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29/50

29二人の少女

カフェを出て、パウモイさんと別れて、ナバナへと続く道を歩く。

正面から差し込む光がやけに眩しかった。

夕陽だ。足もすっかりくたびれきって、一歩一歩がひどく重く感じる。

けど、どこか清々しい帰り道だった。


「もう、こんな時間か」


何度目か分からないけど、私は自分に呆れるように小さく笑う。

朝に学院へ行くと言って出てきたのに。

路地裏で途方に暮れていたことも、空を飛んだことも、カフェで大声を出してしまったことも。

色々ありすぎて、時間の感覚が完全に飛んでいた。


やけに長い時間歩いて、私はナバナの前に立った。

見知った扉を開けると、ビルクさんが棚の整理をしていた。

こちらを一瞥して、また手を動かし続ける。


「おう。帰ったか」


いつもと同じように、淡々と作業をしている。

その背中を見ていると、じわじわと胸に重たいものが広がってきた。

口元が小さく震えた。


「あの……もう閉める時間ですか?」

「そうだな。看板を返してくれるか」


少しだけ頭にいろいろなものが巡って、返事をする。


「はいっ…!」


やけに元気な声に違和感を持ったか、ビルクさんは小さく眉を曲げた。

私は隠れるように外へ出て、看板に目を向ける。


秋の夕暮れが石畳を橙色に染めていた。

くよくよしていられない。

鼻から息を吸い込んで、私は扉を開けてビルクさんの方を振り向いた。


「何か残っている作業はありませんか?」


ビルクさんは手を止めてこちらを見た。


「もう無いぞ。適当に過ごしてろ」

「あっ…もう大丈夫ですか」


見事に出鼻を挫かれて、私はがっくりと肩を落とした。

でも、やることなら、いくらでもあるだろう!


「わかりました。じゃあ自室に戻ってますね」


ビルクさんが頷いたのを見て、階段を上がって自室に入り、机に向かった。

背中に背負ったままの鞄から手帳と教本、そして筆記具を取り出す。


私は腕を掲げて、手帳の表紙に黒いインクを刻み込んだ。

『ビルクさんの隣に立つ』

──恥ずかしい。

そう思う気持ちは、きっと自分の奥底の自信の無さなのかもしれない。

なら、これを見るたびに確かめられる。

先ずはこの壮大な目標を語ることが出来るように。


よし。早速勉強でもしようかな。


今度は図書館で借りている本に目を向けて、知識を蓄えていく。

元々勉強は嫌いじゃなかった。魔物を観察するのも、魔法の理屈を調べるのも、気づけば時間を忘れて没頭してしまうくらいには好きだった。

でも今日は、いつもとは違うかもしれない。

いつもよりもっと楽しいかもしれない。

ペンを走らせながら、胸の奥がゆったりと、確かに高まっていくのを感じた。


* * *


茶髪猫と話した。

私よりも背が低くて、華奢で、非力で。

それに自己否定的で自信が無くて、呆れるほどに不器用な女と。


アイツ自身も私の事を何もかもが上だと言った。

明らかな事実を口にして、自分の気持を諦めようとしていた。

苛立たしい。


私は弱い奴が嫌いだ。

それは単なる力という意味じゃなく、存在として。

だからこそ、自分がそうであることが許せない。

弱い自分を見たくない。

あんな存在を気にかけるような弱い自分が気持ち悪い。


もっと強くなれば、この感情は消えるのか。

それともこれは私に新しく芽生えた未知なのか。

私の本能は──あの娘の奥底に何を感じ取ったんだろうか。


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