395 特大の牙
神力光を引き出すのが私とシズキちゃんに課せられた役目だとは言ったが、これだけでは疑問に思う方もいらっしゃるかもしれない。反則じみた硬さになるヤバい防御法が神力光であるのなら、それを引き出すことよりも「使わせない」ことに注力したほうがいいのではないか、と。戦術的な観点から言って攻撃を通すための最適解はどう考えてもそちらであるからして、その疑問は極々もっともなもの……なのだけども。
しかし最適解というのは常に必ずしも実態に即したものだとは限らない。もちろん神力光を使わせないことができるのであれば──つまり女神がその防御法を選ぶだけの暇もないくらいの、展開猶予も与えないほどの速攻が叶うのであれば当然に私たちだってそれを選ぶってものだが、現実問題そうはいかないから困っているのだ。
これまでの戦いを振り返ってみれば明らかな通り、女神の神力の扱いは──彼女が神であり、神の操る力こそが神力なのだから実に当たり前だが──べらぼうに上手く、私たちとは操作の次元が違う。その精度も、速度もだ。ましてや本番に入った現在の女神の段階は勝負の開始当初とはもう比べ物にならないレベルにある。その女神が我が身を守るために展開する神力光は、その発生速度がシャレにならないくらいに速い。もう速過ぎていつが展開の始まりでいつが展開の終わりなのか目も気も尖らせて注視していてもまったくわからないくらいだ。
なのでどうしようもない。術(と呼べるのかどうかは知らないけど)の成立がここまで速い、速攻ならぬ速防であるのならそれを未然に阻止するだとかそれ以上の速さで攻撃し続けるなんて案はちっとも現実的ではない。なので私たちは最適解の次に期待の持てる、そしていくらか現実的なもうひとつの策を最初から選んでいた。それ即ち──神力光を使わせないのではなく、使わせた上で「ぶち破る」という策を。
……や、それのどこが策なんだと言われたら何も言い返せないくらいに力押しのプランだってのは否定のしようもなくその通りなんだけど。けれどそれが唯一の攻略の道となればその策とも言えない策を押し通して押し抜ける以外にないわけで。
言っておくと攻略っていうのは神力光を攻略するって意味じゃない。女神を攻略するって意味だ。女神を倒す。ないしは、合格だと認めさせるには、神力光を突破しないことには始まらない。だって女神も初めから突破待ちで神力光を使っているんだろうからね。だからこその展開速度であり、ヒントだった。
神力光の発動時に女神は動いていない。一切身じろぎしないんじゃなく、顔も目も口も手足も動くには動いているけど、でも移動だけはしていない。神力光の発動から解除までは彼女は常に同じ位置にいる。それが神力光という防御法の制約──として女神が設定したもの、なんだろうな。
女神はまだ本気じゃない。まだまだ本域には遠く至っていない。それなのにこの時点での神力の使い方でまさか「移動できなくなる」なんて制約がついてくるとはとても思えない。女神の技に、神様が実行する神業にそもそも制約などという不完全さが付随するかっていうのも疑問で、例の干渉度なんかを左右する要素を除けば私たちの常識で思い付くような縛りだとか不便だとかはまず存在しないんじゃないか、とも思うけれど、それはともかくだ。
実際がどうであれ女神がどういうつもりであれ、神力光は決して全てを延々と阻み続ける無敵の防御なんかではないってこと。そこだけが私たちには重要だ。動けないってだけじゃない。神力光にはきっちりと「上限」も設定されている。本当に無敵の守りであれば常にそれを張っていれば私たちにはどうしようもないし、その時点で試練が試練足り得なくなる。なので逆説的に……いや状況的に、女神がそこまで無法の防御を行うわけがないってことも自明になる。
反則的に硬い神力光にもいつか必ず限界が訪れる。それを教えるために女神は神力光を解禁してからもわざとそれを使わない防御をしたり、使うときにはあれだけドヤ顔で(というのは私の主観だが)見せつけた転移も高速移動も併用したりしない。それは試練のルールを提示する行為であり、私たちが何をすべきかを教え諭すための教示する行為でもある。
神力光を打ち破って女神に攻撃を届かせる。それが本番において私たちがやるべきこと。そこが合格なのかはたまた最初の関門に過ぎないのかは成し遂げてみなければわからないが。どちらにしたってまず目の前の課題をクリアするのが先決。ということで私たちの意思は同調効果で話し合いも経ずに既に固まっており、そのために私とシズキちゃんが前に出るっていう選択をしたのだ。
神力光を引き出すこと、そして少しでもいいから削ること。それが私たちの役目だと言ったのはつまりそういうことであり、そのお膳立てが済んでから通さんとするこの攻撃。カザリちゃんとコマレちゃんのさらに進化した協力弾幕こそが神力光破りの本命だってことだ。
私の糸繰りが神力光に軽くシャットアウトされてしまったのだって、悔しいと言ったのに嘘はないが半ば予定通りでもあった。最初からそれだけでどうこうできるとは考えていなかった。目的を果たしたというのも嘘でも強がりでもなく純然たる本心からのものだったのだ──それはそれとしてマジで超悔しいけどね!
ま、まあ私個人の女神への対抗心はともかく、大事なのは個人じゃなくて全員であり、一手上の勝ち負けじゃなく長い目で見ての戦局だ。こちとら最初からすぐに神力光をどうこうしようなんて狙っちゃいないし、もっと言えば女神との戦いそのものを長期スパンで考えている。何せこの最終試練へ辿り着くまでにいくつのチャプターをクリアして(させられて」、それらひとつひとつにどれだけの苦戦を強いられて時間がかかってきたか。その経験と前提があるからには最後のチャプターにだって相応の覚悟を以て望むってもの。
これまでの全チャプターをひっくるめた以上の苦戦をして、長い時間がかかる。そうと断言するのも自分たちを信じない後ろ向きっぷりがあってイヤなのでしないけれど、最悪、最悪ですらもなく「そうなってもおかしくない」っていう想定をしているんだ。私だけじゃなく、私たち全員がね。
想いは色んな意味で一丸になっている。私たちはこの上なく団結している。それが結集して結晶になったようなものがこの灰と四色の魔弾超弾幕! 私たちの連携の誘いに乗って全弾を余さず受けた女神はいったいどうなったのか。魔力の残滓による薄煙が晴れて見えてきた姿は──。
「……!」
最悪なことに。否、これもちっとも最悪でさえなく当然に、女神は健在だった。その身には傷ひとつ付いていない。
その、身には。
「頼んだよ──ナゴミちゃん!」
「うん」
「!」
いつものナゴミちゃんらしからぬ短い、ほんわかさを感じさせない返答。それが返ってきたときにはもう彼女は女神の懐にいた。その速度。ついさっき驚かされたばかりの高速移動よりもさらに速い、もはや縮地──本人が動いているのではなく距離そのものが縮んでいるようにさえ感じさせる移動法のことだ──の領域に達している彼女の極まり方には、さすがに女神も瞠目している。今の女神にそれだけのリアクションをさせるくらいにナゴミちゃんは速くて、そしてその構えた拳には多大な力が集っていた。
神力を練り上げて凝縮させる。それを限りなく魔力的に、慣れ親しんだやり方と同じように行なっているナゴミちゃんが次に繰り出す一撃は──本命の裏の本命。私たちが届かせるべく用意した特大の牙だ……!




