理想と全然違うけど、これはこれでテンプレだよね
「はっ、はっ、はっ……! おいショウ、降りろ! 重い!」
「ムリィィッッ!!降りたら絶対僕の異世界生活が終わっちゃう!!」
俺の背中で、拾い物がわけのわからない悲鳴を上げている。
背後には、牙を剥いたフォレストウルフの群れ。
当初の10匹程度から、遠吠え一つで20匹程度に増えている。
大盤振る舞いすぎだろ…。
「嫌だ! 絶対に嫌だ! 僕の直感が、降りたら死ぬと告げている!」
「チッ、とんだ疫病神だ!」
俺は舌打ちしながら、足に意識を落とす。
クソッ、足元だけなら巻き込まずにイケるか!?
バチバチッ、と踵から稲妻が弾けた。
「振り落とされんなよ!」
ドォン!
爆音と共に地面を抉り、風景が後方へ置き去りになる。
強烈な風圧に、背中の荷物が「ひぎぃ!?」とカエルのような声を上げた。
村の入り口まであと数百メートル。逃げ切れる――と思った矢先。
「グルァッ!!」
先頭の狼が、ありえない跳躍で俺たちの頭上を飛び越え、進行方向に着地した。
挟み撃ち。
前方にはリーダー格の一匹。背後からは無数の群れが迫る。
「……詰んだか」
俺は地面を削って急停止し、背中のショウを乱暴に降ろした。
剣を抜く。だが、この数相手に、この足手まといを守りながら戦うのは自殺行為だ。
「あ、あわわ……」
この勇者様、腰を抜かしてやがる……
「おいショウ。テメェ、囮になるのが嫌なら……せめて『肉壁』くらいにはなれよ?」
「え、兄貴? 目が笑ってないよ!?」
クソッ、覚悟を決めるしかないのか!?
「――遅いわよ、タクト!【エンリル・サイクロン】!」
ヒュンッ!!
俺の目の前にいた狼が、真横から「何か」に弾き飛ばされた。
斬撃ではない。
質量のある風の塊が、砲弾のように狼を打ち砕いたのだ。
巨体が枯れ木のように宙を舞い、ぶっ飛ばされる。
一人の少女が短めの銀髪を靡かせ軽やかに着地した。
「助かったぜフィリア!!」
彼女は纏っていた風を霧散させ、ニカっと白い歯を見せた。
「あはは! っと、あっぶな!タクト!あんたどんだけの狼連れてきてるのよ!!」
「いや、これにはいろいろあってよ!ってクソ!また囲まれた!」
「前は任せて。……後ろ、来るよ!」
フィリアの警告と同時に、背後から残りの狼共が一斉に飛びかかってくる。
俺が振り返るより速く、別の影が動いた。
「——下がってろ。【バーン・ダリム】!」
その声が聞こえたと同時に、熱波が肌を撫でる。
紅蓮の灼剣が、俺たちの背後を薙ぎ払った。
直剣の一振り。
ただそれだけで、飛びかかってきた狼たちは空中で焼き尽くされ、黒い塵となる。
圧倒的な火力。
俺のチマチマした小細工とは次元が違う、圧倒的な剣の強さ。
煙が晴れ、中から一人の剣士が歩いてくる。
俺達のリーダーのテスタだ。
「……ギルドの依頼はこれで完了か」
テスタは、俺たちに一瞥もくれず、黒焦げになった狼の群れの残骸の処理を始めた。
「……怪我はありますか?」
テスタの背後から、修道服に身を包んだ小柄な少女、アリスが現れた。
慈愛に満ちた、聖母のような微笑み。
彼女は俺の前に歩み寄ると、心配そうに眉を下げた。
「無茶をしましたね、タクト。足の筋肉が断裂寸前ですよ」
アリスの手が、俺の足に触れる。
柔らかい光が溢れ出し、温かな熱が痛みが溶かされていく。
酷使した筋肉が、瞬く間に修復されていくのがわかる。
「……悪いな、助かったよ」
「いえ。無事で何よりです」
アリスはふわりと微笑んだ。
その笑顔は完璧な聖女だ。泥だらけの俺たちを嫌がる素振りも見せない。
その横で、ショウが呆然と口を開けていた。
「す、すげぇ……。一撃で狼を吹き飛ばして、群れを焼き払って、魔法で治した……」
急にワナワナ震えだしたショウが、大空に向かって叫びだす
「銀髪の美人お姉さんに、金髪妹系シスター、炎を操る最強の剣士!これだよ、これを求めてたんだよ!」
相変わらず変なことを叫ぶな、コイツ。
せっかく助けてやったんだからこれ以上奇行を重ねるのはやめてくれ
俺に対する仲間たちの目線が痛い
「……おい、誰だそいつ」
テスタが訝しげにショウを見る。
俺はため息をつき、ショウの首根っこを掴んで立たせた。
