392 五人全員で
「まずはアレをどうにかしないと、だよねー……」
身構えながら困ったように呟くナゴミちゃんに私も首肯を返す。
そうだ、あの纏われている光。間接照明みたいな見た目の和やかさとは裏腹にあれが絶対的な防御力を誇っていることが判明したからには、まずはそれを剥がすか破るか。とにかくどうにかして攻略しないことにはまず攻撃を通せないっていうんだから始めるべきはそこからだ。
と言っても、さらなる成長を見せた火力組のありったけの魔弾を全部まともに浴びてもビクともしていないくらいだ。正攻法でぶち破るのはまず不可能と思っていいだろう。神力流しを乗り越えたカザリちゃんの狙撃──複数ではなく一発に全力と全意識を注いでいるあの術ならまだしも可能性を感じなくもない、が。いくらカザリちゃんが今このときにも成長していると言っても厳しいだろうとも感じる。
自分の周囲に神力の力場を作ってそこに踏み入るものの進行方向を乱すのが神力流しという力の使い方。だったものが、神力を自分の身そのものに纏わせることで超硬度を得るっていう方向性に変わった。どちらが防御法として真っ当なものか……というより神力の使い方に無駄がないかは明らかだ。
神力流しは所詮は児戯だった。や、あんだけ苦戦させられた技に対してそんな表現は私だってしたくないけども、けどそもそも女神自身が超絶に硬くなるっていう守り方に比べればあんなのは全然、いくらでも突破のしようがあるマシな守り方に過ぎなかった。それは紛れもない事実である。
現在の女神は規模の増した神力を限りなく無駄なく我が身の守りに使っている。今より規模が小さくてしかも遊んでいたときとはもう比べ物になりやしない。つまり神力流しとあの光の間にはそれだけ隔絶した突破難度の差があって、火力組の中でも一撃の威力に重きを置いているカザリちゃんであってもこれを攻略するのはおそらくほぼ無理。いや、彼女に限らず誰だって無理だ──一人ではどうしたって女神に届くことはない。
だから、やるなら五人全員で。皆揃ってどうにかするしかない。
「単発火力……火力組ならカザリちゃんで、近接組ならナゴミちゃんだよね」
「! わかったよハルっち。ウチに任せて!」
意図は伝わっている。ナゴミちゃんだけじゃなく、離れている火力組にもしっかりと。そういう感覚があった。前に出る私に対して向こうでもコマレちゃんが合わせてくれようとしているのがわかる──そして忘れちゃいけないもう一人も。
「私も、お手伝いします」
シズキちゃんだ。神弾の対処を私に一任してくれてからこっち、唯一動きを見せなかった彼女が合流して私の横に構え立つ。おお、女神のあれだけ理不尽な様を見てもまったく気落ちしていないね。むしろ戦意がムンムンじゃないか。それにも驚いたけど、もっと驚きなのが。
「シズキちゃん……またちょっと変わった?」
内面から伝わる闘志だけじゃなく、外面にも明らかな変化があった。高校生らしい見た目から、なんか、もう少しだけ大人っぽくなっている。卒業間近かあるいは女子大生って感じ。私に追いつきかけていた身長も今ではほぼ同じ目線になっているし。その上で、一番変わったのはなんと言っても表情だ。女神が微笑みを消して鉄仮面めいた無表情になったのとは裏腹に、さっきまで険しい顔付きしかしていなかったシズキちゃんが──笑っている。余裕を感じさせる笑みを私に向けてきているのだ。
もちろん、私たちは試練という名の厳しい戦いを強いられているところだ。険しい顔付きってのはその最中にするものとしてこれ以上なく相応しくて、試練を課している側である女神ならともかく課されている側のこちらとしてはそういう表情になるのはごく自然なことだ。実際、私だってシズキちゃんから見ればそういう顔をしているんだろうしさ。
なのでこの、優雅ささえ感じさせる笑みのほうがおかしいっちゃおかしいんだけど……でもなんでだろうな。シズキちゃんの新しい顔と落ち着きぶりに私は、とても安心している。安心感を覚えている。勇気まで湧いてくるくらいに。
「嬉しいです。それは、私から見たハルコさんで。私がいつもハルコさんから貰っているものだから」
笑みを深めてシズキちゃんはそう言った。なんと、彼女から見た私はどうやら今のシズキちゃんみたいなもの、であるらしい。どんなに過酷な状況の中にいても笑みを絶やさずに挑んでいき、そして最後には勝利を捥ぎ取る。という傑物めいた女が私だと。いや、あのね。だから何度も言うけどそれはどこの英雄様ですかって話よ。謙遜でもなんでもなく私ってそんなすごいやつじゃねーって。
割といつのどの戦いにおいても笑う余裕なんてこれっぽちもなくて、ただただ我武者羅だった覚えしかないんだけど……ぶっちゃけシズキちゃんが見てる私は幻覚なんじゃないかとすら本気で疑っちゃっているんだけど、「そうではない」ととんでもなく強い意志での否定まで伝わってきているからには何も言うことなんてできない。
むう、こういう場面だと口を噤む以外にないってのは以心伝心の悪いとこかもしれない。言っても無駄だって言ってみる前からわかっちゃうもんだからさ。
まあ、いいさ。何はともあれ今のシズキちゃんが(恐ろしいまでに)頼もしいってことに変わりはない。すっかり中学生離れして大人のお姉さんになりかけているその見かけの通りに大いに頼りにさせてもらおうじゃないの。恥ずかしい話、皆のこの成長力を当てにしないと私だけじゃ何もできそうにないもんでね。
これだけの神力を操る、この女神を相手には。
「お話は済みましたか」
「本番だなんて言いながら待ってくれるのは気が利いていんね。優しさのつもり?」
「答える意義のない質問ですね」
「あは──よくおわかりで」
優しさだろうとなんだろうと、女神がどんなつもりであろうとなかろうと。一緒だ。女神のやることにも私たちのやることにもなんら影響はない。私たちは全身全霊で挑戦し、女神はそれを受け止める、跳ね除ける。それができなくなれば女神の負け。その前に足が止まってしまえば私たちの負け。単純明快、ただそれだけの勝負。ただそれだけの根競べ。
女神が本番だと言うなら……私たちだってここからが本番だ!
「神奏糸──激槍糸!」
神力強化バージョンの槍糸を作成、からの即発射。それに合わせてシズキちゃんも動いている。さらに鋭くなった変形加速はもはや彼女の身を覆うショーちゃんの流動が私の目には映らないレベルの速さで、それから生み出される加速力も異次元だった。さっきナゴミちゃんが私を庇うためにやった瞬間移動めいた高速移動にも劣らない劇的な速度で間を詰め、私が先に撃ち放った激槍糸にも追いつき、着弾の瞬間にタイミングを合わせてシズキちゃんも女神の横手から攻撃を加える。
「変形、内留激!」
ぎゅるりとここまで聞こえる流動音を奏でた拳が、しかし外見上にはなんの動きもなく突き出される。拳速こそ凄まじいが普通の打撃──というのは無論、あくまで外見上だけのこと。ミギちゃんで同じようにショーちゃんの特性を格闘に応用してきた私には内部で何が起きているのかすぐにわかった。
あれは私が辿り着いた究極の変形蹴りであるところの無変蹴り! と、同じ理屈の超打撃! それが進化した槍糸と共に女神をしかと捉えて──。
「っくぅ、これも止めるか……!」
片手ずつで私の槍糸もシズキちゃんの必殺拳も、がっしりと掴まれて防がれていた。




