7温かい料理
エプロンを着て、すっかり店員気分になった後。
手始めに、ビルクさんはこの雑貨屋の案内をしてくれた。
「さっきまでいた場所が雑貨屋の顔だ」
今話してくれているのは、一階の内装。
ビルクさんが雑貨屋の顔と言った、入って直ぐの大きな棚と雑貨が並ぶ店頭。
その奥へ進んで右手側には、雑多な素材が保管された物置。左手側には大きな机と椅子があるダイニングキッチン。大商店ではないにしろ、4人家族で住めるくらいの広さがある。
「二階もある。いくぞ」
キッチンと物置の間から、キッチンの方へ伸びる階段。
つまり店頭から奥に入って、直ぐ左に曲がると寝室のある二階に繋がる。
トントンと二人で足音を鳴らしながら階段を登って、短い廊下の先の、左側へ付いたドアを開けた。
「一階より大分狭いし一室しか無いが、ここが二階だな。ギルドを抜けたら寝る場所も無いんだろ?」
部屋に入って、ふかふかしたベッドに目を向けていると、ビルクさんがそう問うてきた。
「はい、そうですね…その、良ければ物置でも使わせてくれれば…」
「ならここで寝ろ。俺は物置を使う」
「えっ?!」
私は不意に大きな声を上げてしまう。
それもそうだ。ビルクさんを差し置いて、私がこの部屋で寝るなんて、出来るわけない!
「なんだ。俺が寝た場所を使うのはいやか。シーツを変えれば良いか?」
「そ、そういうことじゃ無いですっ!寧ろ、私が物置で良いですって!」
「風邪を引かれて看病するのは御免なんだ。良いからそこで寝とけ」
ビルクさんの圧に負けて、私は葛藤しつつも口を噤んだ。
嬉しいやら悔しいやら。
色んな感情がまぜこぜになりながら、上目遣いにビルクさんの背中を見つめた。
「そういえばもう晩飯の時間か。ニィコもさっきのスープだけじゃあ腹も肥えんだろ」
階段を降りながら、ビルクさんが私にそう訊く。
「あっじゃあ、それは任せてください!」
「なんだ。得意なのか?」
「ずっと一人で暮らしてるので、人並みには…得意かもしれません」
王都へ来てから二年間は自分で作ってきたんだ。
今度こそ、とばかりにやる気をみなぎらせていると。
「それなら当番制だな」
「へ?」
思ったのとは違う返答が返ってきた。
「今日はニィコ、お前の当番ってことにする。それで良いか?」
「全然、ビルクさんが良ければ毎日作りますよっ…?」
「馬鹿言うな。それじゃあ自分の好みの味に出来ないだろ」
そんなビルクさんに、私は眉をへの字に曲げてしまった。
「そうですか…それなら、当番制で作らせてもらいますね」
「ああ」
この人には勝てないなあ、と思いつつ、私はエプロンの紐を締め直す。
ダイニングキッチンへ戻ると、ビルクさんは思い出したように顎に手を当て口を開いた。
「椅子が足りないな。じゃあ、料理が出来るまでに用意するか」
「えっ、あ、ありがとうございます…!」
用意する、とはどうするのかもわからないが、ビルクさんは直ぐに物置の方へ向いた。
「さっさと料理を作っておけ」
その言葉に頷いて、私は料理に取り掛かる。
手始めにコンロや流しの並ぶキッチンの隣にある、冷蔵庫──食材を冷たい温度で保存しておく魔道具を開き、中を覗き見た。
「…やっぱり、冒険者なんだなあ」
想像はしていた。
けどやっぱり、目を見張る普段見ない食材たち。
そこら辺の商店で買える一般的なものとは違う。
自分で外へ出て獲物の素材を狩るんだから、食材も手に入るのは当然なのだ。
冷蔵庫の中を眺めながら、私はしばらく考え込んだ。
見慣れない素材が多いけど、いくつか知っている食材もある。
次に棚を開けると、塩や乾燥した香草が並んでいた。小麦粉の袋もある。
「……うん」
声に出して、私は袖をまくった。
コンロに火を入れると、じわじわと熱が広がってくる。
物置の方からは、ビルクさんが何かを動かしている音がした。
私は手早く下ごしらえをして、鍋に油を引く。
刻んだ野菜と肉を炒めると、じゅっという音と一緒に香りが立ち上った。
人に料理を振る舞う、か。
なんとなく身体を緊張させながら、私は料理に没頭した。
それからしばらく経ったところで──。
「できたか?」
背後から掛かった声に、感覚が引き戻される。
「あっ、もう少しだけ待ってください」
物置から戻ってきたビルクさんが、脇に、妙に小綺麗な椅子を抱えていた。
あれ…もしかして作ったのだろうか。
ビルクさんはそれをダイニングに置き、冷蔵庫から飲み物、棚からグラスを取り出すと、食卓に並べ椅子に腰を下ろした。私も丁度出来上がった料理をお皿に取り分けて運ぶ。
「お待たせしました」
食卓に肉と野菜の炒め物を置いて、私も席につく。
私もグラスにお茶を注いだところで、ビルクさんが口を開いた。
「改めてようこそ。乾杯だ」
ビルクさんの差し出したグラスに、私のグラスを合わせる。
心地いい音が響いて、水滴が跳ねた。
ビルクさんが一口食べるのを見てから、私も匙を口へ運んだ。
「悪くないな」
その言葉に、私は小さく答える。
「…ありがとうございます」
窓の外の雨はいつの間にか小降りになっていて、遠くで水が流れる音だけが聞こえた。
自分でも、即興で作った割に、やけに食指が進んだ。




