433 新時代
ものすごく真剣なトーンで口に出されたそれに、私は努めてしかつめらしく首肯することで同意を返す。コマレちゃんのガチっぷりに関係ないことへ気を取られていたのが申し訳なくなった、というかすごく恥ずかしくなったのはやっぱり皆には秘密だ。心の中だけでシズキちゃんへ「めっ」をしておく。嬉しそうにされた。
「もう一回防衛計画について向こうと詰め直すってことだよね?」
雑念を振り払いながらの確認に、コマレちゃんは「そうです」と肯定。
「今回こうして強魔物の思わぬ知能・行動を目にしたからには必須かと。現状の防衛網は第三大陸周辺のみを厚くし過ぎているきらいがありますから」
それも正しいだろう。もちろん、第四大陸が破棄されれば魔境と地続きならぬ海続きになるのは第三大陸。そこを手厚く守るっていうのは何も間違った判断ではないけれど、ヘルヒッグス戦で「それだけ」ではまったく不十分であることが示唆された。第三を最も厳重に守るべきなのは変わらずとも、現状ではそれに比べて著しく手薄と言わざるを得ない第一と第二への侵入にももっと警戒を割かなくちゃならない。
だけどそうするにはたった五人しかない私たちが頑張るだけでは到底叶いっこないので、連合国の住民に協力してもらっているように、第一と第二にある主要な人類国家とのさらなる連携が不可欠になってくる。ただ、それができたとしても──。
「でもぉ、いくら協力してもらっても第三大陸みたいにはいかないよね~」
のほほんとした口調に聞こえるが、その実コマレちゃんにも負けないくらい真剣にナゴミちゃんがうーむと考え込みつつそう言った。
それもそう、まーじでその通り。第三大陸の特徴にして特長と言えばその面積のほとんどが連合国だってことだ。厳密に言えば東西南北問わずに端のほうは割と管理から漏れているし、そもそも寄合からの成り立ちだってこともあって中央部を除けば街や町(これらの定義については以前に語った通りである)の間隔がやたらと広くてスカスカな部分も散見される。要するに密度はそこまで高くない、けれど、それでも大陸そのものが国の領土だっていう点は大きい。
特に魔族が海を渡って来るのを警戒するためにそちらに面した海岸線は砦を築いて防御面も厚い。唯一と言っていい取りこぼしの無い方角になっていて、それはそのまま強魔物に対しても流用できる布陣だ。何せ強魔物の住まう第五大陸は、以前の警戒地だった第四大陸のさらに向こう側の直線上に位置しているんだからね。
一面は完璧で、他の面も完璧でこそないけど満遍なく兵士を配置できて連絡網も行き届いている。防衛の観点から見て第三大陸はとても守りやすいのだ。とびきりの危険地帯だからこそ、そういう土壌が出来上がった。翻って第一・第二はと言えば、守るための条件がまるで違う。
その広大さ故にドラゴンやタイタンみたいな第三大陸には生息していない魔物が数多くいて、その中には対処を諦める特級レベルでこそなくとも危険かつ積極的に人へ害をなす厄介なのも存在する。そういったすぐ傍の脅威に対抗するために各国が独自に高い兵力・軍事力を保持しているものの……それはあくまで散発的に訪れる対魔物への備えでしかない。組織立って侵攻してくる特定の勢力に対するものではなく、国と国が協力することもない。実際、連合国への出兵や技術協力だけはどの国も行っていても各国同士にはそれ以上の繋がりはないと聞いている。
人種間闘争時代みたいな敵対関係にこそないが、すこぶる友好的かと言うとそこまででもなく、魔族が自分たちの縄張りである第一・第二大陸まで乗り込んでこないようにその部分だけ手を取り合っている、と言ったほうが印象としては正しいだろう。それは単純に広大な大陸においてそれぞれの国の距離が開いているからでもあるし、また寄せ集め国家である連合国と異なり向こうの諸国は人間なら人間の国、エルフならエルフの国と単一種族国家である。その構造上、種族の性質がそのまま国家の性質になっている。そうなると連携だって一筋縄ではいかない。
同じ人と言ってもそこには明確な差異がある。まだしも寄り合いというものの意味を理解して他種族とも極めて友好的である連合国内のエルフやドワーフでさえも自分たちだけの街という縄張りを設けて基本的にはそこだけで生活を完結させているくらいだ。それは人種間闘争の頃の名残りがどこかに残っているせい、ではなくてもっと単純に、四人種が生活レベルで「合わせる」のがまずもって不可能であるせいだ。
例に挙げたエルフとドワーフを比べるなら、エルフが日が昇るよりも先に目覚めて沈むよりも先に寝付くのに対してドワーフは日が完全に真上に来てからが本格的な活動時間であり、エルフのスイッチが切れだす夕方からはむしろ活発になる。ここに獣人なんかを加えるとさらに大変だ。獣人には兎人であれば兎人の、熊人であれば熊人の活動時間があって千差万別。完全に昼夜が逆転しているタイプもそう珍しくない。
エルフは静寂を好み、ドワーフは喧騒を好み、獣人はそこもタイプによって様々。これらの多様性がひとつ所でまとまるのは難しい。同じ街に暮らせば一週間と経たずに近隣トラブルだらけで立ち行かなくなるだろう。まだしも合わせられるのはその辺が柔軟な人間だけだ。それを顕しているのか第一・第二大陸でも各国間を取り持つの役目はやはり人間の国であるらしい。まあ、そこは位置が各国の中心にあるのがちょうどいいっていう理由もあるのかもしれないけど。でも性質の面だって決して無関係ではないはずだ。
ということで、説明が長くなってしまったが要約すると「私たちにとっての守りやすさ」がぜんぜん違うって話をナゴミちゃんはしているのだ。
大陸中が一国としてまとまっている第三と、各国に武力こそあれど大陸中をカバーしているわけでもなければ非常時にその体勢が取れるように整えられているわけでもない第一・第二はその面積の広大さもあって強魔物の侵入を阻むのに大変な苦労を強いられ、反対に強魔物からすれば攻め入る隙がどこにでもあるザルな場所。
そりゃあ、改めて協力をお願いしたところですぐさま連合国に並ぶ連絡網&防衛網を策定、とはいかないよな。それをわかっているからこそ、今一度の相談を提案したコマレちゃんも大いに同意して。
「『強魔物がこちらを狙ってくる可能性が高まりました、更なる用心をお願いします』……とだけ一国ごとに伝えたところで取れる手立ては限られています。なので必要なのは言葉で用心を促すことではなく、各国間でより密接に、より綿密に、より精密に! 新時代の協力体制を作ってもらうべくコマレたちで説得するんです。全ての大陸、全ての国家を守るにはそれ以外に選択肢はないかと」
きらり、と理知的な瞳に輝きを持たせながらそう言い切った。
その言は限りなく正しい。正しいが、しかし。それを受けて私たちは考え込みながら顔を見合わせた。




