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24.




「ブレン、ごめんね」

「えぇ!?なんで!!?」


 キッチンで食器を洗うフィリアが、隣ですすぎを手伝うブレンに謝った。心なしか、シュンとしているように見える。


「ブレンの記憶戻すための面談だったのに、私めちゃくちゃ喋ってた」

「そう?僕は楽しかったけど」


 フィリアが興味津々な目でブレンの話を聞いてくれた事が、彼にとっては楽しかったようだ。


「そっか。ねえ、知らない世界の話を聞くのって面白いね!」

「そう、なのかな?」


 水を止め、濡れた手を丁寧に拭き取る。洗い上がった食器も同じく水を拭き、食器棚に片付けてフィリアは自室に向かった。


「宿題してくるね」

「うん、わかった」

「あ、今日の夕飯は何?」


 ルドヴィクに教えられながら、最近ブレンはすっかりエイン家の主夫的ポジションになりつつある。一瞬だけ考える素振りをし、冷蔵庫の中身を思い出しながら答えを出した。


「お蕎麦、かな……」

「またかぁ」


 これで2日目、学校の給食以外で3食目の蕎麦だった。

 何と合わせて食べようかな…と考えながら、フィリアは自室に入る。

 今日はブレンのための面談だったが、アリエリアナとの会話はとても楽しかった。もっと、もっと聴きたい。聴いて欲しい。という気持ちが、身体の深いところから湧いてくるような感覚があった。


(でも何を?)


 漠然とした疑問が残ったが、それでも先ほどまでの時間を思い出すだけで、胸がドキドキと高鳴って、頬が少し熱を持ち紅潮した。








 アリエリアナとルドヴィクは家から軍本部内にある客室棟までの道を歩いていた。


「悪いわね、送らせてしまって」

「お前1人でフラフラ歩かせられるわけ無ぇだろ。夕飯食って行けば良かったのに」

「この後すぐ帰らなきゃいけないのよ」

「一人分消費できると思ったのに……」


 アリエリアナの少し前を歩くルドヴィクは、深くため息を吐く。


「どういう事?」

「ブレン今、蕎麦打ち職人なんだよ……」


 この間のクッキーのように、今度は蕎麦を量産中らしい。


「ヴィーカ、貴方うちの殿下をどうしたいの?」


 ハマり具合を考えると、微笑ましいを通り越して恐怖すら感じてしまう。


「ここまで一心不乱に作り続けるとか、誰が想像したよ」


 うちの小麦粉も蕎麦粉も底をついたよ、と溢しているルドヴィクの背中を見ていると、少し面白くてアリエリアナは笑ってしまった。


「殿下がお世話になっているし、また手土産として食材持って来ましょうか?」

「チョコレート、バター、チーズ、オリーブ、オリーブオイル、生ハム……」


 指を折りながら欲しい物を早口で羅列していく。


「え、多い多い。さすがに検疫引っかかるわよ、特に生ハム。っていうか、ラインナップが若干酒飲みじゃない?」


 荷物の中に紛れ込ませるより、正規の輸出ルートの方が良い。しかしアリエリアナは政治部の外交部門所属ではない。私的利用品として申請すれば私なら…などと考えていると、大きな手が頭を軽くポンポンと撫でた。


「半分くらい冗談で」


 半分は本気だ。


「ブレンの事、ほとんどフィリの質問に答えていただけに見えたが…」

「良いのよ。医者じゃないから正しいアプローチかわからないけど、フィリの好奇心に答えるブレンは、マヌエル殿下が持つ記憶が混ざっているように見えたわ。初めて会った時より、殿下の人格が戻って来ていると思う。元来、殿下は皇族の中でも穏やかで主張の少ない方だったから、今の状態とほぼ変わらないのよ。今よりほんの少し、堂々としていたくらいで」


 コツコツと、舗装された道に小走りなヒールの音が響く。その音に気付いたルドヴィクは、少し歩くスピードを緩めた。


「フィリと交流させるのは良い事のように思うわ。お互い、刺激になるでしょう?今日の2人のやり取りを見ていたら可愛かったし。仔犬が(じゃ)れ合っているみたいで」


 大層気に入ったようで、上機嫌だ。


「アリエラ、転ぶから歩くことに専念しろ」

「過保護か」


 折角の機嫌が害され、ムスッと頬を膨らませる。


「お前、身体のバランス悪い」

「前を歩いていて何でわかるのよ」

「歩く音。おかしい」

「何それ。ヴィーカたまに怖いわよ」


 他愛も無い話をしながら歩いていると、いつの間にかアリエリアナの客室の前に着いていた。

 礼を言い、室内に戻ろうとすると、そういえばとルドヴィクが口を開いた。


「お前、今日帰るって言ってたけど、無理だと思うぞ。」

「…………え?」





誤字修正   2026.4.26

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