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408 更なる開花

 降り注いだ神弾から逃れる内にまた一人。ハルコに続きシズキまでもがやられてしまった。崩れ落ちた彼女の体はまったく動かない。それはハルコの倒れ方と同じで、どう見ても二人の様子はただ事ではない。復帰は不可能──少なくともすぐに立ち上がり戦えるようにはならないだろう。


 戦力の五分のニが欠けた。何よりもマズいのは欠けた二者がどちらも近接組、つまりは女神に張り付いてその行動を止める役割にいたこと。それを果たせるのはもうナゴミのみ。彼女だけしか残されていない。


「にゃ……にゃはは。どうしよっかなぁ、これ……」


 勿論、三人がかりでもこのような事態になったのだ。ここからたった一人で女神を相手取ることなど不可能。考えるまでもなく明白なその答えには、ハルコから折り紙付きの明るさと気楽さを持つナゴミであっても持ち前の能天気ぶりを発揮できずにいた。


 だがそれも当然だ──神効はあまりに強過ぎる。正確には、神術を解禁した女神があまりにも強大過ぎると言うべきか。ハルコも、シズキも、まるで敵わなかった。試練の都合上女神は自分たちよりも常に上の段階にいて、それ故に実力差があったのはこれまでもそうだが。しかしあの倒され方はいかにも良くない。


 今の女神と、今の自分たちとの間には、今までのそれとは比べることもできないほどに大きな。とても大きな差が開いてしまっている。あんな「片付け方」を見せつけられたからには否が応でもそう理解せざるを得ないナゴミだった。


「偏在特化魔力!」

「双極武装魔力」


「!」


 そこでナゴミの全身に異変が生じた。と言ってもそれは彼女にとって良い異変だ。──肉体に彼女由来のものではない魔力が漲っている。それもふたつ。ひとつは武器のようにナゴミの体に寄り添い、もうひとつは鎧のように纏われている。その正体は言うまでもなくコマレとカザリの支援だ。


 発生点を自在に指定できるコマレの偏在魔力と、二種類を完全に一体とするカザリの卓越した光と闇の魔力操作。共に優れた技術によって成り立っているそれらの技は、先程までは女神への攻撃・妨害へと使用されていたもの。その用途を変えて二人はナゴミへの補助に全力を注ぐことにした。


 ここでナゴミまで倒れてしまってはいよいよ近接組が全滅し、そうなると女神への勝機がほぼゼロになってしまうからだ。彼女らも数々の戦いを経て来た手前このような弱音は吐きたくないだろうが、しかしハッキリ言って女神は格違いの相手であり、支援やいざというタイミングでの狙撃にこそ強みがある火力組だけが生き残っても試練に合格するのは非常に難しい。それはどうしたって否定しようのない現実というもの。


 だからナゴミを守るのだ。せめて今は倒れている二人が戦線に復帰できるまでの間だけは、なんとしても。そのためには女神に直接術をぶつけるのでは駄目だ。これまで通りのやり方では今の女神には通用しない──なのでカザリとコマレは術をぶつける対象を変えて、ナゴミにその作用を及ぼすことにしたのだ。


 益と害は表裏一体。どんな術も使い方によっては益にもなり害にもなる。女神にとっては害となっていた術でも少しその仕様を変えればナゴミの益になる。本来なら治癒術でしか成し得ないはずの「他者へ魔力を付与させる」という荒業を事も無げに叶えてみせた二人は、自身が攻めることはおろか守りさえも完全に捨ててただ一人の仲間へのフルサポートを実行。


 結果、偏在魔力と双極魔力によって強力な矛と盾を得たナゴミは、それだけでなくそのふたつがもたらす強化効果によって相乗的に身体能力も向上しており──言うなれば三人分の力が掛け合わさった最強を超えた形態となった。


(更なる開花。やはり、あの二人に関して言えば清閑や合一といった小手先・・・の習得は必須ではありませんね)


