↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
16/36

紺のドヤ顔と、天才を沈める一撃

「面白い。測定器を小細工で壊したくらいで、いい気になるなよ。地方の野良猫が!」


(……野良猫?)


静まり返った武道場の奥から、一人の少年がゆっくりと歩み出てきた。


一歩、また一歩。


その足取りには迷いがなく、ただ歩いているだけなのに、周囲を圧倒するような威圧感があった。


少年が身にまとっているのは、学校指定の制服である純白の狩衣。そこには金色の豪華な刺繍が施され、寸分の乱れもなく着こなされている。


腰には、見事な装飾が施された名刀。


帝都の名匠が打ったとされる逸品だった。


その姿を目にした生徒たちは、一斉に息を呑んだ。


「……あ、あの人は!」

「帝都四大家の一つ、明神家の長男……明神蓮様だ!」

「学校一の天才だぞ!十五歳にして、すでに国家陰陽師の資格を持っていらっしゃるんだ!」


ざわめきが広がる。


生徒たちは弾かれたように道を開け、少年のために進路を譲った。


明神蓮。


帝都でも名の知れた天才陰陽師。


その冷たい瞳が、まっすぐに僕を射抜いた。


そして、唇の端が獰猛に歪む。


「身の程を知れ、地方の野良猫……!」


蓮は懐から一枚の呪符を取り出した。


上質な和紙に、金色の墨で禍々しい文字が記されている。


彼が指先に霊力を込めた瞬間――。


バチバチバチッ!!


呪符から黄色い火花が弾け飛んだ。


呪文すら唱えていない。


それなのに、耳を突き刺すような雷鳴が武道場に響き渡る。


空気が張り詰め、肌にまとわりつくような殺気が押し寄せてきた。


「水晶が砕けたのは、何かの小細工か……あるいは、お前が不気味なあやかしの呪詛でも使ったからだ」


蓮の声には、隠しきれない怒りが滲んでいた。


「土御門の忌み子が、帝都の神聖な結界を汚すな。私が今ここで、その浅ましいメッキごと叩き潰してやる!!」


ゴゴゴゴゴ……!


蓮の全身から、圧倒的な霊力が溢れ出す。


足元の石畳に、びりびりと亀裂が走った。


その凄まじい気迫に、生徒たちは悲鳴を上げて後ずさる。


先ほどまで僕を嘲笑っていた者たちでさえ、今は蓮の放つ殺気に圧倒されていた。


「実戦形式の模擬戦か……いいでしょう!」


先ほどまで腰を抜かしていた教師が、ここぞとばかりに声を張り上げた。


「蓮様!その出来損ないのガキに、手加減なしで本物の『格』というものを叩き込んでやりなさい!」


……なんだか、ずいぶんと盛り上がってしまった。


僕は困ったように、足元の黒を見つめた。


すると黒は、人間の姿になる気すらないといった様子で、床に寝転がったまま、のんびりと尻尾を揺らしていた。


『やってやれ、あかり。俺の作った木刀で十分だぜ』


(……うん、わかった)


僕は黒からもらった木刀を握り直した。


小さな木刀だ。


けれど、手にすると見た目以上にずっしりと重い。


僕は静かに蓮と向かい合い、構えを取った。


「明神蓮、参る!」


蓮は金墨の呪符を二本の指で挟み、静かに口元へと当てた。


そして――。


「――出よ、我が守護獣、雷獣!」


バリバリバリッ!!


呪符から、激しい黄色い雷が噴き出した。


稲妻が武道場の床を焼き、眩い閃光が辺りを駆け抜ける。


雷鳴が轟く中、その中心から巨大な影が姿を現した。


虎だ。


全身を黄色い雷で包み込んだ、巨大な雷の虎。


その鋭い牙が剥き出しになり、双眸が獲物を見据えるように僕を捉えた。


明神家が誇る守護獣、雷獣。


「お前なんか、これで終わりだ!――喰らえ!」


蓮の命令が響く。


次の瞬間、雷虎が地響きを立てて跳躍した。


「ひっ……!」


生徒たちが悲鳴を上げ、思わず目を背ける。


巨大な雷の獣が、僕を喰らおうと迫ってくる。


けれど――。


僕の目には、その動きがひどくゆっくりに見えていた。


黒との毎日の特訓。


あの容赦のないしごきに比べれば、目の前の攻撃は止まっているも同然だった。


僕は落ち着いて、そっと呼びかけた。


「……おいで、影猫」


足元の影が、すっと揺れる。


そこから一匹の影猫が滑り出し、雷虎の影を踏みつけた。


「にゃ」


小さな鳴き声。


その直後――。


ピキィィィンッ!!


