27.
行動開始からすでに5時間は経過しただろうか、遅れて到着した帝国軍司令官のオルアンも、アエリュシオン軍司令官のラウロも加わり、各国の現地部隊に指示を出している。そのおかげで司令官席に座るアリエリアナの負担は減ったが、敵の掃討数で言えば陸5割、空と海中は1割程度だ。
(海中の敵なんて、まだ3桁も……もう5時間、人間相手なら持久戦に持ち込めるけど、相手は人外。各国共に疲弊してしまう。もうあと半分くらいの陸の敵を先に潰そうか…火力が…それを待っていればオルカニアの前線部隊が死んでしまう……)
地形図を見ながら部隊のマーカーを動かし、アリエリアナはブツブツと脳で考えている事を早口でずっと呟いている。
最初はアリエリアナも直接オペレーターに指示を出し、アエリュシオンと連邦の司令官にお伺いを立てていたが、だんだんとそれも追いつかなくなってくる。アリエリアナに控えている側近達は、そのための手足であった。彼女が呟く情報から必要な指示である箇所を抜き出し、取捨選択をしてオペレーターや司令官に伝える。
(ああ、どうしよう。時間が…人間の疲労が…)
アリエリアナの思考も段々と混乱して来た。
隣で大量のメモを取っているファビオも、不安そうな顔をしてアリエリアナを見ている。そこへ、アエリュシオン軍司令官のラウロがやって来て彼女の耳元で囁いた。
「帝国軍司令官殿、我々アエリュシオン軍は雷を使用する用意があるよ」
その言葉に弾かれたように、アリエリアナはラウロを見上げる。
「アエリュシオン軍司令官閣下、他国軍のわたくしに使用権限を与えては…」
「わかるでしょ?エリちゃん。このままだと、皆撃ち落とされてしまう」
ラウロの目は笑っていない。
しかしこの状態で使おうものなら、地上か海中、どちらかの住民なり戦っている現地部隊に影響が出る。あれの影響は空だけでは済まない。
「エイレーネー、帝国の現地部隊へ指示。わたくしが」
インカムをエイレーネーから受け取り、帝国の現地部隊へ指示を出した。
「帝国軍ドローン部隊、敵をその場に足止め。戦車大隊はB2、C2エリアにて左右、雁行の陣形で展開、長距離砲弾用意。F1エリアの高射砲部隊、距離50m、角度33度、撃ち方用意」
帝国の戦場が映るワイプが、高射砲部隊が見ている景色に変わる。敵はドローンが邪魔なようで、集団で固まって手でドローンを避けている。狙うならここだ。
「撃て!」
アリエリアナの声の1拍後に、高射砲部隊の砲弾が放たれ、前列にいた巨大な敵達の膝部分に命中した。前列の敵は倒れ、その後ろの敵が前に進もうと仲間を乗り越えようとしている。
「高射砲部隊、全員塹壕へ退避。続いて戦車大隊、同じく膝に砲弾、撃て!」
また1拍後、放たれた砲弾が敵に命中した。
「戦車大隊、その場から全速力で後退!ドローン部隊、頭上から爆弾を投下」
先程まで敵の行手を阻んでいたドローン部隊から何かが落とされる。
敵に当たった瞬間、大量に落とされたそれは弾け、辺りが一瞬明るくなり大爆発を起こした。
「敵、残り3体です………」
一連の流れを片手間に見ていた司令官達や司令室の職員たちは、空いた口が塞がらなかった。その中で陸の敵を観測していた管制官だけが、かろうじて唖然としながらも残数を報告した。
「あとは現地の担当司令官に任せられるでしょう…」
座っているはずなのに立ちくらみがする。喉もカラカラだが、欲求に割いてる時間など無い。アリエリアナは座り直し、空と海中の盤を目の前に動かした。
正直、人里から離れてさえいれば陸上で動く敵より、空と海を縦横無尽に動き回る敵の方が、厄介だった。今回、絶望的な敵数ではあるが、陸と海のあちこちに敵の出現場所が分散していないだけ、まだマシだろうか。しかしこれから個々で移動する可能性も大いにあり得る。
ぶつぶつ、ぶつぶつ、アリエリアナは思考を巡らせる。
あと何時間…現場も、こちらももつ筈が無い。この大量の敵を前に、虱潰しなんて兵士の命の無駄だ。これしか方法は無い。
アリエリアナはラウロに向き直った。
「アエリュシオン軍司令官閣下、貴国の雷の用意をお願いいたします」
「アエリュシオン軍所属合同本部司令官ラウロ、帝国軍所属合同本部司令官アリエリアナ・ククルスカからの要請を許諾する」
「感謝いたします」
両手を合わせ右手親指を左手親指の上に交差し、目を閉じて少し俯く。アエリュシオン風の最大限の感謝を示す動作を行い、アリエリアナは中央に向き直った。
「作戦を伝えます」
アリエリアナは、ホロクラムでできた空と海の地形図を重ね、海中コロニーも空の島も無いある1箇所に指で円を描いた。それが中央の一番大きなモニターに同時に反映されている。
「ここに敵を誘導し、アエリュシオンの雷で仕留めます。チャンスは1度きりです」
「1度……」
「1発使えば、次の発射まで時間がかかるからね」
オルアンの呟きに、ラウロが答える。
「アエリュシオン軍はそのタイミングまで上空にて敵を誘導。可能であれば減らしていただいて構いません。連邦軍は誘導の後、殿に任せ退避。その後、殿も全速力で退避。雷の範囲は直径1km。爆風等の影響を考えれば、もっと離れてください」
「こんな机上の空論、上手くいくのか?」
連邦ではきっと、もっと熟考を重ねた作戦を出すのだろう。だが今はそんな事知らない。
「連邦軍閣下、上手くいくのか?ではなく、上手くやらなければいけないのです」
「…………わかった」
各司令官が自国の軍に指示を出す。
もう後には引けない。陽が落ちるまでに、何とか片を付けなければ。
アリエリアナは、手にじわりと滲んだ汗を軍服のスカートを握りしめて拭った。




