28.
「アエリュシオン軍空挺部隊、目標地点まで誘導」
「連邦軍戦闘部隊、敵を目標海域まで誘導後、前線部隊を殿に全部隊速やかにできるだけ遠くまで後退」
アエリュシオンと連邦の各司令官が指示を出すと、当該部隊から了解の合図が送られてきた。その間も、今作戦の司令官であるアリエリアナはチェス盤のように作った地形図を見ながら、頭脳をフル回転させていた。
アリエリアナがいつも使う作戦用の地形図をチェス盤に似せたのは、チェスが得意な彼女の趣味だった。その方が集中できる、と。敵を表す赤色の点や味方部隊の青色の点が2面の中で目標地点まで動いている。青色の点たち…その一つ一つが大事な国の資源。誰かの大切な命だ。
(この時速でいけば、大丈夫、大丈夫……)
視界が少しぼんやりしてくる。集中し過ぎて呼吸を忘れてしまうのだ。酸素を頭に回せるよう意識して深呼吸していると、連邦の戦闘部隊が海域に入った。アエリュシオンの部隊も、少しずつ敵を減らしながら目標地点に近付いている。アエリュシオンの雷を発動させる時、空と海が同じ空域・海域にいる必要がある。このままなら、順調に行けそうだ。
「連邦軍、前線部隊を殿に後退」
オルアンが連邦軍戦闘部隊に指示を出す。青色の点達が海域外へ移動し始めた。敵の赤い点を海域外に出さないよう、一定の距離を保ち囲っているのが前線部隊の小隊達だろう。その中のいくつかが赤い点と距離が近い。交戦しているのだろう。若手の小隊番号を意味している、機体番号が大きい小隊もいる。
嫌な予感がする。
「連邦軍司令官殿、現在交戦中の小隊ですが、下げることはできますか?」
アリエリアナが聞くと、オルアンは苦い顔をした。
「難しい。他小隊を動かせば、そこに穴が空く」
確かにそうだ。残しているのは最小限の前線部隊のみ。他は既に距離も離れている。交戦中の敵の撃破を優先事項にしなくても良いのでは…アエリュシオンの部隊もだいぶ近付いている。当初の予定通り、そろそろ前線部隊も下がらせよう。作戦中のアリエリアナにとって、優先事項は人命だ。
「連邦司令官殿、交戦中の小隊達に水雷を使うよう指示をお願いします。前線部隊にも後退してもらいましょう」
「了解した。交戦中の小隊は魚雷の用意、その他は後退。魚雷発射指示の後、全小隊は速やかに後退」
オルアンが発射指示出そうとしたその時だった。
「連邦軍前線部隊の第653小隊が敵と接触し機体損壊!戦闘員が船外に放出されました!」
「な…っ」
このタイミングで!
目の前の地形図上ではアエリュシオンの部隊が目標空域内に入った。
「アエリュシオン軍司令官殿、敵を空域から逃がさないよう旋回しながら待機命令を!」
「帝国軍司令官殿!!」
急いでラウロに命令を要請すると、信じられないと言いたげな声色でオルアンがアリエリアナを呼んだ。
「2カ国の大勢の命がかかってるんだ!この部隊は捨てるしか無い!!」
「何を言っているのですオルアン帝国軍司令官殿!!!」
アリエリアナは声を荒げ勢い良く椅子から立ち上がった。この場にいる彼女の側近以外は全員、初めて見る様子に思わず息を呑む。
「貴方の仰ったように、我々は多くの命を背負っているのです!あの小隊の軍人達だって同じ!捨てて良い命など一つも無い!!私たちは司令官ですよ?考えなさい!1人でも多く、家族の元に返してあげる方法を!!」
諦めたくない。しかしどうすれば…
(考えなきゃ!考えなきゃ!!)
地形図に浮かぶ、海中を動く点達の位置やデータを猛スピードで確認していくが、アリエリアナの頭脳をもってしても「653小隊の回収断念」以外方法が無い。
ぎゅう、と握るアリエリアナの手から血が滴り落ちる。
「俺達が行く」
司令室に通信が入った。
(この声…)
「前線部隊の第16小隊からの通信です!」
「こちらに繋げ」
管制担当がオルアンのインカムに直接回線を繋ぐ。
「無謀にも程があるぞ、第16小隊。何かあっても、お前達を助けになど…」
「わかりました。第16小隊に任せましょう」
第16小隊とオルアンの会話に割り込んだアリエリアナは、一言だけ言うと回線を遮断した。
「何をするアリエリアナ殿!」
「この方が彼らも集中できますから」
「彼らは連邦軍の軍人だ!!」
「今作戦の司令官はわたくしです!!責任は全てわたくしが取ります!」
通信から聞こえた16小隊…ルドヴィクの声。あの男が言うのなら、きっと。
椅子に座り直したアリエリアナは、血で濡れた手を膝に乗せてオルアンを見つめた。
「信じましょう、彼らを」
831小隊でも良かったんですよ…634とか…




