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19.

 


 何かあったのか、ルドヴィクに「外に出られる機会が少なくなるかもしれない」と告げられたブレンが、ストレス発散のように大量生産し始めたクッキーたち。家だけで消費するのはとても難しいため、フィリアは学校の午前休憩用の軽食として持ってきていた。しかし家でも暇さえあれば食べているからか、どうしても減らない。そこで、ブレンに対してあまり抵抗が無いモイラに消費を手伝ってもらっていた。


「あ、少佐が昨日持って帰ってきたやつ」

「パパも職場で()いてるんだ…」


 ルドヴィクもそろそろ飽きてきたらしく、今朝は出勤前にリビングで料理のレシピを検索していた。きっと甘いものからの解放は近い。

 もはや作業のようにクッキーを食す2人のところへ、イングリズがやって来た。


「ねえフィリ、モイラ聞いて」


 少し楽しそうなイングリズの顔。この表情どこかで…


「イングリズもクッキー食べる?」

「手作りだね?誰の?」

「うちにいるブレン」

「あー、帝国の…まあ良いや。いただきまーす」


 きっとシオラとニーヴなら手をつけなかっただろう。2人とも少し人見知りのところがあるのか、それとも本物の帝国人相手だからなのか、ブレンにあまり良い感情を持っていない。“アリエリアナ様(雑誌の中のアイドル)”には憧れを抱いているのに。

 矛盾だ。難しい。


「それで、どうしたの?」


 何か用があって2人のところに来たはずだ。モイラが本題を尋ねると、イングリズはまた楽しそうな顔をし、声を落とし話し始める。


「それがね、うちの親税関勤務でしょ?」

「お、お〜う…それ外でべらべら喋って良いやつ…?」


 出た、イングリズの聞いちゃいけない系怖い話。モイラも苦笑している。


「だから小声で喋ってるんでしょ?何だかね、帝国軍人とアエリュシオン軍人がたくさん来るんだって!」


 アリエリアナが頻繁に来ることになると言っていたが、アエリュシオンも?


「すごく忙しくなるって。何かあるのかな?」

「うーん…でも、私たち訓練生には、きっと話入ってこないと思うなぁ…」


 モイラはいつでも控えめに話を流す。あまり突っ込んだ情報をもらっても困るだけだからだ。


「絶対ぜーったい、家の人に言わないでね!」

「イングリズはこんなに喋ってるのに…」


 こんなに元気に爆弾設置してくのに。







「10年ぶりか。久しぶりだね、アリエリアナお嬢様。今は帝国軍閣下とお呼びした方がよろしいか?」

「お久しぶりですわ、連邦軍中将閣下。その節はどうも」


 他国と連邦を繋ぐ高速船を降り、国境ゲートに足を踏み入れるアリエリアナの前に現れたのは、15年前のルドヴィクの助命と、10年前フィリアを連邦に連れてきた際に手伝ってもらった老齢の軍人だ。


(仕方無く手伝ってもらったけど、人を食ったような感じがして好きじゃない)

「今日はどういったご用件で?中将閣下」

「なに、私はたまの視察にね。明日には他の帝国人やアエリュシオン人がここへ来る予定だからね。迎える側に粗相があってはいけないだろう」

「まあ!ご自分の足で忙しく見て回られるだなんて、中将閣下は仕事熱心ですのね!」


 徘徊老人か、大人しく巣に戻れ。

 にこやかに接しているがピリピリとした雰囲気に、両者の側近たちは冷や汗をかいている。


「この度の三国合同の件、中将閣下もご参加を?」

「そういうことは若い者たちが回せば良い。我々老人は様子を見守るのが仕事だからな」

(なら、さっさと引退してしまえ)

「しかし主導権を他国に渡すつもりはない。その辺の調整だけはさせてもらった」

「まあ怖い」


 参加しないと言っているのに?


「では帝国軍閣下、良い滞在を」

「ご機嫌よう、連邦軍中将閣下」


 笑顔の仮面を被り、その場を後にする。

 やっぱりあのジジイのせいじゃないかと、心の中で毒づきながら。





「食え」

「何事?食ハラ?」


 アリエリアナが連邦軍からあてがわれた要人用の客室に入り荷物を整理していると、ルドヴィクが両手に収まるくらいの袋を持ってやって来た。

 他の側近たちも自身の荷物を整理しに行っているため、室内には2人きりだ。


「ブレンがクッキーを大量に作ってて消費が追いつかない。お前らも食え」

「………1枚は家宝として取っておかなきゃ」

「宗教かよ」


 側近たちの部屋は男女別で計2部屋だ。アリエリアナはクッキーを皿に分け、側近たちに持って行った。


「ヴィーカ、貴方も何か飲む?クッキーと…」

「クッキーはもういい」


 一体どれだけ食べたのか。間髪入れずに拒否する姿を見て、アリエリアナは思わず笑ってしまった。


「じゃあ私の休憩に付き合って」


 帝国から持って来た茶葉にお湯を注ぐ。ふわりと花の香りがした。


「この匂い…」

「覚えてるの?」


 昔、お茶の時間によく出していたものだ。好きな味と香りで、普段からよく飲んでいる。客室に備え付けられている無機質なティーカップに注いで、ルドヴィクに持って行った。


「明日から忙しくなるわね」

「そうだな」


 今日は言葉が少ない。本当はお互い、たくさん話したいことがある。最近のブレンの事、フィリアの今までの話、離れてから今日までの事…でも今はこのままで良い。この仕事が終われば、また次は何年後に会えるかわからない。こうして、同じ場所で同じ時間を過ごせるだけで、幸せなのだ。





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