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32.

 


 やってしまった。

 ルドヴィクはベッドの上に寝そべり、今日一日の自分を省みる。穴があったら埋まりたい。できればかなり深くまで。


「情けな……ガキに当たってどうすんだよ」


 独り言を言って顔を上げると、自室のドアノブが動いている事に気が付いた。

 鍵が掛かるのと同時に防音機能も働いているため、部屋の外の音は聞こえないが、きっとブレンだろう。こういう時、フィリアは近付いて来ない。

 それもそれでフィリアに申し訳無い。しかし今は2人に合わせる顔が無い。


(放っておこう)


 そのうち諦めるだろう。ルドヴィクは体勢を変えベッドにうつ伏せた。


「ほら開いたよ?」

「無理矢理開けたんだよね!?」


 ????

 え、何で?

 顔を上げると、ドアが開いている。端末を手に持ったフィリアと、焦ったブレンが覗いていた。どうやら、フィリアが鍵を解除したらしい。


「………フィリ、家のシステムに侵入するなと、前に言っていた気がしたんだけど……」

「いやー…そうなんだけど、今が使い時かなって」


 悪びれもしないどころか、少し笑っている。

 誰だよ、この娘にこんなスキルつけた奴。


「パパ、マットレスと布団と枕持って、こっち」


 言われた通りの物を抱えて後について行くと、リビングのソファが端に寄せらせ、布団が2客くっつけて敷かれていた。


「私達こっち。パパそっちにくっつけて敷いてね」


 フィリアの寝床を真ん中にする形で場所を指示されたルドヴィクは、流されるまま布団を敷き、何かに気づいた。


「ちょっと待て。考えろ。お前ら何で2人並んで寝ようとしてんだよ」

「え、ちゃんと考えたよ?隣が私の方が、ブレンも安心でしょ?」


 ね?とフィリアが聞くと、枕を整えながら聞いていたブレンもうんと頷いた。


「パパもブレンの隣が良かった?」


 ダメだこれ。


「良いか?フィリはもう思春期。ブレンも同じくらいの歳。くっついて寝たら大問題なんだよ」


 血の繋がった兄妹でもあるまいし。何かあったら大変だ。

 そこまで想像して、ルドヴィクは頭痛がした。


「何で?」

「何でも!フィリどけ。俺がお前らの間に入る」

「えーーー」

「えーって何だよ」


 何も考えていない子どもたちには悪いが、不満そうなフィリアを転がし、ルドヴィクは3つ並んだ布団のど真ん中に寝そべった。その様子を見て、何故かブレンはニコニコしている。


「……ってか、何なんだよ一体」

「ブレンがパパの事心配してたんだよ。それにパパ、何か寂しそうだったからね。私たちが一緒にいてあげようかなって。ね?」

「ね?」


 いつの間にか兄妹のように仲が良くなっていたようだ。

 満足そうに笑うフィリアとブレンの顔を見て、何も言えなくなったルドヴィクは、頭ままで布団をかぶり一言呟いた。


「フィリ、お前は母親そっくりだよ……」

「…………………え?」


 驚いたが聞き逃さなかったフィリアは、思い切りルドヴィクの頭に掛かった布団を剥いだが、言った本人は既にすうすうと小さな寝息を立てて眠ってしまっていた。


「ルドヴィクさん寝るの早っ」

「言い逃げか……パパ、気絶するように寝ちゃうからね」

「たまにソファで寝落ちしてるもんね」


 ルドヴィクから無造作に剥がされた布団を丁寧に掛けてやり、ブレンも自分の布団に潜った。それを確認してから、フィリアも部屋の電気を消して布団に入る。

 いつもなら、横になればうとうとしてくるが、今日は色々考えてしまって眠れない。


(初めてパパからママの事聞いた)


 自分にそっくりだと言っていたが、外見だろうか。それとも中身だろうか。

 友達や父親の友人達には、髪色は違うけれど父親似だと言われていた。意識した事が無かったが、この髪色は母譲りなのだろう。何をしている人なんだろう。どんな声で、どんな体温で………何て、自分を呼んでくれたんだろう。


「ねえブレン、まだ起きてる?」

「うん」


 真っ暗な天井を見ながら声をかけると、ブレンはまだ返してくれた。


「あのね、聞いて欲しいだけなんだけどね」

「うん?」


 フィリアは横を向き、父親越しにブレンの方を見た。

 布擦れの音が聞こえるから、ブレンも同じようにこちらを向いてくれているのだろう。


「パパがね、昔私が寝れない時、子守唄を歌ってくれたの」

「え、ルドヴィクさんが?」


 信じられないと言いたそうな声色が聞こえ、フィリアは少し笑ってしまう。


「それがね、何て言うんだろう…若干、下手ウマ?っていうか」

「下手ウマなんだ」


 今度はブレンの小さな笑い声が聞こえた。


「でもね、同じ曲なのに、私の知ってる子守唄はもっと上手なんだよね。だから納得いかなくて、もっと上手く歌えないの?って怒ったら、パパちょっとショックそうだった」

「その様子、すごく見たかったな。面白そう」

「………昔は、もっと天井が高かった気がするの。窓も大きくて、何だか光も暖かくて」


 繋いだ手も、抱きしめられた身体も、もっと柔らかくて良い匂いがした気がする。ふわふわのミルクティー色の髪を握ると安心できるから、手で掴んだら……何か言ってたっけ。


 もう少し大きくなって、髪が長くなったら結ってあげましょうね。


 窓から見える景色は緑が生い茂っていて、花壇には色とりどりの花が咲いていた。温室には小さな畑があって、庭仕事のおじさんのきゅうりが美味しくて。フィリのパパも好きだったのよって言ってた。

 私、畑なんて見た事あったかな?あんなに緑の濃い木、このコロニーにあったかな?





「フィリア?」


 話が途中で止まり、ブレンはフィリアの名前を呼んだ。

 しかし返事は無い。きっと眠ってしまったんだろう。


「おやすみ、フィリア」


 2人分に増えた寝息を聞きながら、ブレンも目を閉じ夢の中に落ちていった。




泳げてきゅうり好きって、河童かな?って思ってごめんね。

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