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37インデックス

王都大図書館の地下。

薄暗い特別書庫の最奥に、二人の男女が顔を合わせて座っていた。

一級冒険者であるパウモイ。そして、大図書館の司書であるムーシュラだ。


「ムーシュラさん。今日のご調子はいかがっすかね?」

「えらくかしこまってるわね。パウモイ」


一枚、二枚とムーシュラさんの机の上にカードが置かれていく。

黄色い紋様の刻まれた漆黒のカード。

パウモイもそれを目で追いながら、どこか緊張した面持ちでいた。


「ムーシュラさんに頼めて良かったっすよ。あの子、結構向こう見ずなとこがあって。発破をかけた俺が言えたことじゃないっすけど、冒険者にもなりたいだとか言い出したときは驚いたっすよ…」


小さくため息を吐くパウモイに、ムーシュラも小さく微笑んだ。

机の上に置かれたカードはいつの間にか七枚になっていて、ちょうど丸机に収まるように横並びになっている。カードを並び終えたか、広げた両手を机に伏しながらムーシュラは顔を上げた。


「ええ…分かるわ」


小さく呟かれた言葉にパウモイは首を傾げる。


「ん?なんすか、分かるって?」

「ニィコちゃんに付けてもらうように言ったこの腕輪。ありがとうね、パウモイ」

「あ、はい。占いに使うんすよね?」


パウモイに「ええ」とだけ返事をして、ムーシュラさんは自身の腕につけていた“その木の腕輪”を腕から抜いた。それからそれでパウモイを見通すように顔へ近づけてから、言った。


「観たからね」

「みた…?」


呆けた声で反芻するパウモイ。

けれど数秒してからその真意に気づいたか、驚きの声を上げた。


「まさかっ…観たって、“そういうこと”っすか?!」


ムーシュラさんの言った、「分かるわ」という言葉。

そして「観たからね」という一言から推測して、パウモイはニィコに着けるように言われた腕輪の秘密にたどり着いた。


「何かしらの特別な魔道具ってのは分かってたっすけど、まさか…」

「想像のとおりよ。この腕輪には特殊な細工がされていてね。装着者の魔力を吸い取って、“情報や記憶を保存すること”ができるの」


パウモイは納得したように深く頷いた。

要するに、ムーシュラは木の腕輪をずっと装着していたニィコの記憶を見ることが出来るということ。


「あなたの試験も、ニィコちゃんの才能も、全部ちゃんと観たからねえ」

「そうっすか。そりゃあもう、あの子のことは大分わかったっすか」


そう言うパウモイはどこか興奮しているようで、口元を笑みに歪めながら体をずいっと乗り出した。

パウモイとニィコの試験を見たのならば、パウモイ(じぶん)が感じたニィコに対する感情にも共感できるだろうと。


「あの子は確かに…少し異常だねえ」


遠い目をするムーシュラは、その意味を理解しているようだった。


「あの“能力”について、ムーシュラさんはどう思うっすか?」

「うぅん。ニィコちゃんは多分…“魔力の変化に敏感”なんだろうね」

「そう…っすよね。俺もそう思いました」


パウモイは思い出すように額に指を当てた。

思い出すのはあの森での出来事。

パウモイは試験の中でニィコの才能を確かめるためにとある実験をした。


「俺はあのとき、『ニィコさんを殺す』という敵意を持って背後から攻撃しようとした。…勿論そういうフリっすけどね」

「分かってるわ。パウモイは実践想定でそうした。そのパウモイに対して、あの子はとんでもない反応を見せて回避したのよね」

「ええ。ニィコさんは『魔力探知や魔力感知を知らなかった』。それはあのあと俺を見失ったことや、それ以前のやり取りでも確実だ。なのに、“背後からの俺の攻撃だけ”は察知することが出来た」


それが意味することが、ムーシュラの言った“魔力の変化に敏感”────という言葉に繋がる。

「つまり」と、パウモイは続ける。


「ニィコさんは『攻撃意思』などによる魔力の僅かな変化に気づくことが出来る。ということっすよね」


それが、二人の感じたニィコの才能だった。


「そうとしか考えられないわねえ。魔力というものは心体と密接に関係しているわけだから、感情が昂ったりすると多少なりとも変化が及ぶ…というのは研究で分かっているのよね」


要するに、「攻撃しよう」「襲おう」と思った時点でそれに影響され自身の魔力が揺らぐということ。

ムーシュラの頭の中にある研究の情報によれば、人間も魔物も等しく魔力は情緒に左右されやすい。


「ならムーシュラさんは、ニィコさんみたいな感知の仕方に心当たりあるんすか?」


ムーシュラさんは分からないという風に首を振る。


「…魔物の“覇気”だとか“殺気”のようなものを察知したことがある冒険者もいるみたいだけれど──」


そういうのは単純に『殺気立った魔物が体から無駄に魔力を放出した結果』とも解釈できる。

膨大な情報の保管された王都大図書館にも、魔法の些細な変化を人の手で観測できた記述は無い。

そう、ムーシュラは語った。


「というか、魔法に関してはあなたの方が專門でしょう?パウモイ」

「いやいやっ、俺も『魔力探知や魔力感知』に関しちゃあ一人前っすけど…ありゃあ完全に専門外っすよ。言うならアレは、魔力感知を超えた…『魔色感知』と言って良い。いや、上位互換ってわけじゃないっすけどね」

「魔色感知…ね」


指先を丸めて唇に付けながら、ムーシュラはふっと目を伏せた。

それから数秒経ったところでぱちりと目を開けた。


「まあ、興味はあるけれど一先ず占いといこうかしら?」


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