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25.5−2

 



 顔を青くしたダリウスが退出した後、端末で様子を見ていた側近のエイレーネーが隣の部屋からやって来た。


「閣下、それでは優しすぎるヒントを与えただけです」

「えぇ!?何のこと!?」


 実のところ、アリエリアナは何も考えずに、ふと思いついてルドヴィクの真似をして遊んでいただけだった。そんな事だろうなと、彼女をよく知るエイレーネーはハァとため息を吐いた。


「人で遊ぶのも程々にして下さい。その内痛い目に遭いますよ」

「遊んでなんかいないわ」

「閣下」


 鋭い声で呼ばれ、アリエリアナはピャッと首をすくめる。


「もう……そろそろ緊急の司令官会議の時間ですよ、閣下」


 先程の会議の後、個人端末当てに緊急会議の連絡が届いていたのだった。


「そうね。もう少し落ち着いてお話できる機会があってありがたいわ」


 席を立とうとすると、エイレーネーのじっとりと責めるような目に気付いた。まだ怒っているのだろうか。


「あのね、エイレーネー。この場での私の発言は、私個人のものではなく皇帝陛下の御意志も同然。全て私情なんて挟まないわ」

「わかっております」


 どれほど意見を強行したとしても、どんなに非難を浴びようとも、謝罪も撤回も有り得ない。


「さ、仕事をしましょう」






「失礼致しま………えっ」


 指定されていたのは小さな部屋だった。中は少し薄暗く、ペンダントライトや間接照明のみで明かりをとっており、カウンター席には椅子がいくつか並べられ、中には何種類もの酒が並んでいる。

 これは完全にバーだ。

 一応、ここは真面目なオルカニア連邦の軍内部のはずだが……


(飲酒できる場所は限られている。軍事施設内で飲めば処罰の対象ってヴィーカが前に言っていたけど…接待用の部屋なのかしら)


「エーリちゃん」


 カウンター席には、既にアエリュシオン軍司令官と連邦軍司令官が座っていた。アエリュシオン軍司令官は笑顔でアリエリアナに手を振っている。


「遅かったでしょうか?」

「時間前だよ。どうぞ座って…エリちゃん届く?」


 2人の間の空いていた席に促された。

 カウンター椅子は普通の椅子より少し高い。


「届きます!そこまで小さくありません!」


 身長の小ささを嘆いた事は無いが、そういう気遣いをされると少し腹立たしい。座ると水ではなく赤ワインが出て来た。


「アエリュシオンから持って来てたんだよね〜。だからこの部屋も開けてもらっちゃった」


 そう歌うように言い、手ずからグラスにトプトプと注いでいる。

 会議だと言うのに、と言いたいのだろう。連邦軍司令官は眉間に皺を寄せながら息を吐いた。


「アエリュシオン産のワインは、帝国でも美味しくて有名ですから」


 酒が3人分渡ったところで、グラスを上げて乾杯をする。そのまま口に少し含むと、芳醇な香りと味が口と鼻に広がった。美味しい。


「帝国軍司令官殿、せめて我々には最初に言ってくだされば、会議もあれ程荒れずに済んだのでは?アエリュシオン軍司令官殿が言っていた通り、あれでは不意打ちだ。我々は協力するために集まっているのに」

「そうですわね……何事にもスピード感が大事かと思いまして」

「あははっ」


 連邦軍司令官の質問に真面目に考えて答えると、アリエリアナの左側に座っていたアエリュシオン軍司令官が堪らず笑い出した。


「ごめんね、続けて」

「事前に話していた方が、確かに議論する時間も取れましたでしょう。ですが、それに使う時間が勿体無いと感じました。現に、もう関係各者は動き出していますでしょう?捕獲システムや機械の開発、敵と最前線で対峙するであろう各国前線部隊にも、少なからず話が入っている頃です」

「……権威主義のテオドリカ帝国のやり方とは思えない」

「だから話が進まないのです。順番を守っていたら、きっとどこかで潰されると考えました。これはわたくしの責任です。ですが、この捕獲案が動き出し成功すれば、三国合同本部も意味のあるものとなりましょう」


 絶対に成功させたい。アリエリアナの目がギラギラと輝く。


「……子供達や未来のため、ですか」


 連邦軍司令官はワインを一口飲み、グラスの赤をじっと見つめる。


「連邦軍司令官殿?」

「私にも息子がおります。最近前線部隊に配属された……今回はあまりにも唐突すぎたが、現状から前進するのであれば、反対は無いでしょう。この国で軍人なら、少なからずアレに身内を殺されている」

「そうそう。エリちゃん、今度からは先に俺たちに相談してよ?俺たちが連携取れてないと、部下たちに示しつかないんだからさぁ」


 少し減った連邦軍司令官のグラスに、アエリュシオン軍司令官がワインを追加する。

 こんな事を言ってくれる人達は、今まで周りにいなかった。

 帝国軍部の会議では、いつも何者にも潰されないよう神経を使っていた。しかし、国も文化も違うこの2人は、足を引っ張る事を考えず、こうして共に築き上げようとしてくれている。アリエリアナの肩の力が、ふと抜けた。表情筋も少しやわらぎ、ホッとした顔をする。


「……感謝致します」

「ところで気になっていたんだが、アエリュシオン軍司令官殿、貴殿と帝国軍司令官殿は知り合いなのか?」

「いえ、初めてお会いしましたわ」


 確かに。何故初手から「エリちゃん」なのか。


「小さくて可愛い女の子には、可愛い名前で呼ばなきゃダメじゃない?俺の事はラウロで良いよ」

「良いよと言われても……ではラウロ殿。そう呼ばなければいけない時もあるだろうが、連邦軍司令官だと長いな…オルアンだ」


 ラウロとオルアンはアリエリアナを挟み、改めて握手をする。


「それ苗字?」

「苗字で十分だと思うが」

「では、わたくしも」

「エリちゃんはエリちゃんで」


 ラウロに笑顔で話を切られた。

 何故と言いたかったが、またグラスに追加されたワインを一気飲みし、アリエリアナは考えるのをやめた。


「エリちゃん、良い飲みっぷりー!」


 うるさい。

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