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13/19

同じ日に生まれたのに、同じには育ちませんでした。

同じ日に生まれた。


 同じ親から生まれた。


 同じ水で育てた。


 同じ餌を食べている。


 だったら。


 同じように育つ。


 ――わけではない。


「こいつ、小さいな」


 カイトは容器を覗き込んでいた。


 クロとシロから生まれたF1。


 百匹近くいた稚魚たちは、少しずつメダカらしい姿になってきている。


 その中に。


 一回り小さな個体がいた。


「この子?」


 ミアが指差す。


「ああ」


「病気?」


「分からん」


「選別眼は?」


「今見る」


 カイトは目を細める。


《ミナ》


世代:F1

父:クロ

母:シロ

性別:未判定

状態:良好


成長:やや遅い

特徴:未発現

特性:なし


「病気じゃなさそうだ」


「じゃあなんで小さいの?」


「それが分かったら苦労しない」


「同じ日に生まれたんでしょ?」


「ああ」


「同じお父さんとお母さん?」


「ああ」


「じゃあ同じじゃないの?」


「違う」


「なんで?」


「兄弟だって全員同じじゃないだろ」


「…………」


 ミアが考える。


「私、一人っ子」


「例えが悪かった」


 カイトはもう一度、容器を見る。


 大きいやつ。


 小さいやつ。


 黒っぽいやつ。


 薄いやつ。


 よく餌を食べるやつ。


 人影を見ると逃げるやつ。


 同じクロとシロの子供でも。


 もう違いが出始めている。


「だから面白いんだよ」


「小さい方が?」


「違いが」


 カイトは笑った。


「全部同じだったら、選別なんて必要ないからな」


「選別」


「覚えてた?」


「百匹いたら百匹見るやつ」


「まあ、大体合ってる」


 ミアが得意そうな顔をした。


◇


「興味深いですね」


「うわっ!」


 突然後ろから声がして、ミアが飛び上がった。


「いつ来たの!?」


「少し前です」


 セレナだった。


「声かけてくださいよ」


「かけました」


「聞こえなかった」


「二人とも魚しか見ていませんでしたから」


「…………」


 否定できない。


 セレナは容器の前にしゃがむ。


「これが以前話していたF1ですか?」


「そうです」


「F1?」


 セレナが聞き返す。


「ああ」


 カイトは一瞬迷った。


「最初の子供の世代って意味です」


「最初の子供……」


「クロとシロを親として考えると、こいつらがF1」


「では、この個体同士から次の世代が生まれれば?」


「F2」


「なるほど」


 セレナが小さな手帳に何かを書く。


「書くほどのこと?」


「知らない知識は記録します」


「真面目だなあ」


「あなたが適当なのです」


「失礼な」


 セレナは無視して魚を見る。


「確かに成長差がありますね」


「でしょう」


「環境は?」


「ほぼ同じ」


「餌は?」


「同じ」


「水は?」


「同じ」


「では」


 セレナが緑色の桶を見る。


「実験しましょう」


「実験?」


「はい」


 嫌な予感がした。


「このF1を二群に分けます」


 セレナが指を二本立てる。


「一方は通常の水」


「はい」


「もう一方は、ミアの魔法で作った水」


「はい」


「同じ餌、同じ容器、同じ数、同じ日照条件にする」


 カイトは少し驚いた。


「ちゃんと比較するんですね」


「当然です」


「魔法でバーンって調べるのかと思ってた」


「研究を何だと思っているのですか」


「すみません」


「そして成長速度、生存数、体色、魔力反応を記録します」


「なるほど」


「それから――」


 セレナが一匹を指差した。


「この個体を解剖します」


「ダメです」


 即答だった。


「…………」


「…………」


 セレナがカイトを見る。


「まだ説明の途中です」


「聞いてもダメです」


「内部の魔力器官を確認するためです」


「ダメ」


「一匹です」


「数の問題じゃない」


「では、死亡した個体を――」


「自然に死んだ個体なら考えます」


 セレナが黙った。


 ミアも黙っている。


「研究には必要です」


 セレナが言った。


「分かります」


「では」


「でも」


 カイトは魚を見る。


「俺は研究するために、こいつらを育ててるわけじゃない」


「…………」


「いいメダカを作りたい」


「同じことでは?」


「違います」


 セレナの眉がわずかに動く。


「何が違うのです?」


 カイトは少し考えた。


 うまく説明できない。


 前の世界でも。


 選別する。


 親を選ぶ。


 狙った表現を残す。


 全ての個体を親にはしない。


 綺麗事だけでは品種改良はできない。


 それでも。


「生きてるやつを」


 カイトは言った。


「答えを知るためだけに殺したくない」


