↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
28/50

28憧れ

ドアベルの余韻が消えて、私はこっそりと息を吐いた。


「ほんと、厄介なヤツっすよね」


パウモイさんも苦笑混じりに息を吐いて、コーヒーカップを受け皿に戻す。


「パウモイさんでも、そう思うんですか?」

「そりゃあもう…ニィコさんは気の毒っすわ。あんなやつがライバルだなんてなあ」


確かにムギロッテさんは強い。私には無いものを沢山もっている。

ムギロッテさんだけじゃなく、パウモイさんも、ビルクさんも。

私の周りには凄い人がいっぱいいる。


「パウモイさんは、どうやってそんなに魔法が上手になったんですか?それと、魔法を頑張ろうと思った理由とかって…?」

「俺が頑張ろうって思ったのは、単純に魔法が楽しかったからっすよ。そうやって練習を続けてたら、勝手に上手くなっていたってだけっす。俺も最初は一方向にそよ風を吹かせる程度だったっすよ」

「…パウモイさんでも、そうだったんですね」


途端に、無力感を嘆いていたこれまでの自分が浮かんで、恥ずかしくなる。


「私も、パウモイさんやムギロッテさんのようになるために、頑張ります」

「そうっすね。いきなりビルクさんを目指すよりも、何倍もハードルが低い」


そう言いつつ、頬杖を付いて窓の外に目を向けるパウモイさんを見つめる。

この人も十分…どころか私が知る中で一番凄い魔法使い(ウィザード)の筈なんだけれど。


「パウモイさんは、もともとビルクさんと同じチームだったんですよね?」

「そうっす。ギルドは“制度”的にチームを組まないとやっていけない。というか、大体ギルド側から同期を数人で纏めてチームを作られるんす」


私がビルクさんはチームなんて作らなさそう、と思って口に出したことを察したのか、パウモイさんはそう答えた。


「制度的にって、どういうことですか?」


パウモイさんが人差し指をぴんと立てる。


「殆どの依頼は受けるために“同階級”の冒険者が二人以上必要って決まりがあるんすよ。依頼の階級より上の冒険者なら、一人で受けれるんすけどね」

「なるほど…つまりチームを組まないと最初は依頼すら受けられないんですね…?」


みんな最初は十級から始まるわけだから、同階級──つまり十級の依頼を受けるのにも、チームが必要。

確かに命を張る危険な仕事なのだから、それくらいでもしないと安全は保たれないのだろう。


「そういうことっす。だから俺も同期で入ったビルクさんと、ちょうど一人だったハルモングさんのチームに入れられたんすよ」

「そうだったんですね…でも、元から居たハルモングさんは、十級だったんですか?」


ハルモングさんが九級以上の場合、十級以下の依頼しか受けられないことになる…よね?

私の疑問に真っ当というように頷いて、パウモイさんが口を開く。


「あの人はああ見えて面倒見がいいっすから、その時点で六級だったのに、俺達に付き合ってくれたんすよ。ニィコさんの想像通り、普通は前後一階級程度の差でチームを組むんすけどね」

「やっぱり、そうだったんですね」

「それと、あのムギちゃんもちょっと特殊でね」


何か含みのある言い方に、私は口元に運んでいたカップを戻す。


「元々ムギちゃんは同期三人でチームを組んでいたんすけど、アイツがあまりに急激に階級を登っていったもんでね。それに引っ張られるようにして上がっていったほかの二人が、ついて行けないって話で解散しちゃったんすよ」

「なるほど…」


それは妙に想像できる話だった。


「それがちょうど五級くらいの話でね。ビルクさんが辞めてからずっと空いていた三人目に入ったんすよ。それが一年前くらいかな?」

「…ちなみに、パウモイさんとハルモングさんは何級なんですか?」


すると、パウモイさんは少しだけ困ったように眉を潜めてから、言った。


「まぁ…数字的には一(いち)っふ。ビルクさんと一緒だなんて言えないっすけどね」


この人はどれだけビルクさんのことを慕っているんだ……いや、私も人のことを言えないかもだけど。


「あんなに凄いパウモイさんでも、格が違うって思うんですね」

「そりゃあもうっ!」


異様に食いついて鼻息を鳴らすパウモイさんに、私はつい身を引きそうになる。


「どんな魔物でも一撃で鎮めるって、カッコよすぎじゃないっすか…?」


まるで夢を語る少年のような視線で語りだすのを聞いて、私もその光景を想像した。

コカトリスのときも、ケルベロスのときも。

その姿は脳裏に鮮烈に刻まれている。でも…一つだけ気になるのは、


「ビルクさんは、今までもずっと一撃で仕留めてきたんですか?」

「気になるっすよね。──まあ、初見の魔物は流石に観察するんすよ。軽い攻撃を色んなところに当てたり、動きを見たり」


けど!と、大仰な身振りをしながらパウモイさんは口にする。


「ビルクさんの凄いところはそっからだ。魔物を観察して、弱点を見つけてからはもう、次の一撃では絶対に仕留め損なわない。必殺の一撃に変わるんすよ」


“魔物を観察して弱点を見抜く”。それは実際にビルクさん自身が教えてくれた戦術だ。

私も魔物を良く観察するのが好きだから、「ニィコにも合ってる戦法と言えるんじゃないか?」と言われた事を覚えている。

けれど私は確か…きっと自分には出来ないだろう、ビルクさんのような力を持っていないから。

と思って諦めていたんだっけ。


「あっ、ちょっと熱が籠もりすぎちゃって、引いちゃったっすか?」


考え事に夢中になっていると、パウモイさんは恥ずかしそうに頭に手をやった。


「いえ、私もわかります。憧れちゃいますよね」


無意識に口元が緩むのを感じた。

こんな話を出来るというのは、凄く貴重なことだから。


「へへっ、分かるっすか」

「私も憧れます。そういうパウモイさんは、ビルクさんの戦術をやってみないんですか?」

「…もちろん試したっすよ。けど、ビルクさんに言われたんでね。お前にはそのままが合ってるって」


パウモイさんは決して諦めた事を後悔した様ではなく、むしろ誇らしそうに笑った。

───私に合っている…か。

私がビルクさんの隣に立とうとする決意も、出来る出来ないという問題じゃなかった。

なら、諦める理由なんて無かった筈だ。


「私は、ビルクさんの戦術を目指してみようかな…って思います」


その言葉に、パウモイさんはちょっとだけぽかんとした。

自信がなさそうだったから、もしくは意外だったからかもしれない。

でもすぐに穏やかな、大人の笑みを見せて言った。


「いいんじゃ無いっすか?教えてもらえるんすからね。いつも一緒にいて」

「そう、ですね」


きっと私の環境はとても、いや、多くの人が羨望するような環境なのだろう。

私はそっと机の下の手元で、自分への戒めのつもりでふとももを摘んだ。

私のバカ。

思いの外痛くて、少しだけ顔が歪んだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。