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48近況報告

「それで、最近はどうっすか?」


いつかムギちゃんとニィコさんと三人で話したカフェ、『ミルクジョッキー』の中。

俺が何気ない問いかけをすると、ニィコさんはなんだかくすぐったいような、気まずいような仕草を見せた。実際、くすぐったそうにこめかみを掻いていた。


「ええと、最近ですか」


なんすか…その反応は。

俺はつい疑心暗鬼に、何かをやらかしたのだろうかという目を向ける。

すると、ニィコさんは少しだけ目を逸らしてから、ぽつりと口を開いた。


「色々……ありましたよ」

「色々?」


それからニィコさんの口から飛び出した話は、一言で言えば…俺の心臓をめちゃくちゃにした。


「学院で赤毛大獅子が脱走したのって…知ってますか?」

「ああ、うん。噂は耳にしたっすよ?あの学院で魔獣が脱走って、相当な事件っすからね」

「その事件…私巻き込まれたんですよ」

「…ほう」


俺の口から発せられた声は、らしくもなく地を這うような低い声だった。


「巻き込まれて…どうしようも無かったので倉庫にあった素材でなんとか気絶させることが出来たんです。特別書庫の知識のお陰ですね」

「それは…凄いっすねえ」


顔をピクピクと痙攣させそうになりながら、俺は話を続けるように促す。

聞きながら、俺は心を落ち着かせるようにコーヒーカップを口元へ運んだ。


「それから、お恥ずかしい話なんですけど…魔道具を作りたくて無断で魔道具工房に侵入して」


俺の眉間にあらん限りの力が入る。


「数日前に…間違って暴発させて…」

「……」

「学院の壁を派手に破壊してしまいました」

「…ぶっ?!」


咄嗟に手のひらから風を溢れさせた。吹き飛びかけたコーヒーが、見えない壁に弾かれてカップの中に戻っていく。周囲の客が一斉にこちらを向いた。


「す、すみません……!」


ニィコさんが慌てて頭を下げる。俺は口元をハンカチで拭きながら、天井を仰いだ。


(冒険者の登録を先延ばしにしてたから、まだ大丈夫だろうと思ってたっすよ……)

まさかその間にここまでやらかしていたとは、想像すら出来なかっただろう。


「パウモイさん、やっぱり怒ってますか……」

「怒ってないっすよ。ただ、ちょっと……色々と追いついてないだけっす」


頭を抱えながら、深く息を吐く。

ニィコさんは申し訳無さそうに眉を沈めている。

俺は咄嗟に励ましの言葉を口にしようとして、けれど止めた。


「でも、なんでなんすかね。もう立ち直ったんすか?」


メンタルケアが必要かと思っていたが、どうやら杞憂だったらしい

反省しつつも過度に落ち込んでいない、どこか一皮むけたような表情を見ていると、そう思えた。


「そうですね。こんなこと言えませんけど、心配しなくて大丈夫です。もう、沢山叱られましたから」


そう言ってはにかむニィコさんを見て、俺はまたため息を吐いた。

今度のは、安堵を大きく含ませて。


「あの、パウモイさん」

「なんすか」

「そういえば、冒険者の件ってどうなったんでしょうか」


ああ、来たっすか。


「冒険者になりたいっすか?」


ニィコさんは少しだけ間を置いてから、真っ直ぐに答えた。


「なりたいです」


迷いがなかった。

俺は顎に指を当てて、しばらく黙り込んだ。

思い出すのは、あの『死』のカード。

────『死の影が迫る。ただし、立ち止まらなければ光明あり』


あれに関して、あの後俺とムーシュラさんは今後について相談した。

決断としては────俺達は干渉しない事に決めた。


忠告することが、かえって悪影響になりかねない。というのが出た答えだ。

立ち止まらなければ光明がある。ならば止める理由もない。

俺はゆっくりと鞄に手を伸ばした。


「はぁ。しょうがないっすねえ」


取り出したのは、一枚の封書だった。

手のひらサイズの、茶封筒。


「これ、なんですか……?」

「推薦状っすよ。冒険者ギルドに持っていってください」


ニィコさんの目が丸くなった。

まじまじと封筒に向けられた視線が、俺に向く。


「え……っ、え?!いいんですか?!」

「焚き付けたのは俺っすからね。最後まで責任を取るっすよ」


もう、何度同じような言葉を言っているかわからないっすね。

ニヤリと笑うと、ニィコさんは慌てて頭を下げた。


「あ、ありがとうございます……!絶対に、頑張ります……!」

「頑張ってくださいよ。俺も、できる限りのことはするんで」


やる気を溢れさせるニィコさんを見ていると、やっぱりその足を止めるという選択肢は浮かばなかった。


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