46親友
空はもう真っ暗で、ぼんやりと通りを照らす街灯の下を歩く。
会話は少ない。
けれど、その静寂は決して嫌なものではなく。
別に何かを探すわけでもなく、ただ視線を泳がせながら歩いていると──。
「「ねえ」」
不意に出た言葉が重なる。
私達はお互いに視線を合わせて、直ぐにわざとらしく視線をそらせた。
「あっはは…!なんか変やねっ!」
「うん」
私も小さく頷く。この雰囲気に嫌な気はしなかった。
ただ少し、くすぐったいような感じがして。
学院を出てからどこか変だ。いや、もしかすると、それ以前からだったかもしれない。
「……私と教官の話、聞いてた?」
「最初から聞いてたで。勝手に後をつけたりしてごめんね、ニィコ」
「ううん、寧ろスッキリしたくらいだよ」
ムフレが盗み聞きをしていたことを知ったとき、私はちょっと嬉しかった。
「ニヶ月も謹慎するんだってなあ」
「えへへ…やらかしちゃったなあ。本当、謹慎で良かったくらいだよ」
来年までの四ヶ月間、特別な用事がなければ私は学院に入れない。
体裁のこともあるし、来年まではもう会う機会は無いかもしれない。
「寂しかったらいつでも言うてよっ。いつでも遊べるからね」
そんな私に、ムフレは朗らかな表情で答えた。
目の端に、ガラスに映り込む眩い街灯と、私達の姿が見えた。
「……ありがとう。ムフレがいて、本当に良かったよ」
変に意識せず、口から勝手に出たような言葉だった。
漂う沈黙に、私は少しだけ恥ずかしくなって、口を噤んだ。
「ふふっ、そう?」
けれど、その時の嬉しそうに目を細めたムフレを見て。
肩の力が抜けていく。
「うんっ」
自然と頬も緩んでくる。
夜の静けさに響く、カツカツとした足音が、心地良い。
「ニィコが今朝、なんか言いかけたのも、教官と話してたような内容なん?」
そういえば、そんなこともあったっけ。
私が最近頑張っていた理由を伝えようとしたところで、ムフレに生徒がぶつかって。
結局話せなかったんだった。
「……ムフレに心配を掛けたと思って、話さないといけないと思ったんだ。教官と話した通り、私はがむしゃらになっていて、体調のことなんて気にして無くてさ」
「そうやったんや。じゃあもう解決したんだねっ?」
私は小さく頷いた。
親友にも心配を掛けてしまって、面目ない限りだ。
すると、ムフレが突然足を止めて言った。
「…うち、ちょっと思ってたんだっ」
「えっ?」
小さく息を吐いたムフレに、私も足を止める。
「ニィコが知らへんうちに、うちの知らへん遠くに行ってもたんやないかーって」
ムフレは空を見つめながら、思い出すように言葉にした。
私は大きく成長していた。
それは、ビルクさんにいやというほど言ってもらえた。
それが例え歪んだ形だったとしても、ムフレの目には真っ直ぐ写ったのかもしれない。
……急成長する私を見て、寂しく感じたのかもしれない。
「もしかしたら嫉妬してたんかもしれへんなあ」
ムフレは自嘲するように、口の端を小さく浮かせた。
底抜けに明るい彼女にそんな寂しい思いをさせていたことに、私は胸がギュッと締め付けられる。
「けど、ニィコには『なんかのために頑張りたい』って気持ちが出来ただけやったんやな。そのために、必死で頑張ってただけやったんやな」
ムフレは私の方を振り向いて、自然な笑顔を浮かべた。
そして、
「やからさっ」
快活に、白い歯を見せて、ムフレは私に拳を突き出した。
「うちも決めてん!ニィコがその人のために全力で走るなら、うちはそんなニィコを目標にする!そんなら、ずっと一緒にいられる気ぃするから!」
その純粋で清々しい言葉に、目頭が熱くなる。
私は気持ちがいっぱいになる前に、精一杯に答えて。
突き出されたムフレの小さな拳に、私の拳を合わせた。
「一緒に頑張ろうっ、ムフレ!」
私の拳に、強い力が返ってくる。
親友でもあり、ライバルでもあり。
再び歩き出した帰り道は、また沈黙に包まれた。
カツカツという二人の足音だけが、夜の静けさに響く。
だけどやっぱり───その空気は言葉がいらないくらい、ひどく心地よかった。




