18.
三国合同本部の人員の資料が配布された。
仕事場で内容を確認していたアリエリアナは、軟体動物のように大きな仕事机に崩れた。
「えっ、タコみたい!気持ち悪っ」
一部始終を見ていたファビオが思わず口に出してしまう。
「ファビオ…貴方少し口が過ぎますよ」
ファビオを叱りながら、アリエリアナに紅茶を出すエイレーネーは、上司の持ってる資料の中に、先日の上級軍人の名前があるのを見て苦い顔をした。
「これは……」
「他にも地雷になり得る人間がいないかチェックしなきゃ。少し教育…というか、勉強期間がないと、まずいわよ」
何しろストッパーはアリエリアナだけだ。
お坊っちゃまお嬢様育ちの帝国軍人が旅行のように行って良い場所ではない。異文化への配慮や理解が必要だ。アエリュシオンはノリで何とかなりそうだが、連邦は厳しい。下手をすれば困った事になる。自分だってどこまで徹底できるかわからない。
「これ、全力で足引っ張りに来てるでしょ……」
他の国の名簿をスイと捲っていくと、1番見たくない名前が目に留まった。
「嫌だーーーーー!!!行かない!私行かない!!行きたくないーーー!!!」
勢い余って椅子から落ち、床に腰を打ちつける。痛そうな音がしたが、痛さよりも見てしまったもののショックが大きかったのか、机の下に隠れてしまった。
「反応が心霊写真見た人のそれでしょう…今度は何があったんですか?」
気になったのか、エイレーネーもファビオも書類の端末を覗き込む。
「あ、ルドヴィク・エイン」
「エイン中佐って、殿下を保護してもらってる…あの絶対非があっても、意地でも謝らない閣下から息をするように謝罪の言葉を引き出した挙句、頭も下げさせた人!」
ファビオは伝説の人!のような言い方をする。
エイレーネーも少し困った顔をしていた。
「わざとでは無いと思いますよ。一応、対帝国人を考えた人選と思えば、彼は妥当です」
「そうかもしれないけど!たまったものじゃないわ!!あの人絶対、仕事する上で合わない!!断言するわ!!」
「だからと言って、連邦の人選にこちらが異議を申せません」
宥めるように言いながら、腰を打って立てないアリエリアナをエイレーネーが椅子へ引き上げる。
「何なのよもう、次から次へと問題ばかり」
「え、でも閣下、エイン中佐と話してる時すごく楽しそうでしたよね?」
「う〜ん、ファビオ。その目玉取り出してスーパーボールにしちゃおうかしら」
「閣下最低!」
「俺、飼育員かなんかと勘違いされてます?」
ルドヴィクが所属する戦闘部隊の上司の部屋に呼び出されたルドヴィクとダリウスは、三国合同本部への出向の話を聞かされたばかりだった。
ダリウスは管制システム、ルドヴィクは
「何すか。この調整役って」
初めて見る役職…というより役回りが表記されている。
「指示役ばかりだから、実働する現場を知っている調整役がいた方が良いんじゃないかってね。他の国にも似たような人達がいるよ」
上司は優しく説明するが、こんな指示を出しそうな奴は1人しかいない。
「あのジジイか」
「エイン中佐、言葉慎もうね」
三国、ということは、アエリュシオンに関しては未知数だが、帝国が絡んでくる。帝国人は正直、文化的に連邦人とあまり合わない。
絶対面倒なやつ。
ルドヴィクは頭を抱えた。隣に立っているダリウスは笑いを堪えてプルプル震えている。
「きっと漂流者の事もあってなのかな?アリエリアナ閣下が帝国の代表で…」
帝国の代表?アリエラが?おいおい帝国は一体何考えてんだよ。三国仲良く共倒れだろそんなの。
思わず耳を疑ってしまった。
「……もう、何が起きても知りませんよ」
それはそうだ。階級が下の者は、黙って従うしかない。
黙って…………黙っていても上手く進めば良いが。
「キーアンとステンは?この仕事中、俺たちの小隊バラしたら出撃できないじゃないですか?」
ダリウスの質問に、上司は端末を見ながら、あぁと答えた。
「2人とも優秀な操縦士とオペレーターだから、出撃命令の無い時は、別部署に出向だよ」
「俺もそっち行きたいんすけど」
「エイン中佐はダメでしょ」
わかるけど〜と言いたげに、上司は困った顔をした。




