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431 どう思いましたか?

「あの……ハルコさん? 聞こえてますか?」


 呼びかけられてハッとする。いけないけない、つい考え込んでボーっとしてしまっていたようだ。生き残りの魔族たちが今日も今日とて集会を開いて話し合っているであろう魔王城跡地──城の周辺には魔王軍所属者が集っていた第四大陸唯一と言っていい集落めいたものがある──の方角へやっていた視線を皆に戻す。


「ごめんごめん、ちょっと魔族の人たちが気になってさ」

「気持ちはわかりますよ。こうして先触れめいた強魔物が来てしまった以上は早くに決断をしてもらわないと困りますからね」


 魔族の方々の話し合いがここまで長引くのは誤算でしたね、と嘆息しながら言うコマレちゃんに頷きながらも、彼女もまた随分と「灰らしく」なっちゃったものだと思う。気になったという文言をこう受け取って、しかも他の解釈の余地を一切考えていないこの態度は、なんだかいかにも管理する側って感じだ。言っていること自体は打ち立てた防衛策に則った正論でありまったく誤りがないだけに、余計にそう感じてしまう。


 と言っても、同意を示している通りに私だって彼女と同じ考えは持っているんだけどね。


「気にしても仕方ない。既に脅威の来訪は伝えている……これ以上急かしたところでどうにもならない」

「だよね~。本格化にさえ間に合えばいいんだから、気長に待つしかないよー」


 ごもっともな二人の言葉にも頷いておく。確かに可能な限りに決断を急ぐようには言っているし、向こうだってもう時間的余裕がないことはわかっている。いよいよ波が起きたってことで一致団結もなされようとしている気配が出ているので、遠からずに彼らも第三大陸へ避難してくれるだろう。


 ナゴミちゃんの言う通り、あとはそれまでの間を私たちが守り抜けばいいだけだ。避難さえ終わったら第四大陸は破棄されるので、私たちも本当の防衛線の維持に集中できるってわけだ。


 それにしてもここが女神の干渉によって一時的に設けられただけの大陸ってことは第四っていうネーミングは本当は間違いなんだよね。人類圏のメインとなる大陸から順番で数字を付けている法則から言うと本物の第四大陸は強魔物で犇めく第五のほうってことになる……いやだからどうしたって話ではあるけど、これからは第四だけ欠かした状態で第一から第五の呼称を使っていく妙な状態になるものだから少しばかり気になったのだ。後世の人にとってはちょっとわかりにくいというか、直感的には理解できない呼称になっちゃうな、と。まーそれも私のあずかり知らぬどうでもいいことと言えばそうなんだけどさ。


「ほら、また明後日のほうを向いて。最近多いですよハルコさん。ひょっとして疲れたりしてます?」

「そ、そうなんですか? あの、良かったらショーちゃんを使ってください」


 数字の欠けを意識したことで無意識に第五大陸がある海の向こうを眺めていた私にまたしても注意と気遣いの声がかかった。それを真に受けたシズキちゃんは──合流時点では全員で均等に距離を取った円形になっていたのにいつの間に私のすぐ横、ぴったりと寄り添うような距離間に彼女はいる──いつぞやにも世話になったショーちゃんベッドを出して私に横になるよう促してくる。


 ありがたいが丁重にお断りしておく。ショーちゃんベッドの魔の魅力は私が誰よりもよく知っているけど、それを利用しなくちゃならないほど疲れが溜まっているってわけでもないからね。肉体的にはともかく慣れない、というか独特な気苦労のある灰としての活動を通して以前にはなかった精神的な疲労を抱えていないと言うと嘘になるが、それにしたってここで寝かしつけられるような深刻なものではないし……そもそもここで私だけベッドに横になるのは絵面がシュール過ぎるっしょ。


 シズキちゃんはものすごく残念そうだった。なんでかこの子、私がショーちゃんベッドに眠るのをとても喜ぶんだよね。いや、喜びの度合いで言えば特別大きそうではあるけどそれに限った話じゃなく、私の世話が焼けること全般をとても喜んでいる節がある。彼女の中の何がそうまで私への甲斐甲斐しさを募らせているのか正直さっぱりわからない……同調効果によってシズキちゃんから尊敬とか愛情とか庇護欲とか、そういう系統の感情がたくさん詰め込まれたものを向けられているのはよく伝わってくるんだけども。それだけに不可解さがさらに増すというか、理由が謎で仕方ないよね。


 まあ、私は私で初めて会ったときからずっとシズキちゃんのことを「理想の妹像」みたいに捉えちゃって、責任感めいた母性ならぬ姉性を抱いてもいるのでイーブンと言えばイーブン。やっていることが返ってきているだけと納得できなくもないんだけど、でも私が向けるものより遥かにシズキちゃんが向けてくるもののほうが大きくて重いんだよな。……確かに彼女とは色々と仲を深める出来事もあったけど、それは他の三人だって一緒だし。どうしてシズキちゃんだけこんなにも私になのかはいくら考えてもわかりそうになかった。


 ドワーフタウンでの「あれ」が原因だとしても、そこからだってお互いに色々と経験してきている。未だに私から目を離せないほどトラウマに縛られているとは思いにくいし、思いたくもないんだけど、それが真相なんだとしたら……もっと時間をかけてシズキちゃんの傷を癒していくしかないな。それ以外に彼女へトラウマを与えた元凶として償える方法はないだろう。


 と、そういう思考までは伝わってしまわないように努めて心を鎮めつつ──三年も過ごせばそういう手法もある程度は身につくってものだ──改めて皆を、特にこの場所での合流を提案したと思しきコマレちゃんとカザリちゃんを見やる。その視線を受けて、二人も心得たとばかりに首肯して。


「急ぎ確認を取っておきたくて、魔族の方々の下へ向かう前に一旦集まってもらいました。端的に訊きますが、皆さんはどう思いましたか? ヘルヒッグスについて、実際に戦ってみて」


 いつものように率先して話を進めるコマレちゃんのその問いかけに、ぽつぽつと感想が上がっていく。見た目が怖かったとか、やっぱり普通の魔物とはレベルが違いそうだとか、でも思ったよりはあっさりと倒せたとか、そういう本当に、実際に相対したからこその感想を。私もそれに倣って言う。


「初の強魔物との戦闘だってことでバリバリに警戒していたせいもあるとは思うけど、それにしたってちょっと拍子抜けではあったかな。倒す上での苦労はぜんぜんなかった。ああでも、想像していたよりずっと知能的・・・なのは少し怖いと感じたかも。侮れないなって」


 第五大陸というヤバい魔物しか生息していない血で血を洗うような魔境の住人。というからにはもっとこう、理性の概念すらないような暴力に取り付かれた生き物と戦うのを想定していただけに、ヘルヒッグスに群れで行動したり仲間を囮にするといったちゃんと考える能がないとやれないような行動が可能だっていうのは、少なからず驚かされた。私との戦闘でも戦い方を選ぶ程度の知能は見せていたわけだしね。


 強さ以上に印象的なのはそこだった。ということでその感想を口にした私に、コマレちゃんはビシッと指を向けて得心を得たとばかりに言った。


「まさに! そう、そこなんですよハルコさん。それこそがコマレも気になって、気掛かりに思えた部分なんです」



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