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強さを求めて熊戦に!

地獄の訓練から翌朝。

世界は爽やかだったが、俺とショウの気分はドブ川の底だった。


「……ねぇ、タクト。僕、まだ全身が痛いんだけど」

「奇遇だな俺もだ。あと、夢にテスタが出てきた」

「うわぁ、最悪……」


俺たちは村の出口で、死んだ魚のような目をしていた。

昨晩行われたテスタによる「初心者講習」は、控えめに言っても暴走馬車との衝突事故の連続だった。

アリスの治癒で骨は繋いでもらえたし、疲れもほぼ無い……


だが、刻み込まれた恐怖(トラウマ)までは治してもらえなかった。


「あら、お二人とも顔色が悪いですね、寝不足でしょうか? 薬草を煎じておきましたよ」


アリスが聖女の笑顔で、ドス黒い液体の入った水筒を差し出してくる。


「け、結構です。遠慮しておくよ」

「俺も……胃が悲鳴をあげそうだから……」


俺たちが拒否すると、アリスは「あら残念」と首を傾げた。

その横で、テスタが装備の点検を終えて振り返る。


「……無駄話は終わりだ。出発するぞ」

「ほら、2人とも!早く来ないと置いてくよ〜」


フィリアが軽い足取りで先頭を行く。

俺とショウは顔を見合わせ、重い溜息をついてからその後を追った。









そして到着した、北の山の中腹。

生い茂る森の中に、巨大な洞窟が口を開けていた。


あれが、ギルドからの依頼にあった『アーマードベア』の巣か。

まぁ、名前から物騒な生き物なのは分かってはいたんだがな


禍々しさ全開の魔力

鋼鉄のような外殻

さらに、昨日の狼どもを軽く踏みつぶせそうな巨体


実際に目の前にしてみるとあきらめも混じって逆に冷静に慣れたか知れない



「……あんなのどうやって倒すんだよ」









テスタの話によると、『アーマードベア』は鎧のような岩を体に纏った巨大熊だという。

その巨躯による強烈な一撃に加え、鎧による防御力も圧倒的でその辺の冒険者じゃ太刀打ちできないそうだ。

さらに、魔獣特有の黒(・)い(・)魔(・)力(・)による身体強化まで施されてるらしい。

それで村最強の剣士であるテスタに今回の依頼が回って来たのか。


てか、この口下手(テスタ)め……そんな危ない敵だって知ってたなら事前に伝えとけよ!

リーダーの癖にコミュニケーションも取れないのかよ!」


「……作戦はこんな感じだ。ってなんだタクト。文句があるなら俺と一戦やるか?」

「あ、いや……文句なんかあるわけないっすよ!」


やべぇ、どこから声出してたんだ?


「えーっ、その作戦なんですけど、本当に僕が鈴をもって囮になる感じです……か?」

「当たり前だ。そのために昨日盾の使い方を教えてやっただろ」

「そうだけどぉ、さすがに初めての実戦は怖すぎて」


そりゃいきなり前線放り込まれたら誰だって怖いよな


「まぁ、安心しろよショウ。こんなぶっきらぼうな奴だけど、テスタは結構立ち回りとか気を付けてるタイプだからな。いざとなったら、俺が助けに行ってやるよ!」

「昨日タクトに狼の群れの中に捨てられかけたから、信じていいか分かんないよ」

「過去のことは忘れようぜ!俺達仲間だろ!」

「……」


あの時はまだち(・)ゃ(・)ん(・)と(・)し(・)た(・)仲間じゃなかったからな!


