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18/19

一番光る魚を、親には選びませんでした。

祭りから戻って。


 また。


 いつもの毎日が始まった。


 朝。


 餌をやる。


 水を見る。


 一匹ずつ見る。


 仕事へ行く。


 帰ってきたら。


 また見る。


 そんな日を繰り返して。


 三週間が過ぎた。


◇


「大きくなったね」


 ミアが容器を覗き込んでいる。


「ああ」


「こんな小さかったのに」


 指で大きさを作る。


「それじゃ小さすぎる」


「これくらい?」


「もうちょい」


「これ?」


「それくらい」


「覚えてるの?」


「大体」


「全部?」


「大体」


「百匹いたのに?」


「…………大体」


「怪しい」


「うるさい」


 クロとシロから生まれた子供たち。


 F1。


 最初は。


 どれも同じに見えた。


 今は違う。


 大きい。


 小さい。


 黒い。


 薄い。


 光がある。


 ない。


 泳ぎ方まで。


 一匹ずつ違ってきた。


「そろそろだな」


「何が?」


 カイトは網を手に取った。


「親を選ぶ」


 ミアの目が輝いた。


「ついに!」


「なんでお前がそんなに嬉しいんだ」


「だって次の子供作るんでしょ?」


「そうだけど」


「じゃあ一番光ってる子!」


 即答だった。


「まだ何も見てないだろ」


「見てるよ!」


 ミアが一匹を指差す。


「あの子!」


 確かに。


 目立っていた。


◇


 黒い体。


 背中には。


 クロよりはっきりした光。


 泳ぐたび。


 青白い光が揺れる。


「すごいでしょ!」


「ああ」


「決まりじゃん!」


「まだ」


「なんで?」


 カイトはその個体を掬う。


 横から見る。


 上から見る。


 泳がせる。


 そして。


 《選別眼》。


《ミナ》


世代:F1


性別:♂


状態:良好


黒色素:強


体型:やや細身


特性:微弱魔光・強


希少度:D


「D!」


 ミアが覗き込む。


「すごい!」


「そうだな」


「じゃあこの子!」


「まだ」


「また?」


 カイトは元の容器へ戻した。


「次」


「えー」


 一匹。


 また一匹。


 掬っていく。


◇


 セレナも来ていた。


 少し離れたところから。


 黙って見ている。


「何を基準に選んでいるのですか?」


「色々です」


「色々では分かりません」


「ですよね」


 一匹を掬う。


「まず体型」


 次。


「泳ぎ方」


 次。


「大きさ」


 次。


「もちろん光も見る」


「光だけではない?」


「はい」


「なぜです?」


「次の世代で、光だけ残ればいいわけじゃないからです」


 ミアが首を傾げる。


「光るメダカ作ってるんじゃないの?」


「作りたいよ」


「じゃあ光が一番強い子でいいじゃん」


「それだけならな」


 カイトは一匹を見せる。


「例えば、すごく光る。でも体型が崩れてる」


「うん」


「別の一匹は、光は少し弱い。でも体型がいい。元気に泳ぐ。大きさもある」


「うん」


「どっちを親にする?」


「…………」


 ミアが悩む。


「光る方?」


「それも間違いじゃない」


「じゃあ正解は?」


「まだ分からない」


「え?」


 ミアがカイトを見る。


「選んで、子供を取ってみないと分からないよ」


「選別眼でも?」


「分からない」


 カイトは答えた。


「こいつがどんな魚かは見える。でも、こいつからどんな子供が生まれるかまでは見えない」


「便利なのか不便なのか分かんないね」


「俺も最近そう思う」


 セレナが小さく笑った。


◇


「じゃあ」


 ミアが聞く。


「一番いいメダカって何?」


「難しい質問するな」


「だって親を選ぶんでしょ?」


「ああ」


「一番いいのを選ぶんじゃないの?」


「…………」


 カイトは容器を見る。


 百匹近くいた子供たち。


 全部。


 クロとシロの子供だ。


「一番いい魚を選ぶんじゃない」


「じゃあ何?」


「今、自分が作りたいメダカに近づけそうな魚を選ぶ」