「感情論ですね」


「そうですね」


 セレナは少し驚いた顔をした。


「否定しないのですか?」


「しませんよ」


「…………」


「飼ってるんで」


 それだけだった。


◇


 しばらく。


 誰も話さなかった。


「じゃあ」


 ミアが手を上げた。


「殺さないで調べればいいじゃん」


「それができないから――」


 セレナが言いかけて止まる。


「…………」


「何?」


「いえ」


 セレナが魚を見る。


「その方法を考えるのも、研究ですね」


「そうだよ」


 ミアが得意そうに言う。


「セレナ、研究者なんでしょ?」


「…………」


「頑張って」


「なぜあなたに励まされているのでしょう」


「知らない」


 カイトが吹き出した。


「笑わないでください」


「すみません」


 でも。


 セレナも少しだけ笑っていた。


◇


 実験はすることになった。


 ただし。


 魚は殺さない。


 二つの同じ容器を用意する。


 一つは普通の水。


 もう一つは。


「いくよ」


 ミアが手をかざす。


「《汚――》」


 途中で止まった。


「どうした?」


「…………」


 ミアがカイトを見る。


「もう《汚水》って呼ばなくていいんだよね?」


「好きにしたら?」


「じゃあ」


 少し考える。


「…………まだ名前なし」


「魔法ってそれで発動できるの?」


「分かんない」


「試すなよ」


「大丈夫!」


「何を根拠に」


 ミアが手をかざす。


 淡い光。


 そして。


 透明だった水が。


 ゆっくりと緑色に変わっていく。


「できた!」


「できるんだ……」


 セレナは無言で手帳に書いている。


「何書いたの?」


「術式名を唱えなくても発動可能」


「私すごい?」


「まだ分かりません」


「ケチ」


 二つの容器に。


 同じくらいの大きさのF1を分ける。


「何匹?」


「まず十匹ずつ」


「少なくない?」


「だからこそ、これだけで結論を出さない」


 カイトが答える。


「一回うまくいったからって、それが正解とは限らないからな」


 セレナが手帳に書く。


「それも記録するの?」


「はい」


「恥ずかしいからやめて」


「嫌です」


◇


 七日後。


「…………」


「…………」


「…………」


 三人で容器を見ていた。


「違うね」


 最初に言ったのはミアだった。


「ああ」


 普通の水。


 十匹。


 緑色の水。


 十匹。


 どちらも元気だ。


 だが。


「こっちの方が」


 ミアが緑色の容器を見る。


「ちょっと大きい」


「そう見えるな」


「測定します」


 セレナが一匹ずつ記録する。


 平均すると。


 わずかだが。


 確かに差があった。


「ミア」


「なに?」


「やっぱりお前の水、何かあるぞ」


「…………」


 ミアの顔が明るくなる。


「すごい?」


「まだ分からん」


「えー!」


「一回だけだから」


「でも大きくなった!」


「そう見える」


「じゃあすごいじゃん!」


「だから――」


「待ってください」


 セレナが止めた。


「カイト」


「はい?」


「こちらを」


 セレナが指差す。


 緑色の水。


 その中の一匹。


「この個体」


「…………」


 カイトが目を凝らす。


 少し黒い。


 他の個体より。


 ほんの少しだけ。


「選別眼」


 カイトは能力を使う。


《ミナ》


世代:F1

父:クロ

母:シロ

状態:良好


特徴:黒色素・強


特性:微弱魔光


潜在特性:???


「…………」


「どうしました?」


「いや」


 カイトはもう一度見る。


潜在特性:???


 分からない。


 選別眼でも。


 まだ。


「何かある」


「何?」


 ミアが近づく。


「分からない」


「また?」


「ああ」


「選別眼でも?」


「選別眼でも」


 セレナがその言葉に反応した。


「あなたの能力でも分からないものがあるのですね」


「いっぱいありますよ」


「不便ですね」


「ミナにしか使えない時点で十分不便です」


「でも」


 ミアが言った。


「だから見るんでしょ?」


 カイトがミアを見る。


「毎日」


 ミアは笑った。


「百匹」


「…………」


 カイトも笑った。


「覚えたな」


「うん」


 三人で。


 小さな魚を見る。


 答えは。


 まだ分からない。


 同じ日に生まれて。


 同じ親から生まれて。


 同じように見えた百匹。


 それでも。


 一匹一匹。


 少しずつ違っていく。


 カイトは思った。


 たぶん。


 それを見るために。


 自分は今日も。


 この小さな魚を眺めている。

人にもいえるよね、、、

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