「だ、大丈夫だショウ!もしバラバラになってもアリスが治してくれるからな!」

「はぁ……タクト、あまりそういう冗談は良くないですよ。ショウさん、タクトのいう事を真に受けないでくださいね」


そういいながらショウに向けられた聖女の微笑みは、不安がっていたショウに僅かな希望をもたらす。


「そうだよねアリス。冗談でもバラバラになるとか言わない方がいいよね」

「いくら私でもバラバラになったら治せませんから」


希望なんかなかったらしい。

笑顔のまま放たれた一言は、ショウを再び不安と絶望の谷に突き落としたように見えた。










「よし、巣から熊が出てきたな」

「行くぞショウ!」

「は、はい!」


テスタの号令に合わせて俺とショウは一気に巣の近くに駆け込んだ。

テスタの作戦は『アーマードベア』を木が密集した森の中央におびき寄せ、熊が動きにくい状況下で一気に仕留めるというものだ。

そして、熊をおびき寄せるためにショウには『魔寄せの鈴』を持って逃げ回ってもらう。


この鈴は普段から魔獣を引き寄せる微弱な音を鳴らすが、強い衝撃を加えると爆音で魔獣を完全に引き寄せるという不思議な魔道具だ。


これを使ってショウが熊を目的地までおびき寄せ、目的地で俺の遊撃と鈴の強烈な音を使って熊に隙を作る

……という作戦なのだが


「ちょっ!あの熊、平気な顔して木をなぎ倒してくるんだけど!」

「魔獣はその辺の動物より凶暴でパワーが凄いからな!あれでも木にぶつかりまくってるからスピードはだいぶ落ちてんだよ」

「タクトがこの役でもよかったんじゃないの?なんか足速そうだし!」

「俺はあの熊の気を散らして、テスタがとどめを刺すための隙を作るって役目があるからダメだろ!俺に注意が向いてたら隙を作る暇がねぇし!」


ショウには悪いが、今回の作戦では囮役を全うしてもらうしかない。

アリスは戦闘に参加できないし、フィリアはアリスの護衛と周囲の警戒だからな。

そもそも今回フィリアはあまり戦力になれなそうだしな。

アイツの戦い方は派手すぎて周りを巻き込みかねないから、今回の地形と相性が悪い。


「そろそろ目的の地点だ、ショウ。俺は先に行って遊撃の準備してくるから追いつかれんなよ!」

「そんな!?置いてかないでー!」


◇


タクトは遊撃のために先に行ってしまった。

目的の地点まであと数百メートル。

今のペースならギリギリ逃げ切れそうだ。


その油断のせいだろう、

木の根に足を取られて転んでしまった。

そして手から離れた『魔寄せの鈴』は地面に叩きつけられると同時にけたたましい音を鳴らした。

そしてその音に引き寄せられるように、『アーマードベア』は僕の眼前に迫っていた


逃げる? 無理だ。

この巨体の一撃を食らえば、走ろうが這おうが潰されるて死ぬ。

視界が絶望に染まった瞬間

——僕の脳裏に、昨日の「痛み」が蘇った。



『……いいか。真正面から受けるな。腕が砕けるぞ』

月明かりの下、丸太のような木刀を振り下ろしながら、テスタは言った。

『盾を斜めに構えろ。力を逃すんだ』

『理屈はわかるけど威力が殺意マシマシなんだよぉぉ!』



体が、勝手に動く。

思考よりも早く、テスタに叩き込まれた恐怖(トラウマ)が、僕の両腕を突き上げさせる。


「うわああああっ!!」


絶叫しながら、背負っていた鉄盾を構える。

正面で受けたら、潰されてしまう。

だから、斜めに受け流すんだ!

迫りくる爪の軌道に対し、威力を逃がすために盾を傾ける。


ガギィンッ!!


耳をつんざく金属音。

火花が散り、僕の体はボールのように真横へ弾き飛ばされた。

……あ、本当に死ぬ

自身の死を覚悟した時、

絶望に染まっていた僕の視界に『稲(・)妻(・)』が走った。


「よく耐えた、ショウぶふぉっ――!」


◇


鈴の音が森中に轟いたのは、ショウと別れて少し経った時だった。

ジリジリリリィィ!!!


予定にない鈴の轟音がなったってことは、

ショウに何かあったってことだ!


足元に魔力を集中させ、雷へと変換し


「【ウィング・サンダール】!」


足元に練った雷は翼となって俺を一気に加速させる!

視界の先にはショウが見えた、、、って、あのバカ野郎(ショウ)!

木の根っこに引っかかって転んでやがる!

間に合わねぇ!


俺の眼の前で巨大熊の一撃がショウに襲い掛かる

ここまで……ん?

ショウが恐ろしい速度でこっちに吹っ飛んできやがった


そうか!

ショウのヤツちゃんと昨日の特訓を活かして、巨大熊の一撃を受けやがったんだ!

やるじゃねぇか!


「絶対に受けきってやるよ!【チルチーニ・フラッシュ】!」


地面に打ち込んだ一本の稲妻!

それを軸に俺の身体を高速で円を描くように回転させ、衝撃を殺す。


吹っ飛ばされたショウをキャッチしてやる!!


「よくやった、ショウぶふぉっ――!」


威力が強すぎて、軽く10回転以上回りやがった。

目が回って気分が悪くなってきた


「グビぇぇ、ダグドォォォ!」

「切ったねぇツラして、泣くんじゃねぇよ!」


何はともあれ俺達を追ってきた『アーマードベア』を目的地に引き摺り出せた。


「ショウッ!ここから予定通りに行くぞ!」

「予定通りって言ってもここからどうすればいいんだよ!?」


確かに予定と違って、今俺たち二人の眼の前に巨大熊が迫ってきている。

このままじゃ俺は遊撃に回れない——が


「今だ!フィリア!」

「オッケーッ!【ベレニケス・ハリケーン】!」


フィリアが、その軽やかな動きで巨大熊の真横に回り込んでいた。

魔術によって嵐を纏った拳が、無防備な熊の顎を打ち抜く。

ドゴォッ!!


