一番光る魚を、親には選びませんでした。
祭りから戻って。
また。
いつもの毎日が始まった。
朝。
餌をやる。
水を見る。
一匹ずつ見る。
仕事へ行く。
帰ってきたら。
また見る。
そんな日を繰り返して。
三週間が過ぎた。
◇
「大きくなったね」
ミアが容器を覗き込んでいる。
「ああ」
「こんな小さかったのに」
指で大きさを作る。
「それじゃ小さすぎる」
「これくらい?」
「もうちょい」
「これ?」
「それくらい」
「覚えてるの?」
「大体」
「全部?」
「大体」
「百匹いたのに?」
「…………大体」
「怪しい」
「うるさい」
クロとシロから生まれた子供たち。
F1。
最初は。
どれも同じに見えた。
今は違う。
大きい。
小さい。
黒い。
薄い。
光がある。
ない。
泳ぎ方まで。
一匹ずつ違ってきた。
「そろそろだな」
「何が?」
カイトは網を手に取った。
「親を選ぶ」
ミアの目が輝いた。
「ついに!」
「なんでお前がそんなに嬉しいんだ」
「だって次の子供作るんでしょ?」
「そうだけど」
「じゃあ一番光ってる子!」
即答だった。
「まだ何も見てないだろ」
「見てるよ!」
ミアが一匹を指差す。
「あの子!」
確かに。
目立っていた。
◇
黒い体。
背中には。
クロよりはっきりした光。
泳ぐたび。
青白い光が揺れる。
「すごいでしょ!」
「ああ」
「決まりじゃん!」
「まだ」
「なんで?」
カイトはその個体を掬う。
横から見る。
上から見る。
泳がせる。
そして。
《選別眼》。
《ミナ》
世代:F1
性別:♂
状態:良好
黒色素:強
体型:やや細身
特性:微弱魔光・強
希少度:D
「D!」
ミアが覗き込む。
「すごい!」
「そうだな」
「じゃあこの子!」
「まだ」
「また?」
カイトは元の容器へ戻した。
「次」
「えー」
一匹。
また一匹。
掬っていく。
◇
セレナも来ていた。
少し離れたところから。
黙って見ている。
「何を基準に選んでいるのですか?」
「色々です」
「色々では分かりません」
「ですよね」
一匹を掬う。
「まず体型」
次。
「泳ぎ方」
次。
「大きさ」
次。
「もちろん光も見る」
「光だけではない?」
「はい」
「なぜです?」
「次の世代で、光だけ残ればいいわけじゃないからです」
ミアが首を傾げる。
「光るメダカ作ってるんじゃないの?」
「作りたいよ」
「じゃあ光が一番強い子でいいじゃん」
「それだけならな」
カイトは一匹を見せる。
「例えば、すごく光る。でも体型が崩れてる」
「うん」
「別の一匹は、光は少し弱い。でも体型がいい。元気に泳ぐ。大きさもある」
「うん」
「どっちを親にする?」
「…………」
ミアが悩む。
「光る方?」
「それも間違いじゃない」
「じゃあ正解は?」
「まだ分からない」
「え?」
ミアがカイトを見る。
「選んで、子供を取ってみないと分からないよ」
「選別眼でも?」
「分からない」
カイトは答えた。
「こいつがどんな魚かは見える。でも、こいつからどんな子供が生まれるかまでは見えない」
「便利なのか不便なのか分かんないね」
「俺も最近そう思う」
セレナが小さく笑った。
◇
「じゃあ」
ミアが聞く。
「一番いいメダカって何?」
「難しい質問するな」
「だって親を選ぶんでしょ?」
「ああ」
「一番いいのを選ぶんじゃないの?」
「…………」
カイトは容器を見る。
百匹近くいた子供たち。
全部。
クロとシロの子供だ。
「一番いい魚を選ぶんじゃない」
「じゃあ何?」
「今、自分が作りたいメダカに近づけそうな魚を選ぶ」
「同じじゃないの?」
「違う」
黒さを残したい。
光も強くしたい。
体型も崩したくない。
元気に育ってほしい。
全部。
一匹で揃っているとは限らない。
「だから迷うんだよ」
「へえ」
ミアは。
少し楽しそうだった。
「カイトでも迷うんだ」
「迷うよ」
「選別眼あるのに?」
「あるから余計迷う時もある」
「それ、ちょっと面白い」
「こっちは真剣なんだけど」
◇
さらに。
何匹も見た。
そして。
カイトの手が止まる。
「…………」
「いた?」
「候補」
網の中にいるのは。
さっきの一番光る個体ではなかった。
黒い。
体型も悪くない。
光は。
ある。
でも。
一番ではない。
《選別眼》。
《ミナ》
世代:F1
性別:♂
状態:極めて良好
黒色素:強
体型:良好
成長:良好
特性:微弱魔光
潜在特性:???
