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20.

 



 第一回目の三国合同会議が始まった。

 一回目という事で各国の顔合わせも兼ねており、連邦軍部内の一番大きな会議場を使った。正面に大きな画面があり、半円形の会議机が階段状になっている。半円の中央には連邦軍が、両端にはアエリュシオン軍と帝国軍が座っており、アリエリアナを含む三国の司令官は正面の画面を背にして並んで座っていた。


「アエリュシオン軍司令官殿、連邦軍司令官殿も、今日からよろしくお願いいたします」


 一番年下のアリエリアナから二国の代表に挨拶をし、自己紹介や握手などやり取りをしている。身長が平均2m前後のアエリュシオン人と並んでいるため、遠くから見ると大人が子供2人と話しているようにしか見えない。


「アエリュシオン人でっか…」


 普段見下ろすことはあっても、見上げた経験は子供の時以来無かったルドヴィクとダリウスは、初めて間近で見るアエリュシオン人の、男女ともに恵まれた体格を見て驚いていた。


「すげー。女でも連邦女の2倍の腕の太さ。腹筋はきっと蟹の裏」

「国立筋肉博物館」

「ちょっと君たちやめなさいね」


 普段見ない光景に素直に感動するあまり、賛美の言葉を口走る2人を、隣に座っていた上司はやんわりと止めた。


「肉体の美しさ誇ってるって聞きましたけど」

「褒め方がマニアックだよ」


 長い時間見惚れていたのか会議はすでに始まっており、話す方も聞く方も面倒な序盤の挨拶や本部設置の経緯も話し終わっていたようだ。ここまでは端末に配布されていた資料に全て載っている。作戦期間やシフトの回し方なども終わり、あとは会議を終了し各部門ごとに部屋に分かれ、ミーティングに移る予定だった。おかしな事を言い出す人間がいなければ。


「お待ちになってくださる?我が国から皆様にご提案がありますの」


 片手を上げ、大きな葡萄酒色の目をギラギラさせたアリエリアナがにこやかに立ち上がった。


「三国合同なんて滅多に無い機会ですから、この際各国の強みを生かした研究や作戦をしてみては、と思っております」

「というと?」


 連邦軍閣下がご丁寧に尋ねると、アリエリアナの笑みが深くなった。


「これまで長い年月をかけて敵と戦って来ましたが、敵を排除するということのみに重点を置いて、いまだ敵の実態がわかっておりません。多くの命を賭けてきてこれでは、あまりにも不毛です」


 不毛。命を賭けて戦ってきた者たちの前で、その言葉はあまりにも浅慮だ。議場は困惑と不快感でざわつき始めた。


「帝国軍司令官殿、その言い方は…」

「でも事実ですわ、連邦軍司令官殿。ではお聞きします。倒せば霧散するあの敵が何なのか、ご存じ?」


 三国が問題にしている敵は黒く3メートルほどの大きな体を持ち、空に現れれば空中を浮遊し、陸に現れれば歩行、海中に現れればイルカと同じくらいの速さで泳ぐ。が、特性はどの国でも共通している。致命傷を与えれば霧散するのだ。跡形も無く。


「そんな事はどうでも良いだろう。目の前の脅威は排除する。それ以外何がある?」

「大変連邦らしいご意見、感謝致しますわ!ですがわたくし、そんなイタチごっこもうウンザリですのよ。多くの兵士の死が我々人類の営みとなる前に、一歩でも前に進もうとは思いませんの?」


 挑発するような言い方だが、本人に全くその気は無い。が、言われている方としては良い気分では無い。連邦軍司令官はムッとした。


「では、ご高説をご披露くださっている帝国軍司令官殿の案を聞かせてもらおうか」

「捕獲です」

「荒唐無稽な事を簡単に言わないで頂きたい!」


 連邦軍司令官は机を叩き立ち上がる。何も言わずに話を聞いていたアエリュシオン軍司令官は目を丸くして楽しそうな顔ををした。


「まあまあ、連邦軍司令官殿。エリちゃんも喧嘩売りに来たわけじゃ無いでしょうし。話聞きましょうよ」

「エリちゃんて…」

「そう、エリちゃん。我々3人だけの席ではなく、敢えて全員出席の会議中に不意打ちのように提案したんだから、何か意図があるんでしょうよ。ね?エリちゃん」


 にっこり微笑むアエリュシオン軍司令官に促され、連邦軍司令官は渋々席に座る。一旦黙っていたアリエリアナは、また口を開いた。


「わたくしも簡単に考えているわけではありません。先程も言った通り、どの国も関係無く多くの死者を出しています。だからこそ、サンプルを捕獲し霧散させずに、致命傷にならない程度に掻っ捌いたりちょっとずつ小さくしてみたり投薬したり……とにかく色々!」


 きっと楽しい!と言いたげな表情で話に熱が入っていくのと反比例して、周り…特にアエリュシオン軍人達が引いていってる。

 イカれている。


「エリちゃん、神の被造物に対して罰当たりじゃない?」

「人間だって神の被造物ですわ。」


 神の被造物であろうと、敵は敵だ。今までだって倒してきた。今更何をしたって罰当たりも何もない。


「アレは物体です。どこの国も、研究してこなかったでしょう?アエリュシオンは神は共存するもので解くものではない。連邦は興味が無い。でも帝国は違う。アレが現れる前から、神学は研究対象だった。神がアレを生み出したなら、神学の延長です。研究すれば、何かわかれば、根絶やすことができるかもしれない」

「帝国は神の神秘を暴くのか?」

「ええ、そうです!我々の子供達、そしてその子孫が大切な人を失わないため。我々と同じ悲しい思いをさせないため。その必要があるなら、神の被造物の腹を暴くことも厭いません!」


 胸に手を当て、答える。

 いつのまにか、自信に満ちた笑顔は消えていた。


「それ、誰が捕まえると思ってんだよ」




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