↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
7/50

7温かい料理

エプロンを着て、すっかり店員気分になった後。

手始めに、ビルクさんはこの雑貨屋の案内をしてくれた。


「さっきまでいた場所が雑貨屋の顔だ」


今話してくれているのは、一階の内装。

ビルクさんが雑貨屋の顔と言った、入って直ぐの大きな棚と雑貨が並ぶ店頭。

その奥へ進んで右手側には、雑多な素材が保管された物置。左手側には大きな机と椅子があるダイニングキッチン。大商店ではないにしろ、4人家族で住めるくらいの広さがある。


「二階もある。いくぞ」


キッチンと物置の間から、キッチンの方へ伸びる階段。

つまり店頭から奥に入って、直ぐ左に曲がると寝室のある二階に繋がる。

トントンと二人で足音を鳴らしながら階段を登って、短い廊下の先の、左側へ付いたドアを開けた。


「一階より大分狭いし一室しか無いが、ここが二階だな。ギルドを抜けたら寝る場所も無いんだろ?」


部屋に入って、ふかふかしたベッドに目を向けていると、ビルクさんがそう問うてきた。


「はい、そうですね…その、良ければ物置でも使わせてくれれば…」

「ならここで寝ろ。俺は物置を使う」

「えっ?!」


私は不意に大きな声を上げてしまう。

それもそうだ。ビルクさんを差し置いて、私がこの部屋で寝るなんて、出来るわけない!


「なんだ。俺が寝た場所を使うのはいやか。シーツを変えれば良いか?」

「そ、そういうことじゃ無いですっ!寧ろ、私が物置で良いですって!」

「風邪を引かれて看病するのは御免なんだ。良いからそこで寝とけ」


ビルクさんの圧に負けて、私は葛藤しつつも口を噤んだ。

嬉しいやら悔しいやら。

色んな感情がまぜこぜになりながら、上目遣いにビルクさんの背中を見つめた。


「そういえばもう晩飯の時間か。ニィコもさっきのスープだけじゃあ腹も肥えんだろ」


階段を降りながら、ビルクさんが私にそう訊く。


「あっじゃあ、それは任せてください!」

「なんだ。得意なのか?」

「ずっと一人で暮らしてるので、人並みには…得意かもしれません」


王都へ来てから二年間は自分で作ってきたんだ。

今度こそ、とばかりにやる気をみなぎらせていると。


「それなら当番制だな」

「へ?」


思ったのとは違う返答が返ってきた。


「今日はニィコ、お前の当番ってことにする。それで良いか?」

「全然、ビルクさんが良ければ毎日作りますよっ…?」

「馬鹿言うな。それじゃあ自分の好みの味に出来ないだろ」


そんなビルクさんに、私は眉をへの字に曲げてしまった。


「そうですか…それなら、当番制で作らせてもらいますね」

「ああ」


この人には勝てないなあ、と思いつつ、私はエプロンの紐を締め直す。

ダイニングキッチンへ戻ると、ビルクさんは思い出したように顎に手を当て口を開いた。


「椅子が足りないな。じゃあ、料理が出来るまでに用意するか」

「えっ、あ、ありがとうございます…!」


用意する、とはどうするのかもわからないが、ビルクさんは直ぐに物置の方へ向いた。


「さっさと料理を作っておけ」


その言葉に頷いて、私は料理に取り掛かる。

手始めにコンロや流しの並ぶキッチンの隣にある、冷蔵庫──食材を冷たい温度で保存しておく魔道具を開き、中を覗き見た。


「…やっぱり、冒険者なんだなあ」


想像はしていた。

けどやっぱり、目を見張る普段見ない食材たち。

そこら辺の商店で買える一般的なものとは違う。

自分で外へ出て獲物の素材を狩るんだから、食材も手に入るのは当然なのだ。


冷蔵庫の中を眺めながら、私はしばらく考え込んだ。

見慣れない素材が多いけど、いくつか知っている食材もある。

次に棚を開けると、塩や乾燥した香草が並んでいた。小麦粉の袋もある。


「……うん」


声に出して、私は袖をまくった。

コンロに火を入れると、じわじわと熱が広がってくる。

物置の方からは、ビルクさんが何かを動かしている音がした。


私は手早く下ごしらえをして、鍋に油を引く。

刻んだ野菜と肉を炒めると、じゅっという音と一緒に香りが立ち上った。


人に料理を振る舞う、か。

なんとなく身体を緊張させながら、私は料理に没頭した。

それからしばらく経ったところで──。


「できたか?」


背後から掛かった声に、感覚が引き戻される。


「あっ、もう少しだけ待ってください」


物置から戻ってきたビルクさんが、脇に、妙に小綺麗な椅子を抱えていた。

あれ…もしかして作ったのだろうか。


ビルクさんはそれをダイニングに置き、冷蔵庫から飲み物、棚からグラスを取り出すと、食卓に並べ椅子に腰を下ろした。私も丁度出来上がった料理をお皿に取り分けて運ぶ。


「お待たせしました」


食卓に肉と野菜の炒め物を置いて、私も席につく。

私もグラスにお茶を注いだところで、ビルクさんが口を開いた。


「改めてようこそ。乾杯だ」


ビルクさんの差し出したグラスに、私のグラスを合わせる。

心地いい音が響いて、水滴が跳ねた。

ビルクさんが一口食べるのを見てから、私も匙を口へ運んだ。


「悪くないな」


その言葉に、私は小さく答える。


「…ありがとうございます」


窓の外の雨はいつの間にか小降りになっていて、遠くで水が流れる音だけが聞こえた。

自分でも、即興で作った割に、やけに食指が進んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。