希少度:E
「E?」
ミアが言った。
「さっきの子、Dだったよ?」
「ああ」
「こっちの方が下じゃん」
「表示ではな」
「なのにこっち?」
「候補だけどな」
「なんで?」
カイトは魚を見る。
泳がせる。
止まる。
また泳ぐ。
尾鰭。
背中。
体の線。
もう一度見る。
「こっちの方が好きだから」
「え?」
「今の俺なら、こっちを残したい」
「それだけ?」
「それだけじゃないけど」
「選別眼は?」
「参考」
「希少度は?」
「参考」
「じゃあ最後は?」
カイトは少し考えた。
「俺が決める」
ミアが笑った。
「なんだ。普通じゃん」
「普通だよ」
◇
次は。
メス。
一匹。
二匹。
三匹。
何度も網を入れる。
途中。
「これ!」
ミアが一匹を指差した。
「この子いい!」
「どこが?」
「なんか丸くてかわいい」
「親選びだぞ」
「ダメ?」
「ダメとは言ってない」
掬う。
《ミナ》
世代:F1
性別:♀
状態:良好
黒色素:中
体型:良好
成長:良好
特性:微弱魔光
希少度:E
「…………」
「どう?」
「候補」
「やった!」
「なんでお前が喜ぶんだ」
「私が見つけた!」
「たまたまだろ」
「カイトもさっき、なんとなくでガルド当てたじゃん」
「…………」
言われた。
「普通が一番いいこともある、でしょ?」
「よく覚えてるな」
「私、頭いいから」
「それはどうだろう」
「ひどい!」
セレナが笑っている。
◇
夕方。
候補は。
オス三匹。
メス四匹。
そこまで絞った。
「今日決めないの?」
ミアが聞く。
「決めない」
「なんで?」
「明日もう一回見る」
「今日ずっと見たじゃん」
「だからだよ」
「?」
「見すぎると分からなくなる時もある」
カイトは網を洗う。
「一回離れて、明日また見る」
「ふーん」
「親を選んだら、戻せないこともあるからな」
「そんなに大事なんだ」
「ああ」
次の世代。
F2。
そこから。
また選ぶ。
その次も。
また。
何世代も。
繰り返す。
まだ。
始まったばかりだ。
◇
ミアが帰ったあと。
カイトは一人。
もう一度だけ容器を覗いた。
一番光っている個体が泳いでいる。
やっぱり。
綺麗だった。
「お前もいいんだけどな」
もちろん。
親に選ばないからといって。
価値がなくなるわけじゃない。
ただ。
今作りたいものとは。
少し違う。
隣では。
今日選んだ候補たちが泳いでいる。
正解かどうかは。
まだ分からない。
《選別眼》にも。
カイトにも。
分からない。
分かるのは。
次に生まれてくる魚たちを見た時だ。
「……頼むぞ」
小さな魚が。
水の中で。
静かに尾を振った。