「拾い物だよ。……とりあえず、場所を変えようぜ。説明するから」
◇
場所は移って、村の酒場。
俺とショウ、そしてアリス、フィリアの4人が先にテーブルを囲んでいた。
テスタはギルドへの報告に行っている。
「へぇー。日本、ねえ。変な名前」
フィリアが空のジョッキを揺らしながら、値踏みするようにショウを見つめる。
「はい! 異世界から来ました!」
「えっ???イセカイ?」
初対面の人間の妄言にフィリアもガチで困惑してる。
まぁ、ふつうそういう反応になるよな。
「本当なんです!魔法はないけど、ビルとか、スマホとか、この世界とは全然違う世界で……」
ショウが身振り手振りで熱弁している。
だが、反応は芳しくない。
「頭を打った際の後遺症でしょうか……。外傷は治せますが、脳までは」
アリスが真剣に悩み始め、
フィリアも「はいはい、小説の読みすぎじゃない?」と鼻で笑っている。
「信じてくれよ兄貴! あんたならわかるだろ!?」
ショウが俺に助け舟を求めるが、俺は肩をすくめた。
「アリスが治せないならこの村じゃお手上げだぞ……しかし、嘘ついてる感じもしねぇんだよな」
俺の言葉に、ショウが少しだけ救われたような顔をしてるが別に信じてるわけじゃねぇぞ。
どっちかといえば妄想と現実の区別がつかないくらい、ヤバい奴だと思ってるんだよ。
そんな話をしてたら酒場の扉が開き、ギルドへの報告を終えたテスタが戻ってきた。
「……待たせた。何の話でそんなに盛り上がってるんだ?」
フィリアがニヤニヤしながら口を開く。
「あ、聞いてよテスタ。ショウ君ってば、『自分は異世k——」
「テスタさん! 僕に剣術を教えてください!!」
ショウがフィリアの言葉を遮り、身を乗り出した。
自分の「異世界話」が笑い話にされるのを誤魔化すためか、それとも——さっき見た、あの一撃が脳裏に焼き付いているからか。
ショウの目は真剣だった。
「僕も戦いたいんです! 自分の身を守れるようになりたいんです!」
おお、言うじゃないか。
ビビリのヘタレかと思ったが、向上心はあるらしい。
フィリアも「あーあ、話の腰を折られちゃった」と肩をすくめ、ジョッキに口をつける。
テスタはゆっくりとショウに視線を向け、無言で立ち上がると、自分の背負っていた直剣を鞘ごと外し、ドン、とテーブルに置いた。
「……振ってみろ」
「え、あ、はい!」
ショウは自信満々で直剣の柄を掴んだ。
そして。
「ふんぬッ……!? お、重……びくともしない……」
持ち上がるどころか、テーブルにへばりついたままだ。
まるで最初からテーブルと一体化しているかのように微塵も動かない。
「……無理だな。」
テスタは冷たく言い放ち、直剣を軽々と片手で回収して座り直した。
いや、テスタの剣は重すぎるんだよ。
そんなのおれだって振るえねぇし。
「俺の剣ならどうだ?あいつの寄りはだいぶ軽いぞ」
「んっえっ!?……持てないことはないけど、これも結構重い」
まぁ、短い方とはいえ一応”剣”だしな。
「あーあ、残念。ショウ君はまず鍛えるところから始めなきゃね」
フィリアがケラケラ笑いながらショウの背中を叩く。
酔っ払いに絡まれながら、ショウはテーブルに突っ伏した。
なんだろう、かわいそうに思えてきた。
どうやってあの森を進めたのかは謎だが、今のショウの実力じゃ絶対に自分の村まで帰れないだろ。
拾ったのは俺だしなぁ……しょうがないか。
「まぁ、いいんじゃね?俺たちが戦い方を教えてやれば。」
「えっ!? い、いいんですか!?」
そんなキラキラした目線を向けんじゃねぇよ
男に懐かれても嬉しくねぇんだよ!
まぁ、教えるのは俺じゃなくて師匠なんだけどな
「いいだろ?じゃないとコイツ自分の村まで帰れないぞ。」
「いや、だから俺は異世k——」
「いいんじゃないですか?私もショウさんが魔獣に食い殺されるのは嫌ですし。」
アリスが微笑みながら助勢してくれた。
さすが聖職者様、懐が広い。
でもなアリス、優しい顔で『食い殺される』なんて言わないであげろよ。
ショウが本気でビビってんだろ。
「アリスがいいなら、俺に異論はない」
「確かに帰れないのは、かわいそうかもね。」
フィリアも賛同してくれるなら、これで決まりだな。
「ありがとう兄貴! 皆さん!
