394 やったれ火力組
神力同士の激突。女神の纏うそれは純粋な神力そのもので、シズキちゃんは一体化している異能力と共に殴打へ神力を乗せている。純度100パーセントの神力を防御に使うのと攻撃の補助・強化として神力を用いるのと。どちらが技術的に高次に位置するかはまだまだ神力を操る者としてひよっこの私には正直判別もつかかないが、しかし技術としてはともかくこの場合の優劣はこんな私の目にもあまりに瞭然だった。
桁が違うのだ。シズキちゃんの扱っている神力が10とか20とか、間違っても三桁には届かないレベルだとすれば女神の放つ神力は悠々と100を超えている。間違っても二桁には下らない。それだけの出力差があればシズキちゃんがどれだけ技術を凝らそうと太刀打ちなんざできやしない。仮に女神の守り方が神力の扱いとしては非効率なそれだったとしても、ここまで規模が違うなら効率性なんて無視してしまえるんだからどうしたってシズキちゃんの拳は通用しない──が。
「ふッ、ぅううう!!」
私にさえも明確に見えたのだ。打ち込んでいる張本人のシズキちゃんだって自身の拳が神力光を打ち破れるものではないと気付いたはず。打撃が命中する前から。命中したあとにはもっと厳然とその事実が告げられたはずだ。けれどシズキちゃんは通じないと知りながらも本気も本気で殴り、そしてそれが神力光に止められてもなお拳に力を込め続けている。ショーちゃんと神力を全力稼働させて強引に女神の守りを突破しようと。それが叶わないことは知っているだろうに、ちっとも諦めていない。
ゾクリとする。その執念、その在り方、その戦い方。これをシズキちゃんがやっているっていうことに血が沸き立つような感覚を覚えた。これはそう、まるで自分を見ているような。そこにもう一人の私がいるような──シズキちゃんの理想とする「立ち向かう者」のイメージが限りなく私と重なって伝わってきたことで、より鮮明にその幻が浮かび上がる。
そこまでかシズキちゃん。君って子はそこまで私のことを買ってくれているのか……だったら! それを買い被りだなんだと斜に構えるんじゃなく、私も真っ直ぐに! その重過ぎる期待ってやつに正面から答えてあげなくっちゃね!
「気張れ、私の糸! お前たちはまだ死んじゃいない!」
砕けてあとは散るだけになった突貫糸たち。に、再び命令を下す。普通なら形が崩れれば糸繰りの命はそこまで。あえて自分からバラして作り直したり、あるいは最初の作成時点で変化する余地を残しているのでもなければ操作権が失われ、それ以上は作り手である私にも干渉できなくなる。だがこれは魔力だけで糸繰りを行なっていた頃のルールであり常識。常識知らずを体現している女神がそう示しているように、魔力へ神力が加わっている今ならかつての私を縛っていたルールももはや関係がない。
できるはずだ。できると直感で思ったならそれはもう確約と同じだ。灰っていうのは、神力っていうのはそういうもの。もう消え行くばかりだった糸に感情をぶつけるようにして術的なリンクを辿れば──やはりそこにあった。そして繋がった。糸共々に消えようとしていたそれを私は繋ぎ止めて手繰り寄せて、再生成へと突入。突貫糸の残骸同士を結んで別の技へと生まれ変わらせる!
「斬糸、プラス大蜘蛛糸! 絡み付け!」
以前までの蜘蛛糸よりもずっと重厚に編み込んだバージョンアップ版である大蜘蛛糸。を、切れ味を持たせた糸である斬糸で作って女神の体中へ纏わりつかせた。言うまでもないことだがシズキちゃんは巻き込んでいない。ちゃんと彼女を避けるようにして女神だけを捕まえているし、そうすることになんの労もなかった。思った以上に壊れかけた糸の操作難度は高くない。というよりも、思った以上に現在の私の操作精度が高いのだと言うべきか。
おかげで大蜘蛛糸の出来もバッチリ。ついでに斬糸で持たせる切れ味も以前のそれとは運泥だという自覚もある。今の女神は言うなれば全身に名刀の刃を当てられてぐっと抑えつけられている状態だ。もちろん常人がそんな状況に陥れば一瞬で全身バラバラのパズルになってしまうが、神力光を纏っている女神にそんな心配はない。
「大循環とやらを展開・維持したままでこうもいくつも複雑な糸繰りを可能にするとは。魔術の素養は確かに持たないはずだというのに……はるこ、時々あなたが器用なのか不器用なのかわたくしにもわからなくなります」
やはりこれでも攻撃は通っていない。凪の表情で淡々と私の寸評まで述べ始める始末だ。言ってる内容もその態度もめちゃムカつく。そして気合入れて作った大蜘蛛糸さえも女神からすれば感心止まり。それも技の出来というよりも、今もまだ頭上で神弾たちを回転させたままで封じている大循環。女神の技に干渉しているそれを踏まえて評価した上での感心でしかないってのがますますもってムカつくが、だとしてもだ。
きりきりと引き絞って圧力をかけていく大蜘蛛糸から返ってくる感触はなんとも硬くて嫌になるほどだが、突貫糸に続いて神力光へ負担をかけつつ女神の動きも──これは希望的観測込みだが──縛っているんだから上出来と言っていい。極端に言えばシズキちゃんも私の糸も、全てはただのリソース削りに過ぎないんだから。
「ほう。これは、また」
女神が動きを止めたと見るやそこに到来する灰色の魔弾の群れ。さっきまではおそらく一発か、多くても数発が限度だったろう新しい必殺技。それをカザリちゃんはこの僅かな間に連続で無数に撃てるようにしたんだ。そして、その灰色の魔弾を守るように四色が綺麗に折り重なった魔弾も追従している。これはコマレちゃんの本気の射撃攻撃だ。
魔力渦では神力流しの劣化にしかならず、それでは──さっきまでの女神ならまだしも──現在の神力そのものを纏い始めた女神にはなんの効力も発揮しないと判断したのだろう。だから女神の足を止めたり、神力光を引き出させたりする役目は私とシズキちゃんへ任せて自分は攻撃準備に専念していたんだろう。それも単なる攻撃ではなく、本命になり得る火力を有するカザリちゃんの灰魔弾をより効果的にするための補助手段として四成魔弾を放ったんだ。
四成魔弾自体の完成度も上がっていることが込められた魔力と神力からも明らかな上に、灰魔弾の護衛兼露払いとして一発につき四発も付き従っているその光景はあまりの手厚さ、気の利き具合に仲間である私でさえも呆気に取られる思いだった。いやぁ、サポートに回ったときのコマレちゃんの有能さってば本当にすごい。他の追随を許さないとはこのことだろう。
コマレちゃんにしても最大火力である四つの属性を混ぜた魔弾はこれだけ一気には撃てなかったはずだ──ついさっきまでは。カザリちゃん同様に、この短時間でそれができるようになった。できる自分へと成長したのだと思うと、震えてしまう。無論これは恐れからくるものじゃなく、チームメンバーのあまりの頼もしさからくる歓喜の震えだ。
「行っけぇ! やったれ火力組!!」
技を放つときにも変に叫んだり猛ったりしない冷静沈着な二人に代わり、私は喉も枯らさんばかりに声を張り上げる。それが何になるってわけでもないがこの気持ちだけでも乗せて魔弾の威力の一助になってくれたらと願いながら。
女神は、これもあえてのことだろう。大蜘蛛糸を振り払おうともせず、素早く離脱を行うシズキちゃんを追おうとする素振りすらもなく、身に迫る魔弾たちを見上げ眺めて──着弾。再びその光る全身が攻撃によって覆い隠された。




