26.
三国合同本部といっても、該当職員が常にその仕事をしているわけではない。
連邦軍人たちは自分たちの所属部署の仕事をしながら、帝国軍人とアエリュシオン軍人は自国の仕事と体調管理のため、連邦と行ったり来たりを繰り返しながら。つまり仕事が増えただけだった。そこへ敵の捕獲計画も考えなければいけない。本部が発足されてからの敵の出現頻度としては、たまにどこかのエリアに1〜2体程度。そのくらいなら平時と変わらないため、該当国の軍と現場司令官が対処するという状態だった。ただ、現場からのデータは合同本部の方に送られてくるようになったため、管制・システム担当の職員たちは国籍に関わらず、合同司令室内にて激務状態だった。昼夜の区別があるのか無いのか、24時間関係無く出現する敵に対応するため、この部署は6時間区切りのシフト制で回している。通常業務に加えて、だ。
「しんどい……」
この言葉は、部署内でほぼほぼ共通用語になりつつある。目の下にクマを作り、栄養ドリンクを細いストローで吸いながら、画面や立体ホログラムを見つめる職員たち。別部署から見ても地獄だった。この部署を「隈牧場」などと揶揄する者もいたが、さすがに気の毒に思っている者たちからの窘めが入ったようだった。
「歩くゾンビ…」
と言ったら流石に気の毒だろう。やり方を少し考える必要がある。
出来上がったデータを司令室で読み込んでいたアリエリアナが、具合が悪そうに歩く管制・システム担当の職員たちを見て思っていると、頭に軽い衝撃が走った。痛い。
こんな事をこの場でやる人間など1人しかいない。
「こら、言い出しっぺ。せめて声に出すな」
「今改善案を考えようとしていたのですが」
「その前に言葉選べ」
しまった。口に出しているつもりは無かった。
慌てて手で口を押さえる。
………というか、
「貴方、誰の頭を叩いているのです?中佐」
「ポンコツ閣下の頭です」
むっかつく。という言葉は飲み込んだ。
それよりも、自分で生成してしまったゾンビ達…もとい、疲れ果てた哀れな軍人達を少しでも労ってあげるのが、司令官である者の務めだろう。チョコレートを箱で持って来てもらおう。ついでに紅茶が飲みたい。アリエリアナは側近のエイレーネーを呼び寄せ、彼女の耳に口を近づけ小声で指示を出そうとしたその時、司令室内にけたたましい警報音が鳴り響いた。
「何事です?」
アリエリアナは管制に問いかける。管制担当は焦ったようにコントロールパネルを操作しながら、悲鳴のような声で回答した。
「敵、出現です!」
「落ち着いて。そのくらい…」
「アエリュシオン・帝国・連邦、三国同時に出現しました!!」
モニターに3つ、各国のワイプが映し出される。
多い時でも、敵は10体前後。それが、今回は敵の数がどんどんと増えていっている。
「なんだよ、これ…………」
管制・システム担当の職員達の手が自然に止まっていく。こんなの、見た事ない、と目を大きく見開き、顔色を失っている者もいた。
「各国の敵数は?」
「アエリュシオン30体、帝国58体、連邦ひ…124体………」
「カウントのミスは許されないわよ…」
アリエリアナの声色が少し厳しくなる。
「いいえ、ミスではありません閣下」
ふざけている者など1人もいない。こんなの、悪夢だ。
(アエリュシオンの司令官殿は今アエリュシオンから連邦に戻る高速船で移動中、連邦の司令官殿は今日は非番…これから連絡をしても到着までに時間がかかる……)
「閣下」
最早、アリエリアナを呼ぶ声も誰かわからない。
待っていられる状況ではない。この場で、アリエリアナは決断を迫られている。
「エイレーネー」
息を吐き覚悟を決め、自身の最側近に目配せをすると、エイレーネーはスゥッと息を吸った。
「総員、傾聴!!」
「これより、緊急ですが三国同時の敵殲滅作戦を開始します。合同本部担当官は今すぐに本部に集合、各自持ち場の上官に指示を仰ぐこと。連邦軍前線部隊所属の皆さんは、至急そちらに加わってください。捕獲の事など一切考えないで。本部の司令官はわたくし、テオドリカ帝国所属軍事部防衛司令室特別調整官アリエリアナ・ククルスカが担当いたします。総員、行動開始!」
一糸乱れぬ三国の敬礼の音の後、現場に赴く者は部屋から退出し、管制は敵の情報を分析しながらこの場にいない職員達に一斉招集をかけ始めた。
喧騒の中、緊張で震えそうになるのを抑えながら息を吐くと、アリエリアナが座りやすいよう、ファビオが司令官席を引いた。
そう、震えている暇など無い。時間をかければかけるほど、死者の数は増えてしまう。アリエリアナは姿勢良く椅子に座り白手袋を脱ぎ、細く形の良い手を左から右へかざし、3つのチェス盤に似た地形図のホログラムを出した。
「では皆様、 覚悟はよろしくて?」




