表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/39

23.

 


 アリエリアナは持って来ていた端末でテオドリカ帝国現皇帝夫妻の画像をブレンに見せながら説明した。


「調子が悪くなったらいつでも言ってね。こちらが現皇帝陛下であらせられるバシレイオス皇帝陛下、で、こちらがエウラリア皇后陛下。貴方のお父様とお母様です。両陛下には5人の皇子と3人の皇女がいらっしゃいます。5番目の一番末の皇子が貴方なんだけれど、ここまでで何か質問などある?」

「ブレン、兄弟多いねぇ」

「本当だねぇ」


 兄弟の多さに目を丸くするフィリアに、わからないせいでまるで他人のような反応をするブレンは、仲良くアリエリアナの端末を覗き込んで話を聞いている。


「こーごーへーか?メイクすごいね」

「これは最上位の女性しかしちゃいけないメイクだよ」


 フィリアの疑問にブレンが答える。アリエリアナはそんな2人の会話を、観察するように注意深く聞いていた。


「帝国女性は階級が上の人ほど、家族や夫以外に素顔を見られてはいけないんだ。立場や場面によってメイクも変わってくるんだよ。普段は、もう少し目元とか落ち着いてるよ」

「そうなんだ?………だからアリエリアナ様もメイク濃いめなの?」

「え、あ、そうね。あんまり濃い濃い言われるのもねぇ…そうなんでしょうけど。」


 大昔からの文化で、遠くから見てもわかるよう、はっきりした顔立ちに見えるようにしたとか、そういう歴史があるらしい。皇后ともなると、誰からでもわかるよう、目尻に大きく紅を入れたり…と引き続き、ブレンはフィリアに教えていた。


(やっぱり。フィリに話す事によって、マヌエル殿下としての知識が少しずつ戻り始めてる。記憶の回復に直結するかはわからないけど……)


「そういえば、アリエリアナ様も側近のお姉さんもこーごーへーかも、みんな髪編んでて纏めてるけど、これも文化?」

「フィリアさん、皇后陛下ね……ブレンはわかる?」


 ブレンに話を振ったアリエリアナの後ろに、いつのまにかルドヴィクがリビングに戻って来ていた。アリエリアナは気付いていないが、正面に座っているフィリアとブレンは、「何してるんだろう」と思いつつ話を聞いている。


「あー…成人女性になると必須になるんですよね。人前で髪をおろすのは恥で……」


 ブレンが言いかけた瞬間、ルドヴィクはアリエリアナの纏めていた髪を一瞬で解いた。アリエリアナの長く波打つ髪がターバンのように背中に落ちる。それを見て、ブレンは信じられないものを見るような目をし、悲鳴をあげた。


「ぎゃーー!!?」

「いや、どのくらいビビるのか見てみたくて」

「パパ本当に何してるの」


 ルドヴィクの突然の悪戯に、フィリアも半眼で呆れている。


「ひいいいい!アリエリアナ様!頭隠して!!大丈夫ですか!?」


 ブレンは軽くパニックになっているが、当のアリエリアナの反応は薄かった。


「この人帝国人じゃないから平気よブレン、落ち着いて。中佐、」

「さーせんっしたー」

「パパ!!」

「ごめんって」


 フィリアに怒鳴られるが、両耳を塞いでキッチンに逃げて行く。


「もう、どうするのよこれ……こんな感じで人前で解くと、とんでもない事になっちゃうのよ。フィリアさんわかった?」

「うちの父が大変申し訳ございません」

「あの人のやる事だから気にしてはいないんだけど……」


 めんどくさいのよね、と溢しながら腰まである髪を一本の三つ編みにしていく。出来上がったそれをぐるりと簡単に纏めあげた。その仕草を、フィリアはどこかで知っている。“貴方もいつか、大きくなったらね”優しい声がふわりと耳を打った。