甲高い音が武道場に響き渡った。


巨大な雷虎が、空中で完全に動きを止めたのだ。


まるで見えない何かに縫い留められたかのように、爪も牙も、振り下ろす寸前の姿勢のまま凍りついている。


「な……っ!?」


蓮の目が大きく見開かれた。


次の瞬間。


バリィィィンッ!!


明神家が誇る最高の式神が、脆いガラス細工のように砕け散った。


黄色い雷光が弾け、無数の光の粒となって消えていく。


「ば、馬鹿な……!我が明神家の式神が、一瞬で……!?」


蓮は愕然としたまま、震える指先で懐に手を伸ばした。


もう一枚、呪符を取り出そうとしている。


――でも、遅い。


神代の剣術『影一文字』。


トッ。


僕が地面を蹴った瞬間、姿が残像を残して視界から消えた。


次の瞬間には、蓮の死角へと滑り込んでいた。


「なっ……!?」


驚愕に目を見開く蓮。


僕は呼吸を整え、神代の力を加減しながら、その力を木刀へと集約させた。


そして――。


トン。


木刀の先を、蓮の腹部へとそっと添える。


「――『打』」


ドォォォンッ!!


凝縮された力が、一気に解き放たれた。


爆発的な衝撃波が武道場を駆け抜ける。


「がはっ……!?」


蓮の身体が、弾丸のように後方へ吹き飛んだ。


名刀を抜くことすら許されない。


彼の身体は防音壁へと叩きつけられ、石畳と壁を豪快に砕きながら、その場に崩れ落ちた。


白目を剥いた蓮は、ぴくりとも動かない。


たった一秒。


わずか一撃。


それだけで、勝負は決着した。


「…………」


武道場に、再び沈黙が降りた。


誰もが目の前の光景を信じられず、呆然と立ち尽くしている。


「……明神家の天才が……式神を消されたあげく、気絶した……?」


誰かが、震える声で呟いた。


僕は木刀を下ろし、倒れた蓮へと恐る恐る近づいた。


「ご、ごめんね……。ちゃんと手加減したつもりだったんだけど、加減しきれなくて……。大丈夫……?」


返事はない。


蓮は気絶したままだった。


その沈黙を破ったのは、教師の悲鳴だった。


「れ、蓮様――っ!?誰か、今すぐ救護班を呼べ!医療特化の陰陽師を全員集めるんだ!早くしろっ!!」


「蓮様!お気をしっかりと!」

「あ、ありえない……!あの明神蓮様が、一撃で……!?」

「あいつ、一体何者なんだ……!?」


武道場は一瞬にして大混乱に陥った。


教師たちが慌てふためき、生徒たちが叫び声を上げる。


救護を担当する陰陽師たちが雪崩のように駆け寄り、蓮を担架に乗せて大慌てで運び出していった。


そんな喧騒の中、紺は「ふふん!」と鼻を鳴らした。


「ふふん!あかり様に逆らうから、罰が当たったの!」


得意げに尻尾を揺らす紺。


その隣で、黒は大きなあくびを噛み殺した。


『やれやれ。手加減の練習にはちょうどよかったろ。帰って晩飯にしようぜ』


「うん、そうだね」


僕は木刀を握ったまま、困ったように笑った。


武道場の中央では、教師も生徒も大騒ぎしている。


けれど、僕たちだけは、どこまでものんびりとしていた。


――これが、僕と明神蓮との最初の出会い。


そして、この事件をきっかけに、僕の学院生活はさらに波乱に満ちたものへと巻き込まれていくのだった。

ここまでお読みいただきありがとうございます


天才ライバルの蓮様、見事なフラグ回収とともにワンパンで沈んでいただきました。影猫の「影踏」地味に見えてかなり強力です……!


評価やブックマークなど執筆の大きなモチベーションになります

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。