21.
初めての合同会議は、1人の女の突拍子も無い提案で荒れに荒れていた。
司令官3人は会議場の中心で荒唐無稽だなんだと叫び、発言権の限られた各国の部下達はそれを見て引いているという状況。
「いやー…この間もそうだったけど、帝国軍閣下ヤベェ奴だな。ブレンの件でも一緒に仕事してるルディも大変だ…って、ルディ大丈夫か?」
冷や汗をかきながら司令官達のやり取りを見ていたダリウスは、隣のルドヴィクが頭を抱えながら座っている事に気付いた。
そりゃあ、頭も痛くなる。
実際、間違ってはいなかった。それまで捕獲という案は記録上行った事が無かったし、各国のスタンスも言われた通りだったからだ。だからアエリュシオンの司令官は困った顔をし、連邦の司令官は苦い顔をしている。
“三国合同のこのタイミングで”というのも、ぶっ飛んだ内容ではあるが、至極真っ当であった。
しかしアリエリアナは案を出したが、実際の研究は誰が?捕獲は誰がする?
「あの馬鹿、答え先走りすぎてそれまでのプロセスガン無視なんだよ…」
「ルディ?」
「あれ、内容まで何も考えてねぇよ。大雑把に枠だけ考えて、あとは現場に丸投げなんだろ。そんな状態で賛同なんて出来ねぇだろうな」
アリエリアナは生粋の帝国人だ。多少好奇心が強い方で異文化を食わず嫌いするわけではないが、生まれと育ちからかなり傲慢なところがある。自分の興味関心以外の些事は見えていない。
提案するから、あとは頑張ってね精神だ。
調整役とはこういう事なのか。こんなポジション用意した中将に踊らされている気がした。
ルドヴィクはため息を吐いた。
「それ、誰が捕まえると思ってんだよ」
室内に、特に周りが見えなくなっているアリエリアナに聞こえるよう、声を少し大きくする。隣のダリウスも上司も、目を丸くして凍りついた。
「ルドヴィク・エイン中佐、今は君が口を開いて良い場面では無い!慎みなさい!処分されたいのか!?」
「はっきり言った方が良いと思いますよ、司令官閣下。じゃないとわからない」
連邦軍司令官もルドヴィクの行動に目を疑った。質問時間でも無いのに発言を許してしまえば、部下を御せないと判断されてしまう。司令官として、それはあってはならない事だ。そんな連邦軍司令官の焦りを無視し、ルドヴィクは気にせず口を開く。
「君は一体何様だ…っ!」
「宜しいじゃないですか連邦軍司令官殿、彼の仕事をさせてあげましょう。エイン中佐、わたくしが発言を許可します」
「……どうも」
挑発的に笑うアリエリアナと目が合った。
腹が立つが、冷静を心掛けて発言した。
「帝国軍閣下のその案は、現場の人間を度外視している。倒すだけでも死人が出る事だってある。陸も空も同じだ」
もっと詰めて起案書作ってから出直して来いとまで言いたかったが、そこは飲み込む。
「見切り発車に付き合って死ぬなんて、誰だって御免だろ」
「そう!!そこで貴方のような優秀な戦闘員達が必要なのです、エイン中佐!」
掛かった!!
小さな生き物を両手で捕獲した時の、好奇心に満ちた子供のような表情。
(しまった…!)
「貴方の所属する小隊や部隊の戦績は把握済みです」
アリエリアナの癖を理解してるルドヴィクだからこそ、彼女の置いていた罠に掛かってしまった。
「……チッ」
「ちょっと、舌打ちしないでくれる?あとその顔!怖いからやめてちょうだい!」
機嫌も態度も悪く座り直したルドヴィクに指差しで指摘するアリエリアナ。思い通りに事が運んで、少し上機嫌だ。
「いくらわたくしが案を出しても、実際現場で動く皆さんの意見も必要ですもの。あぁ良かった、発言してくれる人がいて」
「やるなんて一言も言ってねぇだろ」
「やるわ、貴方は。だってそういう人間ですもの。中佐をはじめ、連邦の戦闘部隊の方々には期待しておりますわ」
有無を言わせなるつもりの無い目でルドヴィクを見る。
「まずは捕獲ができる装置の開発から始めましょう。物資の提供などは、すでに帝国軍部内では話をつけてあります。他にご意見は?」
勢いに圧倒され声も出ない。アエリュシオン軍司令官だけが両手を上げ、意見が無い旨を示した。
「では、この話はここまでで……あら、もうこんな時間!司令官の皆様、会議終了の時間ですわ。本日は有意義な時間をありがとうございました。わたくしは失礼致しますね!」
いつの間に現れたのか、側近のエイレーネーがアリエリアナの資料を片付け、荷物をまとめている。アリエリアナは席を立ち、ぽかんと惚けている帝国軍司令官の耳に口を近づけ、小さな声で「彼を処罰や叱責しないであげてくださいね。やるべき事をやっただけですから」と囁き、手をヒラヒラと振るアエリュシオン軍司令官に両手で手を振り返し会議場を出ていった。
規模が大きくなるからと今まで眠らせていた案を、なし崩しで実行に移す事ができそうだ。しかも手足達の確保まで。廊下を急ぎ足で歩くアリエリアナは上機嫌だった。
「おーほほほほほ!」
思わず高笑いが出てしまう。
あのまま誰もが我関せず状態で、連邦軍司令官とのやり取りが続いていたら強行するのは難しかったかもしれない。ルドヴィクが食いついてくれて助かった。
「いつでも丸め込めると思ったら大間違いよ、ルドヴィク・エイン!おほほほほ!!」
「うるさ…でも閣下、あのやり方どうかと思いますけど」
後ろを歩くファビオが心配そうにしている。何が?いう顔をすると、エイレーネーがファビオの補足をした。
「閣下のあの勢いで押し通せば、他国でも意見が通せると勘違いする帝国人が出てくるかもしれませんね」
「え!?何故!??」
「閣下が先陣切ってやってしまってんですもの」
「私そういうつもりでやったわけじゃ………あぁ!どうしよう!!」
立ち止まり、その場に崩れ落ちる上司を見つめ、側近達はため息を吐いた。
「今からカバーできるかしら……」
「現段階で印象最悪ですよね。とりあえずエイン中佐には謝罪した方が良いと思うんですけど」
「この私が!?何故!!?」
「何故て……閣下、そういうところダメ人間なんですよ」
心底理解できないという顔でファビオを見上げている。
「閣下。いくらあの男でも、あの場でダシに使われたら良い気はしません。むしろ腹が立ちます」
エイレーネーが膝をつき、諭すように丁寧に教える。アリエリアナはバツが悪そうに口を尖らせ立ち上がった。
「検討しておくわ!」




