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393 好きにさせてもらおう

 私の目から見てもシズキちゃんの無変パンチ──変形が生み出すエネルギーを外には出さず内部にだけ閉じ込めて圧をかけ続け、敵に接触する瞬間にだけ打撃の衝撃と掛け合わせて威力を跳ね上げるその技の完成度は、文句なしに抜群だった。ショーちゃんの操作はさすがに本家本元って具合だし、打撃との合わせ方もとてもじゃないが今日まで肉弾戦を一切してこなかったとは思えないほどに完璧で、打ち方自体もかなり堂に入っている。


 体格が良くなったってだけじゃなくシズキちゃんの動きのキレも大幅に向上している。それこそ、もう少しでナゴミちゃんとだって打ち合いができるんじゃないかってくらいの見かけ以上の急成長を果たしていて……なのに、それだけの完成度で放つ無変パンチでも女神は掴み取った。しかもそれだけじゃない、私が放った激槍糸ももう片方の手で危なげなく防いでいる。


 手前味噌だが私の攻撃だって決して温くはない。繰り返しになるけど、現在使用しているこの糸は神奏糸である。神力で「段階の上がった」新次元の糸だ。その新しい糸で槍糸──遠距離用の糸繰りとしては出の速さも威力も申し分なし、欠点のない使い勝手のいい技として愛用してきたそれをバージョンアップさせたのだから新技である激槍糸は相当に強力。


 神力そのものは、馴染み切っている魔力と違い操作にまだまだ一癖も二癖もあって万全とはいかないものの、不思議なことにその神力込みの魔力で作成した糸に関しては魔力オンリーで作っていた頃よりも遥かに利便性が増しているのだ。だから糸誘いなんていうこれまでにやったことも試そうと思ったこともない技だって編み出すことができた。神弾という放出された神力の塊とはいえそれを誘導できるのだから私の糸も、その操作技術も捨てたものではないと自負している。


 それだけ性能の上がった糸の力を存分に活かし、以前の槍糸よりも堅牢に作り、それでいて作成速度も上げて、弾速さえもアップさせて放ったのがこの激槍糸なのだ。素材も作成法も射出力も。槍糸という技を構成する要素の全てが軒並みパワーアップを果たしているまさしくの完全上位互換。シンプルに見えて私の中では傑作に位置する攻撃用の新技──が、シズキちゃんの必殺拳と一緒に軽く止められてしまったのだから少なくないショックを受けてしまう。


 しかも何がそんなにショックかって、女神が例の光。カザリちゃんとナゴミちゃんの協力弾幕さえも防ぎ切ってみせたあの反則級の防御を今はしていないって点だ。私たちが攻撃に入ると同時に女神はあれを引っ込めた。その上で堂々と受けに回り、その態度の通りにごく簡単に、光に頼ることなく二発まとめて受け止めた。


 神力光を纏うまでもないと判断されたことも、その判断が正しかったと証明されたことも、あまりに悔しい。悔しいがしかし──収穫はあった。


「わざわざ消したんだ。そこに鍵があると思っていいんだね」

「わたくしの何を視て、何を想うか。それはあなた方の自由であり義務。どうぞお好きになさってください」

「なら遠慮なく、好きにさせてもらおうっ!」

「!」


 激槍糸を解除! からの、鞭糸へと再生成!


 別の技へ作り変えるにしても鞭糸に関しては糸の発生元である腕を直接振るうことでスナップを発生させて攻撃していた都合上、どうしても作った糸全体を鞭糸に変える必要があった。だが神奏糸ならご覧の通り、根本や幹の部分はそのままで激槍糸の本体である穂先だけを鞭糸に変えても攻撃が行える。


 何故なら糸の性能向上により操作性も上がっているからだ。今の私は腕を振るわなくても糸越しに必要な動きを伝えられる。いや、意思を伝えるだけでその先の鞭糸だってビュンビュン動かせる! そのおかげでこうしてシズキちゃんを捕まえている女神の手を打ち払うこともできたってわけだ。