 それを経ずしてここまでの成長を遂げるのだから、カザリとコマレに限ってはいずれ自力で神術にまで辿り着くのではなかろうか。神の縛られる理からすればまず有り得ないことではあるが、しかし絶対的な原則に含まれるものでもないためにあの二人ならばあるいは、と女神は思う。五人の中で才能の密度・・で言えばカザリとコマレが突出しているために、そしてそれはいくら素質ある者へ神の祝福が与えられたと言っても「それだけ」では決して届かない高みでもあるために、決して起こり得ないことではないと予想する。


 ただし。それも楽しみな未来ではあるが、今の彼女たちには関係のないよしなしごとである。ここで問題になるのは支援術の新たな境地を見せた火力組ではなくそれを一身に受けたナゴミだ。履かされたその下駄を彼女が十全に扱えるか。あるいは扱う以上・・へと至れるかどうかが肝になってくる。


 ナゴミとて有している才能は本物。いきなり手に入れた力だろうと、それがどんなにピーキーなものだろうと──無論のこと三人分の魔力が一人へ詰め込まれているのだからそれを操るのは尋常のやり方では間に合わない──ナゴミならばなんとでもしてしまえる。と、それもまた女神は彼女を見出した者として疑っていないが。けれどそれに要求されるレベルがただ過不足なく操れるかどうかではなく、その域を飛び越えて、十全ではなく万全。否、全にでも操らないことには戦闘が戦闘として成り立たないとくれば、如何にナゴミが優れた戦士であろうとも才の一点張りだけではなんの保証にもなりはしない。


 果たして単独でどこまでやれるのか。自身に問われているもの、突然に背負わされた責任の重さをナゴミも理解している。だから彼女は一度、脱力しながら大きく深呼吸をした。それは突如として巨大な力を得た者らしくもない静かな所作だった。まるで、魔力と共にカザリやコマレの冷静さまで借り受けたかのようにナゴミは荒ぶる様子を見せず、女神を見据えるその瞳はどこまでも澄んでいて。


「──うん!」


 何かを掴んだのか。それとも自分ならできるという鼓舞なのか。力強い頷きを以て全身に力を入れ直したナゴミの爆発的な脚力が彼女と女神の距離を瞬く間に詰める。少しでも時間を稼ごうと待つこともなく自ら打って出るか──意気や良し。女神はその心の強さに実が伴うかを見定めるのみだ。


「神効戟」


 迎え撃つ形で放った力はナゴミごと周辺を叩く。それは神効の波、言うなれば神効戟波。直接対象へ打ち込むよりは拡散する分だけ破壊力が落ちるがそれでも人間一人、灰一人を押し留め、押し除けるには充分。いくらナゴミが幾重にも魔力強化がかけられた前代未聞の状態にあるとはいえ神の力を真正面から浴びては耐えられまい。吹き飛ばされるか転がされるか。どれだけ良くても足が止まるのは必至。そこへ直の神効戟を当てるつもりでいた女神だったが。


「おや」


 神効戟が生み出す衝撃波とまともにぶつかりながら、しかしナゴミはほんの少し速度を落としただけで構わず突っ込んでくるではないか。吹き飛びも転がりもしない。どころか、僅かにさえ足が止まることもない。これは女神にとって完全に予想外。驚きながら彼女はその訳を神なる目で暴いていた。


(カザリが与えた魔力の鎧が、神効戟を受け流している)


 流動性を持ったそれは単なる防壁ではない。装備者を守ることにかけては鎧以上だ。これは明らかに女神が見せた神力流しから着想を得たもの。コマレだけでなくカザリもそこから実戦に耐え得るだけの技を開発したということ。


 ナゴミは鎧の性能がわかっていたのか。わかっていたとしてそれが本当に神の力を掻い潜れるかどうかまでは知りようもなかったはず──と、そこまで考えて。間近に迫ったナゴミの落ち着きと強い意志を共に感じさせるその表情を眺めて、女神はそうではないのだと悟った。


「スペシャル──」


 拳が唸る。



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