「同じじゃないの?」


「違う」


 黒さを残したい。


 光も強くしたい。


 体型も崩したくない。


 元気に育ってほしい。


 全部。


 一匹で揃っているとは限らない。


「だから迷うんだよ」


「へえ」


 ミアは。


 少し楽しそうだった。


「カイトでも迷うんだ」


「迷うよ」


「選別眼あるのに?」


「あるから余計迷う時もある」


「それ、ちょっと面白い」


「こっちは真剣なんだけど」


◇


 さらに。


 何匹も見た。


 そして。


 カイトの手が止まる。


「…………」


「いた?」


「候補」


 網の中にいるのは。


 さっきの一番光る個体ではなかった。


 黒い。


 体型も悪くない。


 光は。


 ある。


 でも。


 一番ではない。


 《選別眼》。


《ミナ》


世代:F1


性別:♂


状態:極めて良好


黒色素:強


体型:良好


成長:良好


特性:微弱魔光


潜在特性:???


希少度:E


「E?」


 ミアが言った。


「さっきの子、Dだったよ?」


「ああ」


「こっちの方が下じゃん」


「表示ではな」


「なのにこっち?」


「候補だけどな」


「なんで?」


 カイトは魚を見る。


 泳がせる。


 止まる。


 また泳ぐ。


 尾鰭。


 背中。


 体の線。


 もう一度見る。


「こっちの方が好きだから」


「え?」


「今の俺なら、こっちを残したい」


「それだけ?」


「それだけじゃないけど」


「選別眼は?」


「参考」


「希少度は?」


「参考」


「じゃあ最後は?」


 カイトは少し考えた。


「俺が決める」


 ミアが笑った。


「なんだ。普通じゃん」


「普通だよ」


◇


 次は。


 メス。


 一匹。


 二匹。


 三匹。


 何度も網を入れる。


 途中。


「これ!」


 ミアが一匹を指差した。


「この子いい!」


「どこが?」


「なんか丸くてかわいい」


「親選びだぞ」


「ダメ?」


「ダメとは言ってない」


 掬う。


《ミナ》


世代:F1


性別:♀


状態:良好


黒色素:中


体型:良好


成長:良好


特性:微弱魔光


希少度:E


「…………」


「どう?」


「候補」


「やった!」


「なんでお前が喜ぶんだ」


「私が見つけた!」


「たまたまだろ」


「カイトもさっき、なんとなくでガルド当てたじゃん」


「…………」


 言われた。


「普通が一番いいこともある、でしょ?」


「よく覚えてるな」


「私、頭いいから」


「それはどうだろう」


「ひどい!」


 セレナが笑っている。


◇


 夕方。


 候補は。


 オス三匹。


 メス四匹。


 そこまで絞った。


「今日決めないの?」


 ミアが聞く。


「決めない」


「なんで?」


「明日もう一回見る」


「今日ずっと見たじゃん」


「だからだよ」


「?」


「見すぎると分からなくなる時もある」


 カイトは網を洗う。


「一回離れて、明日また見る」


「ふーん」


「親を選んだら、戻せないこともあるからな」


「そんなに大事なんだ」


「ああ」


 次の世代。


 F2。


 そこから。


 また選ぶ。


 その次も。


 また。


 何世代も。


 繰り返す。


 まだ。


 始まったばかりだ。


◇


 ミアが帰ったあと。


 カイトは一人。


 もう一度だけ容器を覗いた。


 一番光っている個体が泳いでいる。


 やっぱり。


 綺麗だった。


「お前もいいんだけどな」


 もちろん。


 親に選ばないからといって。


 価値がなくなるわけじゃない。


 ただ。


 今作りたいものとは。


 少し違う。


 隣では。


 今日選んだ候補たちが泳いでいる。


 正解かどうかは。


 まだ分からない。


 《選別眼》にも。


 カイトにも。


 分からない。


 分かるのは。


 次に生まれてくる魚たちを見た時だ。


「……頼むぞ」


 小さな魚が。


 水の中で。


 静かに尾を振った。

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