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46/50

46親友

空はもう真っ暗で、ぼんやりと通りを照らす街灯の下を歩く。

会話は少ない。

けれど、その静寂は決して嫌なものではなく。

別に何かを探すわけでもなく、ただ視線を泳がせながら歩いていると──。


「「ねえ」」


不意に出た言葉が重なる。

私達はお互いに視線を合わせて、直ぐにわざとらしく視線をそらせた。


「あっはは…!なんか変やねっ!」

「うん」


私も小さく頷く。この雰囲気に嫌な気はしなかった。

ただ少し、くすぐったいような感じがして。

学院を出てからどこか変だ。いや、もしかすると、それ以前からだったかもしれない。


「……私と教官の話、聞いてた?」

「最初から聞いてたで。勝手に後をつけたりしてごめんね、ニィコ」

「ううん、寧ろスッキリしたくらいだよ」


ムフレが盗み聞きをしていたことを知ったとき、私はちょっと嬉しかった。


「ニヶ月も謹慎するんだってなあ」

「えへへ…やらかしちゃったなあ。本当、謹慎で良かったくらいだよ」


来年までの四ヶ月間、特別な用事がなければ私は学院に入れない。

体裁のこともあるし、来年まではもう会う機会は無いかもしれない。


「寂しかったらいつでも言うてよっ。いつでも遊べるからね」


そんな私に、ムフレは朗らかな表情で答えた。

目の端に、ガラスに映り込む眩い街灯と、私達の姿が見えた。


「……ありがとう。ムフレがいて、本当に良かったよ」


変に意識せず、口から勝手に出たような言葉だった。

漂う沈黙に、私は少しだけ恥ずかしくなって、口を噤んだ。


「ふふっ、そう?」


けれど、その時の嬉しそうに目を細めたムフレを見て。

肩の力が抜けていく。


「うんっ」


自然と頬も緩んでくる。

夜の静けさに響く、カツカツとした足音が、心地良い。


「ニィコが今朝、なんか言いかけたのも、教官と話してたような内容なん?」


そういえば、そんなこともあったっけ。

私が最近頑張っていた理由を伝えようとしたところで、ムフレに生徒がぶつかって。

結局話せなかったんだった。


「……ムフレに心配を掛けたと思って、話さないといけないと思ったんだ。教官と話した通り、私はがむしゃらになっていて、体調のことなんて気にして無くてさ」

「そうやったんや。じゃあもう解決したんだねっ?」


私は小さく頷いた。

親友にも心配を掛けてしまって、面目ない限りだ。

すると、ムフレが突然足を止めて言った。


「…うち、ちょっと思ってたんだっ」

「えっ?」


小さく息を吐いたムフレに、私も足を止める。


「ニィコが知らへんうちに、うちの知らへん遠くに行ってもたんやないかーって」


ムフレは空を見つめながら、思い出すように言葉にした。

私は大きく成長していた。

それは、ビルクさんにいやというほど言ってもらえた。

それが例え歪んだ形だったとしても、ムフレの目には真っ直ぐ写ったのかもしれない。

……急成長する私を見て、寂しく感じたのかもしれない。


「もしかしたら嫉妬してたんかもしれへんなあ」


ムフレは自嘲するように、口の端を小さく浮かせた。

底抜けに明るい彼女にそんな寂しい思いをさせていたことに、私は胸がギュッと締め付けられる。


「けど、ニィコには『なんかのために頑張りたい』って気持ちが出来ただけやったんやな。そのために、必死で頑張ってただけやったんやな」


ムフレは私の方を振り向いて、自然な笑顔を浮かべた。

そして、


「やからさっ」


快活に、白い歯を見せて、ムフレは私に拳を突き出した。


「うちも決めてん!ニィコがその人のために全力で走るなら、うちはそんなニィコを目標にする!そんなら、ずっと一緒にいられる気ぃするから!」


その純粋で清々しい言葉に、目頭が熱くなる。

私は気持ちがいっぱいになる前に、精一杯に答えて。

突き出されたムフレの小さな拳に、私の拳を合わせた。


「一緒に頑張ろうっ、ムフレ!」


私の拳に、強い力が返ってくる。

親友でもあり、ライバルでもあり。


再び歩き出した帰り道は、また沈黙に包まれた。

カツカツという二人の足音だけが、夜の静けさに響く。

だけどやっぱり───その空気は言葉がいらないくらい、ひどく心地よかった。


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