 ピシャンと──音こそ軽いが元から対生物相手には強かった鞭糸が神力で強化されているんだからその威力はかなり高い、と思いたい──鞭糸に手首辺りを打たれた女神は思わずといった様子でシズキちゃんの拳を手放した。それもなんだかわざとらしく見えてしまうのがなんとも言えないところだけど、まあいい。なんであれシズキちゃんを助けられたならヨシ。遠慮なく次の攻撃に移るとしよう。


「もういっちょ再生成、十連突貫糸!」


 女神を叩いたばかりの鞭糸をバラして神力アップデート版の突糸である突貫糸へと作り直し、その完成を待たずして早速発射させる。前までなら形が出来上がるまでは撃ち出すことが(主に糸を動かすためのイメージ力の不足で)できなかったが、今ならそんな不安もない。完成前に射撃へ入っても目標へ向かって飛ぶその間にも作成は進み、着弾する前には出来上がる。速度も相当なもの。具体的にはこのように女神のすぐ傍から発射しても接触する瞬間にはちゃんと完成が間に合っている程度には、速い。


 これだけ作成が速いならちゃんと出来上がってから撃っても到達速度は未完成の早打ちとも大した差は出ないが、しかし大したことのないその小さな差が今は値千金の大差になる。女神の反応速度から言えば間違いなくたったこれだけの時間の節約にだって意味があるはずだ。


 女神の反応も、私の攻撃もそこまでの速度感じゃないってんなら僅かな差があろうがなかろうが同じだけど、実際のところ女神はもちろんとして灰(の見習い)である私もかなりのスピードで攻防を交わしている。そのやり取りにおける時間感覚は非常にシビアなものであり、一秒どころかゼロコンマ一秒を争っているんだからほんの小さな時短が馬鹿にならない。走力といいさっきから私がとにかく速さを求めているのにも理由があるってことだ。


 槍糸と同じように進化した突糸が至近距離から最速で女神を襲う。単発だった激槍糸は余裕に止めやがった女神もこれにはさらなるアクションが求められる。全て手で捌いて打ち落とすか、もしくは神力で防御するか。どちらにしたって女神が守りに失敗するとは思っていない。工夫も威力も申し分なしと自信を持って言い切れるだけの攻撃ではあってもそれひとつで崩せるなどと自惚れはしていない。


 まず、防御のための大きな行動を取らせる。それが私の目的だ。


「──いいでしょう」


 確かに聞こえた呟き。受けて立つと言わんばかりの静かな矜持を感じさせるその言葉と同時に、女神の全身に例の光が宿った。高密度に纏われた神力! インチキめいた防御力を誇る神業であるそれを破れるか。やってみようじゃないの……!


「突き刺され!」


 接触に合わせて既に限界いっぱいの神力をもっと振り絞り、もっと注ぎ込むつもりでそう叫ぶ。突貫糸で重視しているのはその名の通りに貫通力だ。カザリちゃんの術をお手本に私も突糸にもっと高い突破力を持たせられるようにと生み出した、ハッキリ言って対女神の神力用に開発したも同然の新技。神力光を貫いてくれ、なんて贅沢は望まないがせめて少しでも防御力を削ってくれと願いを込める──!


「くっ!」


 残念ながらと言うべきか案の定と言うべきか。突貫糸でも、あれだけ好条件での攻撃が決まっても神力光は揺るがず、十発全てをその身に受けながら女神はけろりとしている。


 これでは多少なりにも削りの目的を果たせたのかどうかさえ判然としない。さすがになんの影響も及ぼせていないとは考えられない、というか考えたくないが。しかしなんにせよ防がれてしまったものはしょうがない。仮に神力光をまるで弱らせられていないにしても、女神に受けの姿勢をもう一度取らせた。それだけでも思惑は叶っているんだからよしとしよう。


「やぁっ!」


 神力光に激突して砕けた突貫糸の残骸を掻き分けるようにシズキちゃんの無変拳。最初のそれよりもまたさらに勢いを増している必殺パンチを神力光へと叩きつけた。



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