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434 どうやって実現するか

 全員が渋い顔もしくは難しい顔をしている。それもそうだろう、コマレちゃんの発案にはどこを取っても正しさしかないが、正しいだけにその達成難度も浮き彫りなのだ。


 もちろん、現状のままでは第一・第二大陸を守り切れるとは到底言えないってのは既に説明した通り。それをどうにかするには防衛体制の根本から変えなければならないが、そこに求められるのは全国家が一蓮托生レベルで深く、親密に、譲り合いの精神をもって手と手を結ばなくちゃいけないわけで……それがどうにも難しいことだっていうのも説明した通りなものだから、問題は「どうやって実現するか」なのだ。


 そもそもそれができるなら魔王期対策でとっくにやっているって話でもある。第三大陸がごった煮でも上手くいっているのは元から「そのため」に連合国という国が設けられたっていうのと、成立させるために随所で巧みな配慮が施されているから。この二点が理由としては大きい。


 単に魔族の住む第四大陸からの関所となる位置にあったからってだけじゃなく──それだって成り行きとしては大きなものだったとは思うけども──土台、全国家での完全な同盟は不可能。というより、結局のところにっちもさっちもいかなくなって形だけの同盟になるだろうと魔王期の始まりからして四人種それぞれが理解していたからこそ、連合国というミニスケールの国家同盟が興されたと言っていい。


 そういう背景もあって、今回のイベント──対強魔物へのスタンスもこれまでと変わらず連合国が防波堤となり、他国はその支援を行う。という従来通りの形式で行くことになっていたのだ。

 まあ、強魔物が魔族以上の脅威であるからにはいくら私たちが勇者ではなく灰として参戦するからと言って現地民が以前通りのやり方のままでは守れる範囲にも限界がある。そこをどうにかするために二年ほど前に実はコマレちゃんとナゴミちゃんが向こうの大陸に渡って各国を巡り、事情説明をしつつもっと手厚い支援をちょうだいとお願いし終えていたりもする。


 女神のフォローで例の「お告げ」が各国の代表に下っていることもあって交渉というほどのやり取りもなくすんなりと支援の強化は受諾された。おかげでエルフの国や向こうの大陸の魔術師組織から派遣された凄腕たちの力も借りて新大陸魔法陣が完成したし、獣人の国からの大部隊の派兵で連合国全土を覆える監視網が出来上がったし、ドワーフの国から集団でやってきた職人たちの協力で強い装備が全兵士に行き渡りもした。が、これだけの助力がなされたからには当然に、力を貸した側である各国の戦力・国力は大きく目減りしている。


 その点をカバーしているのは第一・第二にある人類国家の特に大きな三つの国で、職人の穴埋め(と言っても手伝い以上のことはできていないみたいだけど)から魔術師や戦士の分配配備など、まさしく人種のを取り持つ人間としての面目躍如の働きをしてくれているが、その分野に特化している他国の穴を埋めきるのは到底不可能であり、なんと言ってもどれだけ上手に人材のやりくりをしたところで大陸全体のパワーダウンは避けられない。


 それでもいいから連合国の戦力を増強させる決断をしたのは女神&勇者(本当は灰と名乗るべきなんだけどそっちの通りは良くないので、依然として私たちの対外的な立場は勇者のままだ)のダブル説得で強魔物がどれだけ恐ろしい存在かを見ず知らずのままに国の代表たちがちゃんと理解したためだ。

 ドラゴンやタイタン級が平均レベルにしかならない魔境から攻めてくる、という説明はそれこそドラゴンやタイタンの生息地である第一・第二大陸の国々には最高にヤバさがわかりやすい説明だったと思われる。どっちとも対面したことない私にとってはそこまでピンとくる喩えではなかったんだけど、さすがに現在進行形でそれらの災害・・に怯えている国々は真に迫った実感を得たようだ。


 んで、その惜しみない助勢があったために連合国の防衛体制はかつてないほとに整ったが、代償として他国の防衛力は落ちている。そんな状態で人間国家を間に挟むのではなく全ての国同士が直接に手を取り合って連携していこう! なんて言ってもあちらからしたらこれ以上どうすればいいんだって話だし、それ以前に前例がないからには複数人種での手の取り合い方なんて知らず、そもそも「できっこない」と思っているはずなんだから私たちがいくらお願いしたって無理なものは無理。正しい提案のひとつなんかでどうにかできることではないのだ。


 無い袖は振れないってやつだ。このままではいけない、と教えることはできてもだからって改善の余地がないんじゃなんの意味もない。下手をすればいたずらに不安を煽るだけにもなりかねない。

 かと言って、強魔物と実際に戦ってみて得られた今回の教訓は私たちだけの間に留めておくにはあまりに危険だ。不安を煽ろうがなんだろうが伝えるだけでもせめてすべきだとも思うけど、そこに大改革──この言葉選びは決して大袈裟ではないだろう──まで要求するのは果たして今やるべきことの内なのかどうか。


 もっと言えば、ここで頑張るべきは現地民ではなく私たちであり、そして私たち以上にその「使い手」である女神なんじゃなかろうか? だってどの国ももう充分に頑張っていて、やれるだけをやっているんだ。強魔物の襲来の仕方が予想とは違いそうだ、っていうのもそもそも予想を立てたのは女神なんだから、そこからの修正となれば女神が出張って然るべきとも思う。現地民はもちろん、灰である私たちでも独力では対処不可能っていうのも合わせてこれはどう考えたって女神案件だろう。


 皆で一緒に「うーむ」と考える間に私はこういう結論を出した。そしてそれが皆にも伝わるように心をオープンにもしていた。なので多少はざっくりとしたものになっているだろうけど、割かしそのまんま私の思考の一から十までが皆には聞こえた……見えた? ちょっと同調における以心伝心の表現が難しいけど、とにかく理解できたはず。なんだけど、それに対してコマレちゃんは首を振った。


「いえ、ハルコさん。もう充分に頑張っている。やれるだけをやっている。という評価は彼ら・・と共に立っている側としての評価です。近くにあるからこそ成果や実態を問わず支払っている労力へ、つまり努力そのものにも高く評価を付けている状態ですね。コマレも人の身としては各国にこれ以上を求めるのは酷なことだと思っています……ですがそれと女神様が認められるかはまったく別ですから」


 女神が認めるか、というのは要するに、現地民や私たちだけではどうともならないがどうにかすべき事態であるとして「干渉権を切るか否か」ということだ。そうでないと女神は干渉を行わない。というか、そうでもないと行えないのだと言うべきか。


 私たち灰は管理の代行者であり、神の手とも呼べる存在だが、神の力そのものではない。そのために私たちが判断し要請すれば干渉するためのハードルを多少は低くもできる。が、干渉しやすくはできてもそれが世界に与える負荷までは大して軽減できないためにこれはあまり使用が推奨されない裏技のようなもの。真っ当な管理の手法ではなかったりする。そこも踏まえて私たちは悩まなくてはいけないのだ。


 問題に直面した際に、現地民か、自分たちか、女神か。どの勢力をどの程度に動かすか、ということを。



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