので客層は四十代以上が圧倒的に占める。必然的に、店内も落ち着いた雰囲気になり、その落ち着きを求めて来る人がさらに似たような人たちを呼ぶ。
近隣のサラリーマンが商談や打ち合わせで使ってくれるのも落ち着いた店内というのが理由として上位になっていることは想像に難くない。
「ちょっと、血が出てるよ」
「えっ、痛いわけだ!!」
この日も近くのビルに事務所を構える不動産会社のサラリーマンが二人来店した。
しかし入店直前、扉前での会話がそれだったので須藤と野村は『ん?』と思った。
「いらっしゃいませ、いつもありがとうごいます」
「どーもー。あ、ねぇねぇ」
眼鏡の中年男性は案内しようとする野村を引き留める。
「はい」
「絆創膏ある?」
「あ、はい」
「1枚もらえる?」
野村はサラリーマン二人を席に案内してから、レジカウンターの後ろにある棚の扉を開けて救急箱から大きさの違う絆創膏を3枚手にして二人の席に向かった。
「ブレンド珈琲二つで」
「かしこまりました。絆創膏これでいいですか?」
「ああ、ありがとう!!」
受け取ったのは眼鏡をかけた上司。
「ごめんね、ありがとね」
頭を押さえて申し訳なさそうに笑ってペコリと頭を下げたのは彼の部下だ。
(え? 待って、怪我してるの頭なの?)
S、M、Lのサイズから一番小さなSを貰って上司はペリと外装の紙を剥がした。
「ちょっと髪の毛あげてて」
「まだ血出てますかね?」
「あ、滲んだ程度だった、でも貼っとこうよ」
伝票にブレンド2と書き込んだ野村は唇を噛みながらカウンターに向かう。
「ブレンド、二つ、です」
「ふぁい」
カタコトになりかける野村。『はい』が『ふぁい』になった須藤。
笑いを堪え、サラリーマン二人の座る席に決して目を向けぬようにあからさまに顔を背けた。
頭頂部付近、髪の毛をかき分けたそこに絆創膏が貼られた。
分け目どころか毛根や髪の毛のクセなどまるで無視され無理矢理貼られた絆創膏によって、部下の頭頂部の一部分の髪の毛が重力に逆らい立っている。
(ウソだろ?)
(そこに絆創膏貼るの?!)
須藤と野村は若干パニックに近い。
まずここに来るまで何があり、頭に怪我を負ったのか。そして上司よ、そこに絆創膏を貼ってなぜ真顔でいられる。何より部下よ、手で触って確認して髪の毛がおかしなことになっているのに何故そんなにも自然に受け入れている。
ツッコミどころ満載な疑問に堪えきれず須藤は珈琲豆を準備する前にトイレに逃げてしまった。
まさか先に逃亡されるとは思わず残された野村は仕方なく珈琲豆を珈琲ミルに投入し、カップを二つ用意して、お湯の確認をしドリップ用ポットにやかんからお湯を注いで温める。
そんな二人の挙動にカウンターに座っていた綺麗なお姉さんがさりげなく、自然に見えるように首を動かしサラリーマン二人のいるテーブルに視線を向けた。その時間はわずか1秒。
確認した綺麗なお姉さんは首を戻してから微かに俯くとカウンターに肘をついてその手で口元を覆った。
「ふっ」
野村は可愛らしく小さく吹き出した綺麗なお姉さんと目が合った。
こうなると無理である。
綺麗なお姉さんはついに両手で口と鼻をすっぽり覆って目を閉じて小刻みに肩を震わせる。
野村は。
トイレに足早に向かい扉を強めにノックした。
「店長戻ってこーい」
己がトイレに篭るため、そして珈琲を淹れさせるため、店長を強制送還させた。
「普通髪の毛かき分けるなら縦じゃないですか?!」
サラリーマン二人が帰った後、カウンター越しに小声で野村は別のお客の珈琲を淹れる須藤にそう訴えた。
「何で横にかき分けた? どう考えても髪の毛たつでしょ!」
「その前にね、絆創膏そのまま使ってるのが凄いですよ! べっだりそのままですよ?! 剥がすとき髪の毛悲惨なことになりますって」
「あとさ、貼られた方も何で嫌な顔しないで受け入れてんのって感じでしたよね」
「てか俺なら血が出てないなら断ります」
「私は出てても断る」
絆創膏、侮るなかれ。
まさか絆創膏でここまで笑うことになるとは思いもよらなかった二人は、終日その話で盛り上がった。
本日は『ハンドメイド・ジュリ』は今日も大変賑やかです。も更新再開しております。そちらもぜひどうぞ。
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