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396 このまま押し切る

 三段決め。ナゴミちゃんと、カザリちゃん&コマレちゃん。陽動役と言ってもいい私とシズキちゃんが一段目を務めるのは決定としても肝心の二段目と三段目に関してはどっちを前後させようかなんてことは、考えていなかった。そこまで細かく詰めるにはさすがに同調による以心伝心では足りず話し合う必要があったし、またそこまで詰める必要性もなかったからだ。


 とにもかくにも火力組の二人と近接オンリーのナゴミちゃんは攻撃手段が大きく異なるために、そしてどちらも「本気の火力」を求めようとすると相互で「合わせる」ってことができなくなるからには攻撃タイミングを分けるのは決定として、本命と、それに対する裏の本命をどちらが担うかを決めたのは──実はその場の勢いだったりする。


 私とシズキちゃんが役目を果たせたそのとき、先に攻撃準備が整っているほうが二段目でいいだろう。っていうくらいの軽い調子の合わせ方で私たちは行動に移ったのだ。それくらいなら言葉なんてなくても通じる上に、いい意味での行き当たりばったりがかえって女神に先を読ませない効果も生むかもしれないと期待もした。まあそれは本当に小さな期待であって、本音としてはやはり、女神の前でそこまでガチガチに作戦を組んでは当然に対応されてしまう──私たちの工夫を認めて「あえて食らう」という女神最大の譲歩にして付け入るべき隙がなくなってしまうのではないか、っていう恐れもあってのことなんだけど。


 当意即妙の三段決めはそういう意味でも淀みなく、そして誰一人の失敗もなく五人全員がそれぞれの持ち味をなんとしても活かす策であり、是が非でも活かさなくてはいけない策であり。そして見事に私たちはそれに成功したわけだ。


「ハぁッッ!!」


 突き出される拳は、とんでもない一打になると打つ前からひしひしとしていた予感を裏切ることなく、むしろ予想さえも超えていかんとする。


 ナゴミちゃんの高まり方がすごい。彼女から伝わってくる力の気配というか迫力が、自然と三段目を決定し、その通りの順番で攻め、今その成果が試されようとしている。頼む。どうか効いていてくれ。女神の身にまで届けとは言わないから、その前段階。神力光が剥がれるか、せめて剥がれかけるくらいまでは行ってくれ──!


「あっ……!?」


 思わず声が出た。結果を見定めんと注視した私の目に飛び込んきたのは、受け止められているナゴミちゃんの拳。女神がその掌で防御している姿だった。


 神力光を身に纏って防御力を引き上げた上で、直のガードまでしている。そのぶんだけ神力光への削りとしては弱くなっており、弾幕を受けたあとよりもいくらか光が小さくなっているとはいえまだ機能は生きている。それは間違いない。


 削り切れなかった。ナゴミちゃんは一打の威力に全賭けしていたためにそれの躱しやすさとか守りやすさとかは一切考慮していなかった。というか、神力光を纏っている状態の女神は移動も防御もしないんだから──ここまでしてこなかったんだからそりゃ考慮するわけもない。威力だけを求めて最も殴りやすいフォームとポジションで挑むのは当然の選択で、それだけに女神からすればこの上なく受けやすい拳だったことだろう。


 そうして呆気なく止められた。それが三段決めの結果。臨機応変に合わせた策は神力光を破るという目的を果たせなかった、という結果に終わった……が、しかし。


 その点だけを見るなら確かに失敗は失敗。だけれど、気落ちする必要なんてない。だって神力光は着々と削れていっているんだ。まだ健在とはいえ当初の万全の状態からすれば落差もある。それに、女神がわざわざ防御したこと。神力光任せに不動のまま攻撃を受ける、というこれまでの行動パターンから外れたのは明確に、そうしなければナゴミちゃんの一撃が神力光を打ち破っていたと。無力化していたと暗に告げているようなものだ。


 そうでなければ直接ガードなんてしない。神力光だけで防げるならその意味もないんだから。そしてそうでなかったからには、まだ女神に硬さを与えている神力光も私たちの目に映るほど堅牢無敵な壁ではなくなっている。あと少しでその機能を失うというところまで近づいているのは間違いない。


 あと、ひと息! 再展開や神力の補充みたいなことをさせて復活さえ許さなければ……!


「このまま押し切る!!」


 女神の現状を認識したと同時に私はそう叫んで駆け出していた。全速力で、糸繰りも並行しながら。皆も同じようにもう行動に移っている。ナゴミちゃんはその場に足を止めたまま連打を放ち、それに加勢するようにシズキちゃんも突っ込んでいる。そして女神の身体に纏わりつくように灰色・・の魔力渦が蠢いている。コマレちゃんの新術にカザリちゃんが例の灰色の魔力を合算(なんてことができるのかどうかさえも私は知らないが)させているんだ!


 二人の考えはわかる。もはや魔弾が強力になり過ぎて殴りかかっている近接組の隙間を縫って射撃する、っていうのがスペース的にも着弾時の衝撃的にも不可能になってきているものだから、この場における支援の最適解は敵への直接的な阻害。それを果たすに魔力渦は力不足と先ほど言ったばかりだけどそれはあくまでコマレちゃん単体での話。そこにカザリちゃんの新しい魔力? 術? である灰色のアレが加わるなら魔力渦の出力はもっと上がる。

 

 しかも今の女神を覆う神力光は弱ってもいるんだ。効力はきっとちゃんと出る。そして女神が得意とする流れるような手捌きでのブロッキングや掌でのシャットアウトを塞き止めてくれる──はず。「きっと」だとか「はず」だとか希望的な観測だけで断言ができないのはもどかしいところだけど、しかし不確定ながらに恐れもない。


 私の心はちゃんと仲間を信じている。その信じる心に皆からの信頼も返ってきている。私たちは互いが互いを信じ、鼓舞し、高め合っている。これこそが同調の本当の効果! これに比べたら秒もかからずある程度の意思疎通ができるくらいのことはなんてこともない。そう言えるほどに相乗が劇的だ。


 女神がまず同調から始め、その前段階である想起と静清をじっくりとやらせた意味もそこにあるんだろう。今ここにある形なき「それ」を目指すために、「これ」を戦いの中で花開かせるために。その上でただの開花で終わらせずに大輪へと至らせるために──ああ、わかったよ。もうよくわかっている。


 期待と言うなら、希望と言うなら誰よりもそれを抱いているのは私たちではなく女神なのだと。女神こそが私たち以上に私たちを信じている。その可能性を見出し追い求めていると、その想いまでもが今なら感じ取れる。


 戦う内にさらに彼女とも通じ合ったか。灰らしい灰になるために手に入れたいくつもの兆しがそうさせたのか。どちらにしたって不思議な感覚だった。


 どういう理屈があるにしろあれだけ遠くにいて、少しの理解さえもできなかった女神が、今ではこんなに近い。もちろん立場だとか力の差だとかで見るならまだまだ彼女との距離は遠く隔たっているんだろうけど。でもこうして女神が私たちの成長を信じ、私たちが女神の導きを信じているこの瞬間は、確かにそこに距離はない。隔たりもなく、差もなく、限りなく私たちと女神は一個に近しい。


 そうと気付けるのもまた、灰として高みへ昇っていっているから。昇っていけている証拠なんだろう。


 ならばあとは、ここにあるものを。この手の中に掴み始めているものを、思い切りぶつけるだけでいい。


「神奏糸──奥義・・!!」

「!」

兆至糸きざしいと!!」



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