強烈な衝撃に、巨大熊の意識が俺達から逸れた


「なんでフィリアが!?彼女たちは後衛だったはず」

「予定外の騒音があれだけ鳴り響いてたんだ。あの単(・)細(・)胞(・)が気にならないわけねぇだろうがよ!」

「誰が単細胞よっ!!」


煽られた恨みを晴らすがごとく、フィリアの2撃目の拳が熊のボディに直撃する


「グギャァ!!」


ここだ!

あの鋼の肉体を突破するには今しかない!


「フィリア! ショウを頼む!【ウィング・サンダール】!」


俺は叫び、稲妻を纏って加速する。

すれ違いざま、空中でショウをフィリアの方へ放り投げた。


「え、ちょっ、なんで!?」

「ナイスパス!【ウィンドアプス】!」


フィリアは笑顔で風の魔術でショウをキャッチする。

風魔術で宙に浮かされてるせいでショウがめちゃくちゃビビってるな


「ショウの治癒任せたぜ!アリスに診てもらえ!」

「任された~!」


よし、これで心置きなく戦えるな。

俺は鈴を殴りつけ、轟音を再び響かせる。

これで巨大熊(ヤツ)の注意は俺に釘付けだ。

そしてそのままの勢いで再び【チルチーニ・フラッシュ】を発動し、『アーマードベア』の背後へ回り込む


「ちょいと動きがとろいんじゃねぇか、クマヤロウ!」


高速で自身の周りを回転する鈴を追い回したことで、『アーマードベア』がバランスを崩し転倒した。


「今だ、テスタ! そのデカブツをぶった切ってやれ!」

「……よくやった。ショウ、タクト」


頭上から、静かな声が降ってきた。

見上げれば、太陽を背負った影が一つ。

テスタはすでに剣を構え、重力に従って落下していた。

最後の力で抵抗する巨大熊の一撃をテスタは完璧な剣捌きで対応する

そして


「【バーン・ダリム】」


その詠唱と同時にテスタの剣がどこまでも熱く燃え始めた。

紅蓮の炎を剣が纏う。


「『煉獄』!」


ズドォォン!!

鎧を破り煉獄の剣が、巨体を切り裂いた。


テスタが剣術の中で最も得意とする大上段に構えた炎を纏う一撃。


そして直剣によってはその炎をもって、巨大熊を鎧の内側から焼き尽くす。

俺の憧れる圧倒的な技術と強さを持って、テスタはこの戦いに決着をつけた。


「ギャ……ァ……!」


戦闘終了。

あたりには焦げた肉の匂いが漂っている。


「ふぅ……。ま、こんなもんか」


フィリアは切り落とされた『アーマードベア』の元装甲を突っついて「これ素材になるかな?」とはしゃぎ、アリスはショウの治癒をしている。


「い、生きてる……俺、生きてる……」


ショウは地面にへたり込んだまま、焼き尽くされた『アーマードベア』の死骸を見つめている。

俺は魔術の余韻で痺れる手を振り、ショウの肩を叩いた。


「生きてるか、ショウ」

「……た、タクト……」


ショウが涙目で俺を見上げる。


「俺……盾……防いだ……?」

「ああ。完璧な『受け流し(パリィ)』だったぜ。テスタの特訓が効いたな」

「あぁ、悪くない動きだった。よくやったな、ショウ」

「こんな貧弱装備でこんな魔獣戦とかもうやりたくないからね」


戦いの後の安心感からか過去一で泣き言が多いな


「安心しろ、ショウ。今日みたいなことにはもうならないぞ。」

「え、ほんと!」

「今日の素材を売れば結構な金が手に入るはずだからな。それでお前の装備を整えれば、その貧弱装備ともお別れだ!」

「違う!僕はもっと簡単な敵と戦いたいんだよー!」


◇


巨大熊に襲われた

それでも僕は生きていた

それは、稲妻を纏ったタクトが僕を助けに来てくれたからだ

今日僕は悟った

この世界で僕は何の力も無い一般人なんだって

だから、憧れた

あの強さに

僕も強くなろう

彼の様に、彼等の様に

この世界で生き抜くための強さを手に入れるんだ

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