僕、頑張ります!」
ショウが感激して俺の手を握る。
俺は苦笑して、その手を握り返した。
「……あのな。いつまでも『兄貴』って呼ぶな。鳥肌が立つ」
「え? じゃあなんて呼べば」
「タクトでいいよ。これから囮にする……背中を預けんだ。名前くらい呼び捨てにしろ」
「わかった! よろしく頼むよ、タクト!」
ショウは一瞬きょとんとして、それからニカっと笑った。
コイツ、ほんとに自分の役割分かってんのか?
「ああ、よろしくな、ショウ」
「……え、あの、タクト? なんか目が怖いんだけど……」
「気にすんな!」
俺もニコニコの笑顔を返してやった。
「じゃあ、私たちも呼び捨てでよろしく!私はフィリア!」
「俺はテスタだ」
「私はアリスです。よろしくお願いしますね」
一通り自己紹介も終えて、俺達は改めて5人パーティになった
「おぉ、これで僕も夢の冒険者の仲間入りかぁ。なんか感動で涙が」
「……泣いてる暇はないぞ。さっきギルドから討伐の依頼があった」
「えっ、今フォレストウルフ倒したばかりなのに、もう次受けてきたの!?」
「ギルドから依頼されたんだ、仕方ないだろ」
ショウだけが状況を飲み込めず、キョロキョロしている。
「あの、テスタ…さん? 依頼って……?」
テスタはショウを見据え、淡々と言い放つ。
「北の山に熊の魔獣が出たらしいから、明日討伐に行くぞ」
「熊退治程度、テスタがいるなら楽勝だな!」
「それもそうね!ねぇ、テスタ!明日討伐熊は結構大きいの?」
「大きさまでは知らん。受付嬢は“クマが出たから退治してくれ”としか言ってないしな。名前は確か、『アーマードベア』とかだったな」
テスタの口から告げられたのは名前だけでも物騒な響きの魔獣だった。
そして……
「えっ、その熊本当に今の僕が戦えるような相手なの!?なんか『アーマー』とか物騒な名前してたんだけどぉぉぉ!!」
ショウの絶叫が酒場に響く。
「大丈夫だ。お前は戦わなくていい。ただ、これを鳴らして走ればいい」
テスタが珍しく人を励ましてるな
初戦闘でそんな物騒な名前の魔獣と戦わせるんだし、コイツも優しくなるか
「なにこれ、お守り?」
「『魔寄せの鈴』」
「魔寄せ?、、、魔除けじゃなくて?」
「討伐する魔獣を避けてどうするつもりだ?鳴らすと近くの魔獣が興奮して襲ってくるから全力で逃げろ」
「自殺志願者のアイテムだこれぇぇぇ!!」
かわいそうに
完全に囮としての役割を全うしろという事らしい
俺も何かショウに言葉をかけてやるか
「最初に言っただろ、囮として役に立ってもらうって」
「いやだー!!もうおうちに帰りたいー!!」
現実を理解し絶望しているショウに、アリスが両手を組み合わせ、聖母のような微笑みで語りかけた。
「ダメですよ、ショウさん。折角お友達になれたのに。……それに、初めての任務を『放棄』するおつもりですか?(ニコッ)」
この聖女様も新しい戦闘員を逃がす気はさらさらないらしい
「ヒッ!? い、いえ!ちゃんとやり遂げます!」
「あはは! 明日は楽しくなりそうね!」
「まぁ、今日はもう飲んでるやつもいるしな。明日の朝に出発するか。」
「それがいいよ!じゃあ明日に備えてショウに剣術教えてあげれば?」
おっ!ナイス提案じゃねぇか、フィリア!
「いいですね!兄さん、せっかくですし教えてあげてください」
アリスも賛成してくれた。
妹の頼みならテスタは断らないから、ショウのことは任せても大丈夫そうだな。
「そうするか。着いて来い。今から特訓だ」
がんばれよ、ショウ。テスタの特訓は……
「特訓!?マジすか!」
「ショウ。ワクワクしてるところ悪いが、覚悟しとけよ」
「え、なんで?」
「俺、あいつと初めての特訓で骨2、3本折られたんだよ。アリスの治癒があるから容赦ねぇんだよな」
懐かしい記憶だ。
最初に特訓受けた時は絶対にいつかテスタを殺してやると誓ったんだっけ。
「早く来い!ショウ、今日でお前らを最低限戦えるくらいには鍛えてやる」
「誰か助けてぇぇぇ!!」
真実を知ったショウが泣き叫んでるが、もう遅い。
やる気になったテスタは俺には止められない
「頑張って来いよ、ショウ!じゃ、俺も一杯飲もうかな」
「何言ってんだ、タクト?お前も来い!」
「……あ?俺も??」
何で俺も一緒に行かなきゃいけねぇんだ?
「狼ごときに逃げ出すその性根を叩き直してやる」
「「誰か助けてくれぇぇぇ!!!」」
こうして、俺たちは新たな仲間を獲得したのである。
ちなみにこの日、ショウは右腕と左足の骨を叩き折られて号泣していた。
そして俺の左腕も叩き折られた。