「フィリア?」

「え?」


 ブレンに肩を叩かれ、急にどこか遠い場所から引き戻された気がした。


「大丈夫?ぼんやりしてたから」

「え、あぁ、うん」


 フィリアの目の前に座るアリエリアナは、何事も無かったようにキッチンにいるルドヴィクにコーヒーを頼んでいる。


「ブレンがドン引くレベルで失礼な事らしいのに、あんまり気にしていないようで良かった……」

「本当にびっくりしたよ…基本的に大人の女性は、婚姻関係にある人しか触れちゃいけないから」

「やばいじゃん。うちのパパ、ど変態じゃん」


 冷や汗を出しながら、ヒソヒソと話す2人。


「あれ?じゃあ男の人は?さっきの…こーてーへーか?の画像、ゴテゴテの服とか変なかぶり物?以外普通のオッサンだったよ?」


 アリエリアナの笑顔が引き攣る。育った環境から知らない事とはいえ、仕えている君主を「オッサン」と言われてしまうと、さすがに複雑な気持ちになる。


「フィリア、皇帝陛下だよ。かぶり物って、王冠の事かな?歴代の君主しかかぶる事が許されない、最高権力の象徴だよ。ですよね?アリエリアナ様?」


 ブレンが慌てて訂正と補足をしてくれたが、フィリアにはあまりピンときていないらしい。


「連邦で言うところの、最高指導者が代々使ってきた物って感じかしら。世界に一つしかない階級章とか…そういう物があるのか知らないけれど」


 アリエリアナがフィリアにもわかりそうな喩えをしながらルドヴィクを見たが、「さあ?」とでも言うように両手を上げ肩をすくめる。


「ふうん?帝国の大人の男の人は、みんなゴテゴテなの?え!ブレンもこんな格好するの!?」

「しないよ!?こんなにラフな格好は初めてだけど、あんまり変わらないよ!?」


 エイン家に来てから、ブレンはほぼ毎日上下スエットやTシャツ・チノパンなどの楽な格好をしていた。


「さっきの画像だって、パフォーマンスみたいなものだよ…というか、男性には女性のような制約は無いよ」

「え、なんで?」

「なんでって……うーん…」


 マヌエルとしての知識もここまでが限界のようだ。悩んでしまったブレンから、コーヒーを両手で持ちながら手を温めていたアリエリアナが引き継いだ。


「帝国女性の社会進出が始まってからだいぶ経つけれど、社会は依然男性の舞台。外に出るためにこの制約が煩わしいなら、さっさと家庭に入って、面倒な化粧も三つ編みもやめれば良い、っていう考え方なのよ。社交以外、家の中から出なければ、どんな格好していても関係ないでしょう?平民……あぁ、連邦では社会的格差ってものが無いものね。えぇと、権力に関わらない市民って言ったらわかるかしら?そういう人達には関係無いんだけど」


 権威主義の男性社会で、女性が独りで生きていくのは難しい。


「連邦ではそういう事が無いのは、良い事かもしれないわね」


 良くも悪くも、フィリアがのびのびと生きれるなら、何でも良い。アリエリアナの中には、いつだってそれしか無い。


「ふぅん。じゃあ、アリエリアナ様はなんでそんな面倒な事してまで軍人してるの?」

「フィリ、閣下に失礼だろ」


 ルドヴィクが少し厳しめに声をかける。フィリアは、自分はあんなに失礼な事したくせに、と言いたそうな目でルドヴィクを見た。


「やっぱ自分の国が大事だからとか?」


 アリエリアナと同じ形の、別の色をした大きな目。興味だろうか、ギラギラと輝いて見える。無垢で純粋な疑問だ。他国の所属とはいえ、これから軍務に就く少女に対し軍人として、これは真摯に答えなければ失礼に(あたい)する。

 アリエリアナは少しだけ考え、口を開いた。


「私はね、とってもとーっても恵まれてるの」


 突然の自慢に、フィリアもブレンも「何を言ってるのだろう、この人」というような顔をした。


「私はすごーく恵まれているから、そう育ててくれた帝国を愛しているし、守らなきゃいけないの。国を守るっていうのは、私のような特権階級の人間だけではなく、明日の生活も困っている人を含めて全員ね」


 軍人でなくても、ブレンを含めた帝室や特権階級の人間の義務でもある。


「守れなかったら、敵に殺されてしまう。恵まれていて、(すべ)を持つ私には、女性である制約とかそんな些細な手間があっても、国を愛して、守る義務がある。やりたいとか、やりたく無いとか、そういう事ではないのよ。大切なもののために。国が違うとか関係無く、貴方のお父様もきっとそうでしょう?」


 連邦で生きていれば、軍務に就くのは息をするのと同じくらい当たり前の事。だからこそ、フィリアはどうしてルドヴィクが毎回命懸けで現場に出ているかなど考えた事も無かった。そのうちフィリアも、同じく命を懸けて海中に出るようになる。


(軍人以外の将来を選べる人って、そこまで考えてるんだ……)


 アリエリアナの腕の個人端末のアラームが小さく鳴った。


「あら、もう時間……2人ともありがとう。疲れたでしょう?今日はゆっくり休んでね」


 立ち上がり、リビングのソファに座っていたルドヴィクに向き直る。


「エイン中佐も、ご自宅を使わせていただいてありがとうございました」

「送っていく」

「あら、ありがと」


 ぶっきらぼうに言うルドヴィクにアリエリアナは微笑んだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