20ビルクさんの仲間
「だ…大丈夫ですかね…?」
真っ白な奔流が一帯を飲み込む。
遠くで小さく丸まったビルクさんとムギロッテさんの姿も、たちまち飲み込まれていった。
「心配いらないっすよ。ビルクさんがついてる。えっと、ビルクさんと一緒に来てた…お名前は?」
細身で黒髪の、背の高い男。
確かビルクさんからは…パウモイと呼ばれていた男だ。
「ニィコと言います。パウモイさん、ですよね?」
「そうっす!ニィコさん、よろしく」
すっと差し出された手を握ると、パウモイさんは目を細めて笑った。
「それにムギちゃんもヤワじゃない。あの二人が雪崩に負けるなんてないっすよ」
「ムギロッテさん…でしたっけ。あの人も、やっぱりかなりの実力者なんでしょうか」
「そりゃあもう。あの自信っぷりのとおり、階級も“三”と腕が立つ。150名以上も在籍している冒険者の中で、三級以上はたった17名しかいないっすからね」
確かに三級といえば魔工技師でも相当な腕利きだ。個人で工房を持っていたり、いくつもの発明が評価を受けている人物がそれくらいだったりする。
「ところで、ニィコさんはなんでビルクさんと一緒に?」
ムギロッテさんに感心していると、チラリと眉を潜めながらパウモイさんに目を向けられる。
私のようなどう見てもひ弱な人間がビルクさんといるというのは、確かに異常なのかもしれない。
「その…私、ビルクさんの店で働いてて」
「ええっ?ナバナでっすか…?!あのビルクさんが店員を雇った…?」
ぎょっと目を剥いて、パウモイさんは大仰な身振りを見せた。
それに釣られて私も思わず肩を持ち上げていると、後ろから別の声が耳に入る。
「パウモイ、この前店に行ったんじゃろ?」
振り向くと、真っ白いヒゲを蓄えた背の低い老人──確か“ハルモング”と呼ばれていた人がいた。
流石ビルクさんの知り合いと言うべきか、その迫力に一歩後退りしそうになる。
いや…パウモイさんがそうでは無いというわけじゃないんだけど、いい意味でパウモイさんは接しやすいと思っていた。
「いや、つい一ヶ月前に行ってみたんすけどね。もしかして最近入ったんすか?」
「そうですね…つい一週間前くらいに、なんやかんやあって」
と、誤魔化すように経緯を端折る私に、それ以上の追求はされなかった。
「けど、ナバナで働くことになったからって、ビルクさんの狩りに着いていくもんなんすか?言い方は悪いっすけど、そんなに戦闘は得意そうじゃないっすよね」
「はい。戦闘はからっきしです」
そう言うと、パウモイさんは不思議そうに顎に指を当てた。
「ただ、魔物を観察するのが好きなんです。魔物の生態とか、どんな能力を持っているのか、昔から興味があって」
「……なんすかその変態的な趣味は」
「あ…っいや、魔物だけってわけじゃないですよ?!魔法とか、魔道具とか、そういうものが好きなんです!」
慌ててそう付け加える私に、パウモイさんは「そうっすか」と分かったような分からないような返事をした。まあ…ヘンではあるのかもしれないけどっ!
「じゃあそれでビルクさんに着いて観察してるんすか?度胸あるっすねえ」
「はい。最初にビルクさんから着いてくるかと聞かれて、それからはずっと。自慢じゃないですけど逃げるのは得意だったので」
改めて、ビルクさんの厚意に甘えている自分の図々しさに、私は照れるように頭を掻いた。
「──ビルクさんも、ニィコさんのことを信頼してるんじゃないっすかね」
「えっ…信頼って?」
「だってそうじゃないっすか。いくら自分の強さに自信を持っているビルクさんとはいえ、戦闘能力のない人間を危険な場所に連れて行くって、あのお人好しがおかしいでしょ。何かニィコさんなら大丈夫って根拠があったんじゃないっすか?」
「そう…ですかね」
私は未だ勢いの収まらない雪崩を見つめながら、頭の中でパウモイさんの言葉を反芻した。
「でも、初めて一緒に狩りに行ったときは私のことなんて殆ど知らなかったと思います。寧ろ直前で魔物に襲われているところを助けられたりとか…」
「ふぅん。ま、俺にはよくわかんないっすけどね」
そう言いつつも、パウモイさんは自分の考えを曲げたようでは無かった。
ビルクさんへの信頼と信用──それが根底にあるように思えた。
「おっ、そろそろ収まりそうじゃないっすか?」
「…みたいじゃな」
二人の言葉に、私も山へ目を向ける。
雪の流れはいつの間にか勢いを落として、ついに収まりそうだった。




